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兵士として戦場へ出ていった婚約者は帰ってきた時には別人のようになってしまっていました。~もう分かり合える日は来ない~
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兵士として戦場へ出ていった婚約者ローイングは「この丘にチューリップが咲く頃に必ず帰ってくるからその時はまた一緒に」と言ってくれていた、なのに――。
「オレ、お前との婚約は破棄することにしたから」
「えっ……」
帰ってきた彼は別人のようになっていて。
「どういうことなの?」
「オレはさ、気づいたんだよ。都会に出て、さ。世の中にはお前なんかと比べ物にならないくらいに美しくて魅力的な女がたくさんいる」
「……だから婚約破棄?」
「そうそうそういうこと」
「そんな! あまりにも勝手だわ。どうしてそんなことが言えるの、できるの」
彼はもうかつての彼ではなかった。
「知るかよ、そんなこと。くっだらねぇ。理由なんていらねぇんだよ。男がより魅力的な女を選ぶのは当然のことだろ? 当たり前のことだろ? それ以上でもそれ以下でもねぇんだよ」
共に歩んでいたローイング。
共に生きるはずだったローイング。
いつも小さなことで笑い合えた彼は、もう、どこにもいない。
「じゃあな、永遠にばいばい」
――こうして私たちの関係は理不尽にも壊されることとなったのだった。
◆
帰還から一ヶ月、ローイングは死亡した。
何でも彼は酒場で出会った怪しい女に騙され借金させられたうえその返済が遅いことを理由に内臓を抜かれてしまったそう。
で、その内臓を抜く手術の終了直後に出血多量で落命したそうである。
出血多量で死ぬなんて恐ろしい……。
普通に考えて想像したくもないくらいの出来事だ。
けれどもそれはまぎれもない事実。
そして彼がこの世を去ったこともまた決して書き換えることのできない事実であり現実なのである。
私との婚約を破棄していなければ、元々の話の通り私と結婚して平凡に暮らしていたなら、きっと今も彼は穏やかに生きられていただろうに……。
でも、この世界には、もし、はない。
彼は彼自身が選んだ道を行った。
そしてその先には死が待っていた。
……ただそれだけのこと。
どんな悲しみも、どんな絶望も、そして死も。すべては彼自身の決定と行動が招いたもの。すべての人類の生にそれが当てはまるとは思わないけれど。でも、少なくとも彼に関しては、それが正解だと思う。彼の選択が彼を死へ追いやった。それはどうあがいても変わることのない絶対的な事実である。
だから自業自得なのだ。
可哀想ではない。
気の毒でもない。
全部、彼の責任。
◆
「今年もチューリップ見に行こうよ」
「いいわね」
「毎年見る、って、決めてたよね? 確か」
「ええそうなの。前の婚約者と色々あって。だから嫌みみたいな感じで毎年見に行ってやろうって思ってるの」
あれから何年か経って、私は今、一人の男性の妻となっている。
私の夫は少々年上。
でもだからこそ心に余裕がある人でどんな時も穏やかに接してくれる。
包容力だってあるし、とても良い人だ。
「僕チューリップ好きだし、嬉しいよ」
「合わせてくれてありがとう」
「いやいや! 僕の方こそいつも色々お世話になってて! だから、ほんと、気にしないで? それに、こういうのは僕がしたくてしてることでもあるから」
彼と出会えたから、幸せな今日がある。
その運命に感謝して。
今ある愛おしいものを大切に抱き締めながら生きてゆきたい。
「ありがとう、本当に」
「いえいえ」
「ええと……じゃあ、どうする? いつ行く?」
「日程を決めようか」
「今週くらい?」
「そうだね。平日がいいと思うよ。休日はどこも混雑するから」
「確かにそれはそうね」
この先にもきっと様々なことがあるだろう。
良いことばかりではないかもしれない。
悪いことや悲しいことや辛いことなんかもあるかもしれない。
でも、それでも、彼となら手を取り合って進んでゆけると思う。
「じゃあこの日とかどう?」
「そうだね」
「予定大丈夫?」
「うん、その日は特に何もないよ」
愛する人と共に楽しいことを重ねて。
「じゃあこの日にしましょ!」
「オッケー。すぐ決まったね。ありがとう」
そうやって生きてゆきたい。
「あ……勝手に決めちゃってごめん……」
「いやいやいやいや! なーんにも悪くないよ! 謝らないで!」
どんな時も思いやりを忘れず。
どんな時も相手の存在を確かめながら。
「本当? 不快に思ってない?」
「思ってるわけないよ! 不快に、なんて!」
「そう。……ありがとう、良かった、そういうことなら安心したわ」
楽しいことをたくさんしよう。
良い思い出を増やして積み重ねてゆこう。
「心配性だなぁ」
