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前編

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「国護りの王女だろうが何だろうが関係ない! 婚約は破棄する! 俺は真実の愛だけに生きる!」

 私の婚約者であり隣国の第一王子でもある彼は、国のためにと嫁ごうとした私を拒み、国民の目の前で婚約破棄を告げた。

 あれからもう一週間になる。

 この一週間、色々あって忙しかった。

 婚約破棄を一方的に告げられたことも残念に思ったけれど、まだそれだけなら良かった。だが、大勢の目の前で婚約破棄を宣言したため、大騒ぎになってしまった。向こうの国の国民は驚いていたし、私の母国の人たちも驚きつつ憤っている。

 この炎が消えることは当分ないだろう。
 きっと騒ぎは続くに違いない。

 私は何もしていない。むしろ被害者だ。

 生まれながらにして関わった国などを繁栄させる能力を持っていた私は、彼の国を繁栄させるために王子のところへ嫁ぐこととなった。それなのに、彼は一方的に婚約破棄した。自分には愛する人がいる、それが理由だそうだ。

 愛する人がいるのは構わない。彼だって一人の人間だ、愛する人がいたとしてもおかしな話ではない。だが、だからといって突然私を切り落とすのは、いかほどなものか。それに、そんなに嫌なのなら、最初に断れば良かったのではないか。一度は受け入れておいて急に勝手に切り落とすというのは、さすがに滅茶苦茶過ぎると思うのだが。

「王女、お茶をお持ちしました」
「ありがとう」

 一人溜め息を漏らしていると、侍女がお茶を持ってきてくれた。
 心が落ち着くような香りが部屋を満たす。

「やはりかなり騒ぎになっていますね……」
「そうね。まぁ仕方ないけれど」
「王女、どうか、体調崩されませんように」
「お気遣いありがとう。でも平気よ。私はあんな人には負けないわ」

 こちらに非はないのだから堂々としていればいい。
 何も恐れることはない。

 婚約破棄の原因を作ったのが私なのなら、多少恐怖感を抱いたかもしれない。責められるかもしれない、と、不安になった可能性も低くはない。だが、今回に限っては、その可能性はまったくないのだ。婚約したことが原因だとしても、私の行動が原因ということはあり得ない。

 それなら、何を言われようと関係ない。

 彼がそんな勝手なことを言うのなら、なおさら、くよくよしてはいられない。身勝手過ぎる人に精神的に負けたくない、そう思うからこそ、心を強く持てる気がする。

「さすが! 心がお強いですね!」

 年頃の娘に対して言うことじゃないわよ、それは。

「強いと言われちゃ複雑だけど……」
「そうなのですか?」
「えぇ……。あ、べつに、変な意味じゃないのよ?気にしないで」
「はい」

 彼は真実の愛を貫いた。
 ならば、私は私が生きるべき道を行くのみ。

 彼が不必要と判断したのなら、私は粘って交渉するつもりはない。私はただ、彼の意思に従い、大人しく去ってゆくことを選択する。真実の愛を叩き割る気なんてさらさらないから。

 ただ、それによって何が起きたとしても、知ったこっちゃない。

 取り敢えず騒ぎが収まるのを待とうと思っている。
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