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『獣の匂いがする婚約者が婚約破棄を告げてきました。~私は貴方とさよなら、貴方はこの世に……~』

 婚約者エヴェロスは獣の匂いがする。

 なぜだろう。
 よく分からない。

 けれど彼は臭い。

 とにかく匂うのだ――まるで獣の肉が放置されて腐ったかのような。

 そんな彼がある日突然告げてくる。

「お前との婚約だけどな、破棄することにした」

 あまりにも急なことで。

「え……」
「はは、驚いたみたいだな」
「また急ですね」
「君は媚びが足りない」

 けれども悲しみはない。

 だってべつにそれでもいいのだ。
 むしろ嬉しいくらい。

 この臭さ、不快な匂いから、もうすぐ解放されるということなのだから。

「分かりました」
「覚悟できたか?」
「構いません」
「受け入れる、ということだな?」
「はい」

 こうして私とエヴェロスの婚約は破棄となった。

 あまりにも唐突な終わり。
 けれども絶望はしない。

 むしろそこにあるのは歓喜。

 彼からの解放。
 それは偉大な奇跡。

 私は自由だ――!


 ◆


 あれから二年。

 私は日々幸せに暮らしている。

 もうすぐ結婚する予定の人はいるがその人は臭くないし一緒にいて楽しいと感じられるような男性。

 だから未来への希望を抱けている。

 もう迷いはない。
 運命から逃れたいと思うことだってない。

 私は私で道を選び生きてゆく。

 誰かのためとか。
 定めに従ってとか。

 そういう生き方ではない生き方を私は選ぶ。

 ちなみにエヴェロスはというと、あの後早朝の山道で熊に襲われて餌となってしまいそのまま死亡してしまったそうだ。

 熊とは何とも恐ろしい獣である……。

 出会ってしまえばおしまい。

 殺されるか。
 負傷するか。

 いずれにせよ無事で逃げきることは難しいのだろう。

 きっと……。

 ああ、怖い怖い。


◆終わり◆


『十歳くらい年上の婚約者から突然婚約破棄されたのですが、その後意外な再会に恵まれまして……?』

 二十歳になってすぐ、十歳くらい年上の婚約者ができた。

 しかし彼は私をあまり気に入っていなかったようで。
 ある夏の日に突然婚約破棄宣言をしてきた。

 その時は内心「えええー……何それ、勝手過ぎー」とか思った、のだが。

 彼と離れてから数ヶ月。
 私のもとへ良縁が舞い込んできた。

 昔近所に住んでいた男の子が私の前に現れたのである。

「久々だね」
「ええ」
「大きくなったね?」
「まぁ……それはそうでしょ、あの頃からだと十年以上経ってるもの、成長くらいするでしょ」
「そうだね。僕もちょっと背伸びたかな」
「ちょっとってレベルじゃないわ……」

 久しぶりに会うのにそんな気がしなくて。
 再会した日は話をしていたらあっという間に数時間経ってしまっていたほどで。

 その後彼から想いを告げられて。

「ずっと好きだったんだ」

 ――川の水に押し流されるかのように、彼と婚約することになった。


 ◆


「今日は良い天気ね」

 あれから何年か過ぎた。
 私たちは今もお互いのことを想い合いながら生きている。

「うん、そうだね」
「晴れは好き」
「僕もだよ」
「そう。よかったらだけれど……今日どこか行かない?」
「え! いいの!」
「ふと思ったの」
「やったぁ! うん! そうしよ! そうしたい!」

 あの婚約破棄は不幸な出来事ではなかった。

 私は幼馴染みである彼と生きてゆく。
 いつまでも幸せに。

 この幸福、この居場所、誰にも壊させはしない。


◆終わり◆
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