「相手の気持ちは分からないものだもの、時々確認したくなるのよ」
「そっか」
「ええ」
「色々考えてくれているんだね」
「身勝手にならないように気をつけようと思ってて……」
◆終わり◆
「オレ、お前との婚約は破棄することにしたから」
「えっ……」
帰ってきた彼は別人のようになっていて。
「どういうことなの?」
「オレはさ、気づいたんだよ。都会に出て、さ。世の中にはお前なんかと比べ物にならないくらいに美しくて魅力的な女がたくさんいる」
「……だから婚約破棄?」
「そうそうそういうこと」
「そんな! あまりにも勝手だわ。どうしてそんなことが言えるの、できるの」
彼はもうかつての彼ではなかった。
「知るかよ、そんなこと。くっだらねぇ。理由なんていらねぇんだよ。男がより魅力的な女を選ぶのは当然のことだろ? 当たり前のことだろ? それ以上でもそれ以下でもねぇんだよ」
共に歩んでいたローイング。
共に生きるはずだったローイング。
いつも小さなことで笑い合えた彼は、もう、どこにもいない。
「じゃあな、永遠にばいばい」
――こうして私たちの関係は理不尽にも壊されることとなったのだった。
◆
帰還から一ヶ月、ローイングは死亡した。
何でも彼は酒場で出会った怪しい女に騙され借金させられたうえその返済が遅いことを理由に内臓を抜かれてしまったそう。
で、その内臓を抜く手術の終了直後に出血多量で落命したそうである。
出血多量で死ぬなんて恐ろしい……。
普通に考えて想像したくもないくらいの出来事だ。
けれどもそれはまぎれもない事実。
そして彼がこの世を去ったこともまた決して書き換えることのできない事実であり現実なのである。
私との婚約を破棄していなければ、元々の話の通り私と結婚して平凡に暮らしていたなら、きっと今も彼は穏やかに生きられていただろうに……。
でも、この世界には、もし、はない。
彼は彼自身が選んだ道を行った。
そしてその先には死が待っていた。
……ただそれだけのこと。
どんな悲しみも、どんな絶望も、そして死も。すべては彼自身の決定と行動が招いたもの。すべての人類の生にそれが当てはまるとは思わないけれど。でも、少なくとも彼に関しては、それが正解だと思う。彼の選択が彼を死へ追いやった。それはどうあがいても変わることのない絶対的な事実である。
だから自業自得なのだ。
可哀想ではない。
気の毒でもない。
全部、彼の責任。
◆
「今年もチューリップ見に行こうよ」
「いいわね」
「毎年見る、って、決めてたよね? 確か」
「ええそうなの。前の婚約者と色々あって。だから嫌みみたいな感じで毎年見に行ってやろうって思ってるの」
あれから何年か経って、私は今、一人の男性の妻となっている。
私の夫は少々年上。
でもだからこそ心に余裕がある人でどんな時も穏やかに接してくれる。
包容力だってあるし、とても良い人だ。
「僕チューリップ好きだし、嬉しいよ」
「合わせてくれてありがとう」
「いやいや! 僕の方こそいつも色々お世話になってて! だから、ほんと、気にしないで? それに、こういうのは僕がしたくてしてることでもあるから」
彼と出会えたから、幸せな今日がある。
その運命に感謝して。
今ある愛おしいものを大切に抱き締めながら生きてゆきたい。
「ありがとう、本当に」
「いえいえ」
「ええと……じゃあ、どうする? いつ行く?」
「日程を決めようか」
「今週くらい?」
「そうだね。平日がいいと思うよ。休日はどこも混雑するから」
「確かにそれはそうね」
この先にもきっと様々なことがあるだろう。
良いことばかりではないかもしれない。
悪いことや悲しいことや辛いことなんかもあるかもしれない。
でも、それでも、彼となら手を取り合って進んでゆけると思う。
「じゃあこの日とかどう?」
「そうだね」
「予定大丈夫?」
「うん、その日は特に何もないよ」
愛する人と共に楽しいことを重ねて。
「じゃあこの日にしましょ!」
「オッケー。すぐ決まったね。ありがとう」
そうやって生きてゆきたい。
「あ……勝手に決めちゃってごめん……」
「いやいやいやいや! なーんにも悪くないよ! 謝らないで!」
どんな時も思いやりを忘れず。
どんな時も相手の存在を確かめながら。
「本当? 不快に思ってない?」
「思ってるわけないよ! 不快に、なんて!」
「そう。……ありがとう、良かった、そういうことなら安心したわ」
楽しいことをたくさんしよう。
良い思い出を増やして積み重ねてゆこう。
「心配性だなぁ」
「相手の気持ちは分からないものだもの、時々確認したくなるのよ」
「そっか」
「ええ」
「色々考えてくれているんだね」
「身勝手にならないように気をつけようと思ってて……」
◆終わり◆
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