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『幼馴染みの彼が婚約させられてしまうこととなったのですが……? ~それでも二人で生きたいのです~』
「アイリーナ、大きくなったら僕のお嫁さんになって!」
「うん! なる! リズミーのこと大好き!」
私アイリーナと幼馴染みである彼リズミーは仲良しだった。
二人の仲は非常に濃いものであった。
それこそ、未来を誓い合ってしまうほどに。
私たちは共に行く未来を信じていた。
結婚して、幸せになって、共に生きてゆく――お互いにそのつもりだったのだ。
だが、年頃になると、リズミーはアンネという女性と婚約させられてしまった。彼は嫌がっていたし嫌だという意思も示していたが、それでもどうしようもなかったようで、無理矢理婚約させられてしまったようであった。
その話を聞いた時はかなり落ち込んだし悲しみもした。
――しかしリズミーは私のところへ戻ってくる。
「婚約破棄されたから帰ってきたよ」
「え!?」
「……ここだけの話、アンネさんには嫌われるようにしたんだ。不快がられるように振る舞った。そうしたら無事婚約破棄してもらえて」
彼はそう言っていたずらっぽく笑う。
「だから帰ってこられたんだ」
その笑みに、私は希望を見た。
「リズミー……!」
「長いことごめんね。これからまた、仲良くしてくれる?」
「ええ! もちろんよ! 仲好くしたいわ」
「ありがとう」
「そんなの。ありがとうと言うべきなのはこちらだわ。貴方に非は一切ないわよ」
こうして再び近づくことのできた私たちは、両親のもとから離れ、二人で新しい人生を始めてゆくことにした。
新しい土地でも前向きに生きてゆける。
未知が多くとも心折れたりはしない。
だって、大切な人が傍にいてくれるから。
◆終わり◆
『私を蹴落として結ばれようとした二人に明るい未来などあるわけがありません! ~幸せへとたどり着ける日まで~』
私ミレンダと彼ルクスが出会ったのは穏やかそのものな春の日だった。
私たちはすぐに意気投合。驚くほど一気に心の距離を縮めて。気づけば私たちは互いしか見えないようになっていて。
そしてその果てに婚約したのだった。
それが暑い夏のことである。
その時は確かに愛し合っていた。
私たちの心はどんな時も共に共にあったのだ。
だがそれは永遠ではなくて……。
◆
秋が訪れる頃、ルクスは私を見ないようになっていた。
彼は私ではなく私の妹であるネネに心惹かれて。それからというもの、私のことはそっちのけでネネにばかり構うようになり。次第にルクスとネネは想い合うようになってゆく。彼らは大胆で、私に隠すことすらせず定期的に二人きりで会ってはお出掛けしたりお泊まりしたりしていた。
そして、ある日、ついに。
「ごめんミレンダ。君との婚約は破棄とする」
彼からそんなことを告げられてしまう。
「妹さん、ネネと、俺は共に生きてゆく。だから君とは終わりにするんだ。悪いけど、俺は自分に嘘はつけない質なんだ。だから、さ……さよなら、ミレンダ」
しかもその場に居合わせたネネは。
「ごめ~ん、お姉さまっ、こんなことになっちゃってぇ」
悪いことをしたなんて欠片ほども思っていないようで。
「で~もぉ! お姉さまに魅力が悪いのよっ? 分かる? あたしが無理言って奪ったわけじゃないんだからねぇっ」
馬鹿にするようににやにやしながらそんなことを言ってきたのだった。
明らかに馬鹿にしている……。
きっと奪われた側の私を見下しているのだろう……。
だがその日、ルクスとネネは死んだ。
彼らは私がいなくなったことでようやくという解放感に包まれていたらしく、その日夜遅くまで酒場に入り浸って酒を飲んでいて、その帰りにルクスはぬかるみにはまり転倒したうえ頭を打って死亡。
