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1話-1

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 桃色のジェシカと薄紫のノア。
 天界の王国エンジェリカに暮らす貧しい天使二人組が、アンナ王女に出会うずっと前のお話。

 ◆

「ノア! 行くよっ!」
「待ってー。ジェシカ速いー」
「もう待てないっ! 食料持ったから飛ぶよっ!」
「あー。置いていかないでー」

 あたしとノアは、幼い頃に出会ってからずっと一緒に暮らしてきた。朝昼の活動も盗みも、夜寝るのだって、全部二人で一緒にする。
 あたしたちに男女の垣根なんてない。

 食事はいつも店から盗んだパンや果物をちょっとだけ。手に入れた分を二人で半分ずつ食べる。成果によっては、丸一日まともな食事をしない日もあった。
 お風呂屋へ行くお金はもちろんないので入浴は主に川で行った。入浴と言っても、軽く体を洗うくらいのものだが。
 夜は毎日森で野宿する。冬場は、町のゴミ捨て場で拾ったボロボロの毛布に二人でくるまり、寒さを凌いだ。たまにマッチを盗み、火を起こして温もったりもした。

 子ども二人でまともな生活ができるはずもなく——あたしとノアはもうずっと貧しい生活をしている。

「いやーっ、今日は食べ物いっぱい食べられるねっ! やったね、ノア」

 今日はパンとリンゴを二つずつも手に入れられた。ここ数日あまり良い成果が上がっていなかったので、こんなご馳走は久々だ。
 実はあたしが本当に好きな果物はモモなんだけど、エンジェリカではモモは高価なので滅多に食べられない。そもそも果物全般が高価だ。だからリンゴでも十分嬉しい。

「ジェシカが嬉しいと僕も嬉しいよー。リンゴはジェシカにあげるからねー」
「え、いいの?」
「うん。家族だからねー」

 薄紫の髪と羽を持つノアは、まだ赤子のうちに親に売られ、「天使屋」という店で売り物にされていたらしい。
 そんな不幸な身の上でありながら、ノアはとてもまったりした性格だ。いつも穏やかにニコニコしているし、口調も動きものんびりしている。

 そんな彼は「家族」というものに憧れている。

 あたしも小さな頃に母親に捨てられるという経験をし今に至っているわけなのだが、ノアの場合は親の顔を一度も見たことがない。そういう意味では、あたしよりノアの方がずっと不幸なのかもしれないと思う。
 もっとも、彼の呑気な言動はそんなことを一切感じさせないが。

「そういえばさ、天使屋にいた頃のアンタはどんな生活をしてたの?」

 皮つきのままのリンゴを直接かじりながらノアに尋ねる。

「うーん。普通の生活だよー」
「普通って言ってもよく分かんないじゃん。もっと具体的に説明してよ!」
「具体的ってー?」
「朝起きて何して何して……、夜は何して寝る、みたいな! つまり、もっと詳しい説明をしてってこと!」
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