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『面倒臭い母、消えてほしいと願っていたのですが……これはまさかの、奇跡!?』

 母は娘である私を良く思っていない。

 機嫌が良い時だけはそこそこ親切ではあるのだが、少しでも機嫌が悪くなると当たり散らし毒を吐いてくる。
 また、髪が若干乱れていれば「乞食みたい」などと侮辱してくるし、僅かにでも意見がすれ違えば「非人道的ね」などと悪意を持った言葉を投げつけてくるのだ。

 そんな母と共に過ごすのはかなり大変で、日々ストレスまみれだった。

「なによアンタその目つき! 生意気よ! 娘のくせに、ふざけないでっ。睨むな!」
「……睨んでいません」
「ふざけるなクソ女! 生んでもらっておいて生意気な態度をとるな! アンタは下! なの! 分かっている? 大人しく母に従いなさいっ」

 彼女と共に過ごす日々、それはまさに地獄そのものである。

 ……だが、そんな暗い日常にも、やがて終わりが訪れることとなる。

 母の浮気が父にばれたのだ。
 それによって母は父から離婚を言い渡されることとなる。

 明確にやらかしていて、それでも被害者面していた母は、そんな時に限って私を頼り「アンタは味方よね!?」とか言って縋りついてきた。

 ……もう付き合うつもりはない。

 だから私は母を突き放した。

「私、母さんの味方じゃないわ」

 当然だろう。
 これまでずっと酷いことばかり言われてきたのだ。

「都合のいい時だけすり寄ってこないで」

 その後家から追い出された母は、浮気相手のところへ行くも「生活の面倒までみる気はない、そもそも遊びだし」と同棲することを拒まれ、行き場をなくしたようだった。

 で、やがて、路上で凍死したそうだ。

 でも可哀想なんて少しも思わない。
 だって彼女は私をずっと傷つけてきた人だから。


 ◆


 あれから数年、私は、高貴な家柄の男性と結婚した。

 母がいたらきっとまたややこしいことになっていただろう。だからこそ、母がいなくなっていて良かった、と心から思う。

 私が幸せに生きるために最も不要なのは母という存在だったのだ。


◆終わり◆


『婚約者であった彼はある日突然非情にも私を切り捨てました。~その先で、私は幸せになるのです~』

 婚約者ロームスはある日突然非情にも私を切り捨てた。

「お前みたいな地味な女、要らねぇ。……てことだから、婚約は破棄とする」

 彼はさらりとそう告げて、私との関係を一方的に終わらせた。

 どうしてそんなことを言うの?
 なぜそんなに勝手なの?

 言いたいことはたくさんあって、けれども、それを口にすることはできないままで。

「じゃあな。……永遠に、ばいばい」

 流れに逆らうことはできないまま、私は彼の前から去ることとなったのだった。


 ◆


 婚約破棄されてからしばらくは精神的に落ち込んだ。
 やらかしがあったわけではないしこちらには何の非もないはずなのに理不尽に捨てられたのがもうとにかくショックだったのだ。

 だが、それから少し時が流れて、私のもとに良い話が舞い込んでくる。
 それは広大な土地を持つ領主の一人息子からの婚約希望であった。

 そこから人生は大きく変わってゆくこととなった。

 そう、もちろん、良い方向へと。

 私の人生は薔薇色に染まった。
 歓迎され、愛され、それまでとはまったく異なる世界で息をする。
 それはとてつもなく幸せな時間。
 もう、もう、呼吸をするように幸せの塊を飲み込むような毎日であった。

 ちなみにロームスはというと、私と婚約していた頃から裏でこっそり付き合っていた女性にプロポーズし結婚しようとするも親をはじめとする周囲から厳しく反対され結局その女性との関係は壊れてしまったそうで……それによって彼の精神は崩壊したようだ。

 ……ま、浮気相手だったのなら上手くいかなくなってざまぁなのだが。

 なんにせよ、今の彼にはもう正常な精神はないようである。

 でも、そうあるべきだと思う。

 だってそうだろう?
 彼は浮気していたし私を理不尽に傷つけたのだから。
 そんな人が幸せになれるのか?
 まさか、そんなこと、あるわけがないだろう。


◆終わり◆


『婚約破棄の記憶は今も確かに。~貴方を許さない~』

 貴方を許さない。
 そう、あまりにも身勝手だった貴方を、私は――。

 かつて私たちは婚約者同士だった。
 その関係性は決して揺らぐものではないと信じていた。

 けれどもそれは間違いだった。

 私がただそう思っていただけ。
 私がただそう信じていただけ。

 結局貴方は私に対して特別な感情を抱いてはいなかった。

 ……いや、そんなことは知っていた。

 彼が私を好きでないことなんて。
 彼が私を愛していないことなんて。

 そんなことは分かっていたのだ。

 でも、それでも、私たちは婚約者同士だから。その関係が壊れることはないと思っていた。そういうものなのだと、それが当たり前なのだと、何の迷いもなくそう思っていた。どちらかがやらかした、なんてことにならない限り、婚約破棄なんてことは起こらないものと思い込んでいた。

 だが彼は。

 もう要らない。
 きみは僕にとって必要な人間ではない。

 ――そう、はっきりと述べてきたのだ。

 こちらは理由を聞こうとしたけれど、彼は不機嫌まるだしの顔をしていて、聞くなと暗に圧をかけてきているかのようであった。

 貴方は、貴方がしたことが酷いことであったと、理解している?

 あまりにも酷いわ。
 どこまでも心ない。

 だから、貴方を許さない。

 そう、あまりにも身勝手だった貴方を、私は――。


◆終わり◆
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