そうして一人になってしまったネネは運悪く山賊に見つかってしまい、金目の物を剥ぎ取られたうえ虐められ、その後亡き人とされてしまった。
私を蹴落として結ばれようとした二人に明るい未来などなかったようだ。
◆
「あーっ、お腹空いたっ!」
「ミレンダ! 大丈夫? もう食べる? 食事の準備おおよそ済んでるよ」
あれから数年、私は良き夫を得られたために幸せに暮らせている。
「え! ほんと!」
「うん。じゃあもう今から用意するね」
「ありがとう! 手伝うわ、食器出すわね」
金持ちの息子であり、また、家事もこなせる。思いやりもあり、優しく、極端に困らせられるような部分もない。
そんな理想を絵に描いたような人、それが彼である。
「わ! シチュー!? 凄く美味しそうね!」
「僕が作ったんだ」
「えええ!! ……そ、そうなの? それ……ほんと?」
「うん!」
「す、凄すぎる……神すぎる……」
◆終わり◆
『婚約破棄されて。~雨が降る夜~』
雨が降る。
ぽつりぽつりと音を鳴らしながら。
そして、私の胸の内もまた、雨が降り続いている。
……そう、今朝私はいきなり婚約破棄を告げられてしまったのだ。
愛していた人、これまで仲良しでいられていると思っていた人、その人にいきなり別れを告げられてしまうのは辛かった。
顔面を強打したかのような。
胸元を殴られたかのような。
そんな痛みが今もここには残っている。
あれこれ言っても仕方がない、それはもう分かっている。なのに私は素直に受け流すことはできておらず。どれだけ時が過ぎても、いつまでも、痛みを感じ続けてしまう。
……ああ、雨が降っている。
暗闇の中に雨粒が落ちる音。
まるで天の演奏会のよう。
……ああ、とても綺麗。
弾む雨粒の音は心地よい。
痛みを少しは掻き消してくれるような気がする。
今はただ、天の音を聴こう。
癒しの音。
希望の鐘の音を。
◆終わり◆
「アイリーナ、大きくなったら僕のお嫁さんになって!」
「うん! なる! リズミーのこと大好き!」
私アイリーナと幼馴染みである彼リズミーは仲良しだった。
二人の仲は非常に濃いものであった。
それこそ、未来を誓い合ってしまうほどに。
私たちは共に行く未来を信じていた。
結婚して、幸せになって、共に生きてゆく――お互いにそのつもりだったのだ。
だが、年頃になると、リズミーはアンネという女性と婚約させられてしまった。彼は嫌がっていたし嫌だという意思も示していたが、それでもどうしようもなかったようで、無理矢理婚約させられてしまったようであった。
その話を聞いた時はかなり落ち込んだし悲しみもした。
――しかしリズミーは私のところへ戻ってくる。
「婚約破棄されたから帰ってきたよ」
「え!?」
「……ここだけの話、アンネさんには嫌われるようにしたんだ。不快がられるように振る舞った。そうしたら無事婚約破棄してもらえて」
彼はそう言っていたずらっぽく笑う。
「だから帰ってこられたんだ」
その笑みに、私は希望を見た。
「リズミー……!」
「長いことごめんね。これからまた、仲良くしてくれる?」
「ええ! もちろんよ! 仲好くしたいわ」
「ありがとう」
「そんなの。ありがとうと言うべきなのはこちらだわ。貴方に非は一切ないわよ」
こうして再び近づくことのできた私たちは、両親のもとから離れ、二人で新しい人生を始めてゆくことにした。
新しい土地でも前向きに生きてゆける。
未知が多くとも心折れたりはしない。
だって、大切な人が傍にいてくれるから。
◆終わり◆
『私を蹴落として結ばれようとした二人に明るい未来などあるわけがありません! ~幸せへとたどり着ける日まで~』
私ミレンダと彼ルクスが出会ったのは穏やかそのものな春の日だった。
