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ある晩餐会にて、婚約者が婚約破棄を告げてきました。しかも会場からも追い出されてしまったのです……が?

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「エリーザベータ! 貴様との婚約、本日をもって破棄とする!」

 婚約者ロマニスクはある晩餐会にてそんな宣言を発する。

 あまりにも突然の宣言。
 その場に居合わせた誰もが戸惑いの色を面に滲ませている。

「ロマニスクさま……何あれ、ちょっと意味不明ね……」
「いきなり婚約破棄とか言い出すとか子ども?」
「馬鹿みたい、って、思ってしまうわどうしても」
「こういう皆が楽しんでる場で婚約破棄とかそういうこと言い出さないでほしいわよねぇ、せっかくの時間が、晩餐会が台無しじゃないの」

 晩餐会参加者たちはそんなひそひそ話をしていた。

「エリーザベータ、貴様には価値などない!!」
「いきなり何を仰るのですか?」
「つ、つまり! もう貴様は要らんということだ! 今すぐ消えろ、と、そう言いたいだけだ!」
「なぜ婚約破棄なのか、理由を説明してください。私が何をしましたか? 私にどういった非がありますか?」

 冷静に言葉を返せば、ロマニスクは変に慌て出す。

「う、う、うるさいッ!! 説明する義務なんてないだろ!? 婚約破棄するって決定はなぁ! もう絶対なんだよ! 男が決めればそれが絶対的な決定、当たり前だろうが!!」

 何だか怪しいなぁ……。

「とっ、と、とととっ……とにかく! 貴様! さっさとここから去れ! 婚約破棄された女には、晩餐会に参加し続ける権利はないのだから!! わ、わわ、分かったか!? 分かったならすぐに出ていけ! いっ、いまっ、今すぐにっ! 早く! たっ……た、たた、立ち去れよ! 目の前から消えてくれ、いや、消えろ! ほら早くッ!!」

 こうして私は婚約破棄されたうえ晩餐会の会場からも追い出されてしまった。

「ロマニスクさま……何あれ……ちょっと引くわ……」
「癇癪起こすとか子ども?」
「馬鹿みたいね、呆れるわ」
「こういう社交の場で婚約破棄とか何とか言ったうえぎゃあぎゃあ騒ぐのはやめてほしいものねぇ、迷惑の極みだわ」

 だがその帰り道。

「少しよろしいでしょうか?」
「え……あ、はい」
「貴女がエリーザベータさまですね」
「え、っと……その、貴方は?」
「ああそうでした、いきなり名乗りもせず失礼しました。わたしは帝国領主のカープストンと申します」

 カープストン、といえば、確か隣国である帝国の広大な領土を治めている領主だった……ような?

 でも、また、そんな人がどうして私に?

 いやそもそも帝国の人がここにいるのがよく分からないし。
 しかも私なんかに話しかけてくるというのも理解が追いつかない。

「失礼ですが、婚約破棄されたそうですね」
「はい」
「よければ、なのですが……」
「何でしょうか」

 怪しみつつ対応していると。

「わたしのもとへ嫁いではくださいませんか」

 彼の口から飛び出してきたのは、心臓を爆発させかねないほどの威力のある言葉であった。

 私はただ硬直することしかできなかった。

 あまりにも唐突。
 あまりにも想定外。

 脳の動きは完全に停止、唇が訳もなく小刻みに震える。

 だが。

「実は、昔、この国に来ていて貴女に救われたことがあるのです」

 そう聞かされて、少しだけ硬直から解放される。

「えっ。そうなのですか?」
「はい、実は、その時わたしは親についてこの国へ来ていたのですが、空が綺麗だったのでぽけーっとしてしまっていて迷子になってしまったのです」

 過去の記憶へとアクセスして。

「あ……!」

 一分も経たず答えを出す。

「思い出していただけましたか?」

 少し頬を緩めるカープストン。

「も、もしかして、十年以上前の……?」
「そうです」
「あの凄まじく泣いていた!?」
「はい、はい、そうです」
「あの少年が貴方、カープストンさまだったのですか!!」
「ええそうです」

 ……そうか、私たち、もうずっと前に出会っていたのか。

 これをきっと人々は運命と呼ぶのだろう。


 ◆


 あれから一年。
 私は近い将来カープストンと結婚することを決め、家族で、帝国へと引っ越した。

 今はカープストンとそのご両親に色々お世話になっている。

 そうそう、ロマニスクはというと、あの後間もなく子を宿しているらしい女と結婚したそうだ。
 だがそれを知った別の女に激怒され、二人まとめて殺められてしまったそう。
 ちなみにその激怒した女というのは子を宿している女とは別にロマニスクに手を出されていた女だったのだそうだ。

 つまりロマニスクは私以外の複数人の女に手を出していたのだ。

 ……どこまでだらしない人なのだろう、まったく、呆れてしまう。

 とはいえ、彼がもうこの世界にいないというのは安堵するところではある。だってそれは、もう二度と彼の顔を見なくて済むということだから。他人の不幸を願うわけではないけれど。でも、彼に関しては、二度と会わなくていいと思えることは嬉しいことなのだ。死を願っていたわけではないけれど。


 ◆


 帝国へ引っ越して、数年。
 私はカープストンと結婚し帝国領主の妻となった。

「おはよう、エリー」
「カープはいつも朝早いわね」
「そうかな?」
「自覚はないのね」
「まぁ元々こんな感じだからね、よく分からないな」

 私たちの関係は良好。
 毎日はとても幸せ。

「ま、でも、なんにせよ、今日も貴方が元気そうで良かったわ」

 この世界にもし本当に神様がいるのなら、ありがとう、そう言いたい。

「これから仕事?」
「うん」
「頑張ってね! あ、そっか、手伝えることがあったらいつでも呼んでちょうだいね」
「エリーはいつもそう言ってくれるね」
「変かしら」
「ううん、嬉しいんだ。頼むことはあまりないけど。でも、共にあろうとしてくれる気持ちがとても嬉しいよ」

 夫婦である以上、支え合うのが当然のこと。
 でもこうして改めて感謝されればそれはそれで嫌な気はしない。

「取り敢えず朝食を。エリーもどう?」
「ぜひ!」
「じゃあ頼んでくるね」
「ヨーグルトがあるといいなぁ」
「エリーはほんと好きだね、ヨーグルト」
「ええ! だって美味しいんだもの!」
「じゃあ伝えておくよ」
「ごめん……わがまま言って……」
「まさか。わがままじゃないよ。希望を言ってもらえるのは嬉しいことだよ」


◆終わり◆
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