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美貌を持って生まれた女ですが……婚約者には愛されませんでした!?

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「ミレーネちゃんはすごいなぁ」
「美しいわね、ほんと好き。まるで女神のようよ。うっとりするわ」
「魅力的過ぎるッ」
「神が生んだ奇跡的な作品……みたいな感じよね。感動しちゃう。眺めてるだけで涙が出そうだわ」

 生まれながらにして美しい容姿を持っていた私ミレーネは、その姿形の美しさを人々から称賛されながら生きてきた。

 特別扱いされすぎて若干複雑、なんてところはあったけれど。
 でも褒められ愛されることが嬉しいことであるということに違いはなくて。
 だから私は幸せに育ってきた。
 いろんな意味で平均に比べて恵まれていた方なのだと思う。

 だが、そんな私も。

「ロット、どうして、女の人といちゃついているの……? しかも、そんな建物から出てきて……」

 婚約者ロットには愛されなかった。

「あらぁ、ロットぉ、何この人ぉ?」
「ミレーネ……ど、どうして……ここに……!?」

 その日私はたまたま遭遇した。
 ロットが見知らぬ女性といかがわしいことをするための建物から出てきたところに。

「ロット、もしかして、その女の人とそういう関係なの?」
「な、何だよ! 遊んでただけだよ! 話をしてたんだ! 健全な関係!」

 ロットはあわあわなりながら否定するけれど。

「貴女こそどなたなんですかぁ?」

 そこへ女性が口を挟んできて。

「え……」

 硬直する私を見て愉快そうな目の色をした彼女は。

「お姉さん、ロットとどういう関係なんですかぁ? 幼馴染み、とかぁ?」
「婚約者よ!」
「……ふぅん、そうなんですねぇ」

 やがて。

「あたしぃ、ロットと愛し合ってますからぁ」

 衝撃的な事実を告げた。

 可憐な唇から飛び出したのは。

「貴女、愛されてないんじゃないですかぁ? うふふ。きっと形だけの婚約者なんですよぉ。だってぇ、彼、あたしのこと愛してるっていつも言ってますよぉ」

 そんな毒のある言葉で。

「お姉さん可哀想ですねぇ、愛されなくって。けど、もう分かったでしょぉ? ロットにはあたしがいればそれでいいのぉ。だ、か、ら……彼の隣、譲ってくれますよねぇ? うふふ……」

 また、彼女がこちらへ向けてきたのは、この世の悪意を長時間鍋で煮込んだような黒い笑みだった。

「貴女は要らない女なんですよぉ」

 するとやがて諦めたようにロットが口を開く。

「……あ、ああ、そうだ。そういうことなんだ。俺はミレーネより彼女の方が好きなんだ」
「本気で言ってる?」
「当たり前だろ! そんなくだらない嘘、つくわけないだろ!」
「そう……残念だわ」

 ため息を一つこぼせば。

「てことで、婚約は破棄な!」

 彼はいきなり宣言してきた。

「それは……貴方が言えることではないはずよ」
「ミレーネは俺を睨んだ! それが理由だ! 無礼な女だったから婚約破棄した、ということだ!」
「他に女を作っておいて、自分が裏切っておいて、よくそんなことが言えるわね」

 ……もう、我慢できない。

「裏切りの罰を受けるのは貴方よ、ロット」

 冷ややかに言い放って、私は静かにその場から離れた。

 あとはすべきことをしてゆくだけ。

 そこに感情は不要。

 それに、彼の裏切りについてあれこれ考えても不快になるばかりだから、そんな無駄なことはなるべくしないようにしておこうと思う。

 今はただ、私がすべきことをして、話を着々と進めてゆけばそれでいいのだ。

 その後私は両親の協力も得てロットとの婚約を破棄へと運ぶことができた。

 一人で戦うことは難しい。そこには恐怖も存在するから。けれど私は一人ではなかった。父と母がどんな時も味方でいてくれたから。だから立ち向かえた。理不尽なこと、酷いこと、それを悪事であると証明する戦いに迷いなく挑めたのだ。

 そうして私は勝利を収めた。

 勝ったのだ、私は。

 そう、私は、何も間違えてはいなかった。

 ロットとあの女性からそれぞれ償いのお金をもぎ取ることができた。
 お金を貰えたこともそうだけれど、厳密には、それよりも裏切りは罪であると証明できたことが嬉しかった。

 ちなみに二人はというと、慰謝料支払いの件によって喧嘩になり別れたようだ。

 ま、でも、自業自得なのだからどうなろうがしったこっちゃない。

 私は正しい道を生きているだけ。
 時に揺らぎ不安になることもあることはあるけれど、でも、こちらに非は一切ないのだ。

「ミレーネの尊厳が守られて良かった」
「ありがとう父さん、支えてくれて、色々サポートしてくれて」
「いやなに、父親として当然のことをしたまでだ」

 だから、前を向く。

「母さんもありがとう。あと、色々迷惑かけて……ごめんなさい」
「いいのよべつに」
「でも……本当に、たくさん、心配までさせてしまって……」
「わたしはどんなときもミレーネの幸せを願っているわ」

 支えてくれる人への感謝を忘れないよう努めながら。

 そしていつの日か、きっと掴もう。

 本当の、幸せを。


 ◆


 あれから何年か経った。
 私は隣国の王子からアプローチされ、結婚した。

 そうして今は王城暮らし。

 まだまだ慣れないことも多いけれど、周りには様々な面でサポートしてもらえていて、そのため何とか生き抜けている。

 あと、段々王城の文化にも馴染んできつつある。

 夫となった彼は私の容姿についても褒めてはくれるけれど、私をそれだけで見て評価しているわけではない。

 彼は私の中身も見て、愛してくれている。

 容姿はあくまで私を構成する一つの要素。
 それを彼は理解しているのだ。


◆終わり◆
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