私たちはすぐに意気投合。驚くほど一気に心の距離を縮めて。気づけば私たちは互いしか見えないようになっていて。
そしてその果てに婚約したのだった。
それが暑い夏のことである。
その時は確かに愛し合っていた。
私たちの心はどんな時も共に共にあったのだ。
だがそれは永遠ではなくて……。
◆
秋が訪れる頃、ルクスは私を見ないようになっていた。
彼は私ではなく私の妹であるネネに心惹かれて。それからというもの、私のことはそっちのけでネネにばかり構うようになり。次第にルクスとネネは想い合うようになってゆく。彼らは大胆で、私に隠すことすらせず定期的に二人きりで会ってはお出掛けしたりお泊まりしたりしていた。
そして、ある日、ついに。
「ごめんミレンダ。君との婚約は破棄とする」
彼からそんなことを告げられてしまう。
「妹さん、ネネと、俺は共に生きてゆく。だから君とは終わりにするんだ。悪いけど、俺は自分に嘘はつけない質なんだ。だから、さ……さよなら、ミレンダ」
しかもその場に居合わせたネネは。
「ごめ~ん、お姉さまっ、こんなことになっちゃってぇ」
悪いことをしたなんて欠片ほども思っていないようで。
「で~もぉ! お姉さまに魅力が悪いのよっ? 分かる? あたしが無理言って奪ったわけじゃないんだからねぇっ」
馬鹿にするようににやにやしながらそんなことを言ってきたのだった。
明らかに馬鹿にしている……。
きっと奪われた側の私を見下しているのだろう……。
だがその日、ルクスとネネは死んだ。
彼らは私がいなくなったことでようやくという解放感に包まれていたらしく、その日夜遅くまで酒場に入り浸って酒を飲んでいて、その帰りにルクスはぬかるみにはまり転倒したうえ頭を打って死亡。
そうして一人になってしまったネネは運悪く山賊に見つかってしまい、金目の物を剥ぎ取られたうえ虐められ、その後亡き人とされてしまった。
私を蹴落として結ばれようとした二人に明るい未来などなかったようだ。
◆
「あーっ、お腹空いたっ!」
「ミレンダ! 大丈夫? もう食べる? 食事の準備おおよそ済んでるよ」
あれから数年、私は良き夫を得られたために幸せに暮らせている。
「え! ほんと!」
「うん。じゃあもう今から用意するね」
「ありがとう! 手伝うわ、食器出すわね」
金持ちの息子であり、また、家事もこなせる。思いやりもあり、優しく、極端に困らせられるような部分もない。
そんな理想を絵に描いたような人、それが彼である。
「わ! シチュー!? 凄く美味しそうね!」
「僕が作ったんだ」
「えええ!! ……そ、そうなの? それ……ほんと?」
「うん!」
「す、凄すぎる……神すぎる……」
◆終わり◆
『婚約破棄されて。~雨が降る夜~』
雨が降る。
ぽつりぽつりと音を鳴らしながら。
そして、私の胸の内もまた、雨が降り続いている。
……そう、今朝私はいきなり婚約破棄を告げられてしまったのだ。
愛していた人、これまで仲良しでいられていると思っていた人、その人にいきなり別れを告げられてしまうのは辛かった。
顔面を強打したかのような。
胸元を殴られたかのような。
そんな痛みが今もここには残っている。
あれこれ言っても仕方がない、それはもう分かっている。なのに私は素直に受け流すことはできておらず。どれだけ時が過ぎても、いつまでも、痛みを感じ続けてしまう。
……ああ、雨が降っている。
暗闇の中に雨粒が落ちる音。
まるで天の演奏会のよう。
……ああ、とても綺麗。
弾む雨粒の音は心地よい。
痛みを少しは掻き消してくれるような気がする。
今はただ、天の音を聴こう。
癒しの音。
希望の鐘の音を。
◆終わり◆
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