異世界恋愛作品集 ~生きていれば様々なことがありますが……負けたりはしません!~

四季

文字の大きさ
上 下
6 / 44

3作品

しおりを挟む
『ああ、また、雨が降る……。こんな日は思い出すわ。あの頃の記憶。』

 ああ、また、雨が降る……。

 こんな日は思い出すわ。
 あの頃の記憶。
 そう、愛していた人に切り捨てられて絶望の涙に打たれたあの頃を……。

 婚約者の彼を愛していたのに、それなのに、彼は私を愛しはせず。何をやらかしたわけでもないのに、彼は私を切り捨てた。とてつもなく身勝手で滅茶苦茶な理由をつけて。ただ他の女のところへ行きたいがために。

 それは私にとって人生最大の絶望だったの。

 胸が痛くて。
 息ができなくて。

 とても耐えられないくらい、死んでしまった方がましかもしれないと思うくらい、あの時期は辛かったわ。

 ……でも。

「おはよう」
「あ、おはよ」

 あの辛い時期があったからこそ、現在の夫、素晴らしい人柄の彼に巡り会えた。

「もう起きてたんだ? 早いね」
「ええ、目が覚めて」
「そうだったんだ。大丈夫? 悪夢でもみた?」
「いいえ」
「なら良かった」

 あの苦しみがあって、だからこそ、今のこの幸福を手にできているのだ。

 そう、すべての経験が糧となる。

 過去を越えて。
 幸せな現在、そして、未来へ。

 私はもう泣いてはいない。


◆終わり◆


『十年前のあの日、いきなり告げられたのは婚約破棄でした。~すべてを越えて、我が道を行く~』

 十年前のあの日、当時婚約していた相手であった彼から「お前との関係は終わりにする」と言ってきてさらに婚約破棄を宣言してきた。

 何でも彼は私ではない女性に惚れたそうで、それゆえに婚約破棄したくなったとのことであった。

 ……それだけならまだ良かったのだが。

 何を考えたのか彼は私のことを悪く言うための悪質な言葉を多数並べてきて――それゆえ、絶対に許せない、と、強く思った。

 侮辱してくる人。
 何もしていないのにまるでこちらが悪いことをしたかのように言う人。

 そういうのは私が最も嫌いな種の人間だ。

 だから許せなかった。
 もう何も言い返さなかったけれど。

 でも、絶対許さない、とは強く思っていた。

 ただ、彼との終わりが、今の私を生み出してくれている。

 それは確かなことだ。

 婚約破棄されてすぐに以前から興味を持っていた服飾の世界に飛び込んだ私は、そこで多くの仕事をこなし、さらに先進的なデザインで大成功して有名人となれた。

 案外悪くないかも、なんて思える未来が待ってくれていたから、私はもう過去のことを引きずってはいない。

 ある意味、彼には感謝しなくては。

 あ、そうそう。
 ちなみにだが。
 あの時私を切り捨てた彼は今はもうこの世には存在していない。

 というのも、彼は、惚れた女性にはめられて怪しい男のもとへ売られ内臓を抜かれてしまったのだそう。

 内臓を失った彼が生きているわけもなく。

 つまり、彼はとうに滅んだのである。

 許せない。
 その気持ちは今でも多少あるけれど。

 でもそこで立ち止まってはいられないから。

 大きな声で言おう。

 ざまぁ、と。

 そしてまた歩き出す。


◆終わり◆


『婚約者の浮気が発覚したのは、ある夏の日でした。~裏で私の悪口を言っているなんて酷い人ですね、もう終わりにしましょう~』

 婚約者ルヴェンズの浮気が発覚したのは、ある夏の日であった。

「好きだよお」
「んもぉ、ルーったらぁ、甘えたさぁん」

 その日私は街へ出掛けていた。
 そして見てしまったのだ。
 ルヴェンズが見知らぬ金髪の女性と路地裏で抱き合い唇を重ねている場面を。

「いっつもこうねぇ」
「だってえ、好きなんだもん」
「もぉ、やめなさいよぉ、婚約者いるんでしょぉ?」
「いるけど、あんなやつどーっでもいいんだよお。美しくないし刺激的でもないし、形だけの婚約で、ちっとも楽しくないんだよお」

 しかもルヴェンズは私の悪口を言っていた。

「だから慰めてよおおお……」
「結婚したらもう会うのは無理だものねぇ」
「いやだー、会いたいー、離れたくないよおー」
「なら婚約者と別れなきゃ」
「ううっ……無理なんだよおそれはあ……うう、辛い、辛いいい……」

 もう我慢できない。
 そう思った私は二人の前へ足を進める。

「ルヴェンズ、そんな風に思っていたのね」

 悪口を言われてまで私は彼と一緒にいたくはないのだ。

「ならいいわ、婚約は破棄としましょう」
「えっ……!?」
「他の女に悪口を言うほどだものね、よほど私のことが嫌いなのでしょう?」

 にこり、笑みを浮かべてやれば。

「ち、ちちっ、ちがっ……」

 今さら焦ったような顔をするけれど。

「さっきの会話、録音させてもらったから」
「盗聴!?」
「だから、ね? 別れましょう私たち。その方がいいと思うわ」

 もう手遅れ。
 私たちに共に歩む道はない。

「や、ちょ、待って!!」
「親にも話します」
「やめて! 違う! そうじゃないんだ! あ、そ、そう! あれは言わされていただけ! 彼女とは本気の交際じゃないんだ、本当なんだ……遊びだよ!!」

 汗の粒が額に浮かぶような暑さの中、私は一人道を行く。

 信じていた、彼を。
 信じていた、未来を。

 幸せになりたかった。

 普通に、平凡でいいから、普通に穏やかに……生きていきたかった。

 でも、それは、叶わない願いだった。

 その後ルヴェンズとの婚約は破棄となった。
 彼の行いを世に出し、それを根拠として、関係を解消することとしたのだ。
 父は特に彼の行動に怒っていた。
 だからこそ婚約破棄に関して色々手伝ってくれたし何なら私以上に熱心に取り組んでくれた。

 そのかいあって、慰謝料をもぎ取れた。

 始まりへと戻った私。
 すぐには笑えない。
 けれども永遠にここにいることはないから、いつかはまた立ち上がり歩き出すのだろう。

 それが人というものだ。

 苦しみも、絶望も、越えて生きてゆく――それが人間という生き物の本質。


 ◆


 あれから数年。

 私は歴史ある家柄の心優しい青年と結婚、今は夫婦で穏やかに暮らせている。

 ルヴェンズとは上手くいかなかったけれど、それがあったからこそ彼に出会えた。そう思えば、ルヴェンズとのあの日々も意味はあったのかもしれない。今はそう思う。ただ私がそう思いたいだけかもしれないけれど。でも、幸せな今がある以上、生きてきた道が間違いであったとは思わない。すべての経験が私をここへ連れてきてくれたのだと、今はそう確信している。

 ちなみにルヴェンズはというと、婚約者であった私に捨てられたうえあの女からも「遊びとか言うとか、ないわ」と言われて切られ、あれ以降一人ぼっちになってしまっているそうだ。

 またそれによって心を病みつつあるそうで。

 今の彼には明るい未来図などありはしない。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

処理中です...