上 下
44 / 44

2作品

しおりを挟む
『獣の匂いがする婚約者が婚約破棄を告げてきました。~私は貴方とさよなら、貴方はこの世に……~』

 婚約者エヴェロスは獣の匂いがする。

 なぜだろう。
 よく分からない。

 けれど彼は臭い。

 とにかく匂うのだ――まるで獣の肉が放置されて腐ったかのような。

 そんな彼がある日突然告げてくる。

「お前との婚約だけどな、破棄することにした」

 あまりにも急なことで。

「え……」
「はは、驚いたみたいだな」
「また急ですね」
「君は媚びが足りない」

 けれども悲しみはない。

 だってべつにそれでもいいのだ。
 むしろ嬉しいくらい。

 この臭さ、不快な匂いから、もうすぐ解放されるということなのだから。

「分かりました」
「覚悟できたか?」
「構いません」
「受け入れる、ということだな?」
「はい」

 こうして私とエヴェロスの婚約は破棄となった。

 あまりにも唐突な終わり。
 けれども絶望はしない。

 むしろそこにあるのは歓喜。

 彼からの解放。
 それは偉大な奇跡。

 私は自由だ――!


 ◆


 あれから二年。

 私は日々幸せに暮らしている。

 もうすぐ結婚する予定の人はいるがその人は臭くないし一緒にいて楽しいと感じられるような男性。

 だから未来への希望を抱けている。

 もう迷いはない。
 運命から逃れたいと思うことだってない。

 私は私で道を選び生きてゆく。

 誰かのためとか。
 定めに従ってとか。

 そういう生き方ではない生き方を私は選ぶ。

 ちなみにエヴェロスはというと、あの後早朝の山道で熊に襲われて餌となってしまいそのまま死亡してしまったそうだ。

 熊とは何とも恐ろしい獣である……。

 出会ってしまえばおしまい。

 殺されるか。
 負傷するか。

 いずれにせよ無事で逃げきることは難しいのだろう。

 きっと……。

 ああ、怖い怖い。


◆終わり◆


『十歳くらい年上の婚約者から突然婚約破棄されたのですが、その後意外な再会に恵まれまして……?』

 二十歳になってすぐ、十歳くらい年上の婚約者ができた。

 しかし彼は私をあまり気に入っていなかったようで。
 ある夏の日に突然婚約破棄宣言をしてきた。

 その時は内心「えええー……何それ、勝手過ぎー」とか思った、のだが。

 彼と離れてから数ヶ月。
 私のもとへ良縁が舞い込んできた。

 昔近所に住んでいた男の子が私の前に現れたのである。

「久々だね」
「ええ」
「大きくなったね?」
「まぁ……それはそうでしょ、あの頃からだと十年以上経ってるもの、成長くらいするでしょ」
「そうだね。僕もちょっと背伸びたかな」
「ちょっとってレベルじゃないわ……」

 久しぶりに会うのにそんな気がしなくて。
 再会した日は話をしていたらあっという間に数時間経ってしまっていたほどで。

 その後彼から想いを告げられて。

「ずっと好きだったんだ」

 ――川の水に押し流されるかのように、彼と婚約することになった。


 ◆


「今日は良い天気ね」

 あれから何年か過ぎた。
 私たちは今もお互いのことを想い合いながら生きている。

「うん、そうだね」
「晴れは好き」
「僕もだよ」
「そう。よかったらだけれど……今日どこか行かない?」
「え! いいの!」
「ふと思ったの」
「やったぁ! うん! そうしよ! そうしたい!」

 あの婚約破棄は不幸な出来事ではなかった。

 私は幼馴染みである彼と生きてゆく。
 いつまでも幸せに。

 この幸福、この居場所、誰にも壊させはしない。


◆終わり◆
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処刑直前ですが得意の転移魔法で離脱します~私に罪を被せた公爵令嬢は絶対許しませんので~

インバーターエアコン
恋愛
 王宮で働く少女ナナ。王様の誕生日パーティーに普段通りに給仕をしていた彼女だったが、突然第一王子の暗殺未遂事件が起きる。   ナナは最初、それを他人事のように見ていたが……。 「この女よ! 王子を殺そうと毒を盛ったのは!」 「はい?」  叫んだのは第二王子の婚約者であるビリアだった。  王位を巡る争いに巻き込まれ、王子暗殺未遂の罪を着せられるナナだったが、相手が貴族でも、彼女はやられたままで終わる女ではなかった。  (私をドロドロした内争に巻き込んだ罪は贖ってもらいますので……)  得意の転移魔法でその場を離脱し反撃を始める。  相手が悪かったことに、ビリアは間もなく気付くこととなる。

私の可愛い悪役令嬢様

雨野
恋愛
 私の名前はアシュリィ。どうやら異世界転生をしたらしい。  私の記憶が蘇ったきっかけである侯爵令嬢リリーナラリス・アミエル。彼女は私の記憶にある悪役令嬢その人だった。  どうやらゲームの世界に転生したみたいだけど、アシュリィなんて名前は聞いたことがないのでモブなんでしょうね。その割にステータスえらいことになってるけど気にしない!  家族の誰にも愛されず、味方がただの一人もいなかったせいで悪堕ちしたリリーナラリス。  それならば、私が彼女の味方になる。侯爵家なんてこっちから捨ててやりましょう。貴女には溢れる才能と、無限の可能性があるのだから!!  それに美少女のリリーをいつも見ていられて眼福ですわー。私の特権よねー。  え、私?リリーや友人達は気遣って美人だって言ってくれるけど…絶世の美女だった母や麗しいリリー、愛くるしい女主人公に比べるとねえ?所詮モブですからー。  第一部の幼少期はファンタジーメイン、第二部の学園編は恋愛メインの予定です。  たまにシリアスっぽくなりますが…基本的にはコメディです。  第一部完結でございます。二部はわりとタイトル詐欺。 見切り発車・設定めちゃくちゃな所があるかもしれませんが、お付き合いいただければ嬉しいです。 ご都合展開って便利ですよね! マナーやら常識があやふやで、オリジナルになってると思うのでお気をつけてください。 のんびり更新 カクヨムさんにも投稿始めました。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

処理中です...