異世界恋愛作品集 ~たとえ婚約破棄されても幸せになります、理不尽などには負けません~

四季

文字の大きさ
上 下
15 / 22

3作品

しおりを挟む
『私を裏切った幼馴染み兼元婚約者はもう生きていません。』

 幼馴染みで婚約者でもあった彼サルクーから婚約破棄宣言をされて、雨の中、公園のベンチに座って一人泣いていた。

 ずっと一緒にいられると思っていたのに。
 どこで何を間違ってしまったのだろう。

 考えれば考えるほどによく分からなくなって、脳内がこんがらがって、それで余計に涙が溢れてきてしまう。

 先月母に買ってもらった赤いワンピース。お気に入りだったのに。だからサルクーと会う時にわざわざ着ていったのに。それなのにこんなことになってしまって、そのせいでびしょ濡れになってしまった。せっかくの赤いワンピースなのに雨に濡れきって台無しだ。

「どうして泣いてるの?」
「え……」

 誰かに声をかけられて、面を持ち上げると。

「何かあった?」

 そこには一人の見知らぬ青年。

「……いえ、べつに、何でも」
「そうは見えないけど」
「放っておいてください」
「それは、無理かな」

 彼はなぜかやたらと踏み込んでくる。

 放っておいてほしいのに。
 関わってきてほしくなんてないのに。

「話、聞くよ」

 ……それから私はなんとなくの流れで彼に話を聞いてもらった。


 ◆


 あの悲しみの日から二年、私は、あの時に出会った彼と生きている。

 夫婦となったのだ。
 そんな予定はなかったのに。

 でも、今の暮らしは悪くない。

 そこそこ楽しい。
 だから満足している。

 ちなみにサルクーはというと、既にこの世を去っている。
 ある雨の日にがけ崩れに巻き込まれ即死したのだそうだ。


◆終わり◆


『高級喫茶店へ行こうと誘ってくれた婚約者でしたが、実は裏で……?』

「ニーナ、今度さ、アルフレッド行かない?」

 婚約者である彼ミッシェルがそんな提案をしてきてくれたのはある春の日だった。

 ちなみにアルフレッドというのは、国内でも有数の高級喫茶店である。

「いいの!?」
「うん、もちろん。前行ってみたいって言ってたよね」
「そうなの!」

 私は紅茶好き。だからアルフレッドのことは知っていた。その店は紅茶もとてもハイクオリティで美味しいのだと聞いている。でもこれまでなかなか行ってみられる機会はなくて。確かにミッシェルにそういう話をしたことはあったけれど、まさか誘ってもらえるなんて思わなかった。

「紅茶が美味しいんですって」
「いいね」
「でも……本当に、いいの?」
「もちろん。支払いも僕がするし。たまにはぱーっと楽しもうよ!」

 降って湧いた嬉しい出来事に心が躍る。

「ありがとう! とても嬉しいわ、幸せよ」

 それからの私はとても幸せな気分だった――ミッシェルの真実を知るまでは。


 ◆


 その日、私は、たまたま街の本屋に立ち寄った。
 そしてそこで見知らぬ女性を連れたミッシェルを目撃する。

「アルフレッドに行けるなんてぇ、さいこぉ」
「楽しみだね」
「婚約者さんいるのにぃ、いいのぉ? こんな女連れていっててぇ」
「いいんだ、ばれないよ」

 二人がそんな会話をしているのを聞いてしまい。

「ミッシェル! 一体どういうこと!? その人は誰なの!?」

 思わず飛び出していってしまう。

「ニーナ……!?」
「その人ともアルフレッドに行くの!?」
「……あ、いや、その……ただの練習だよ、お試し。ニーナと行くための練習」

 ミッシェルは子どものような言い訳をするけれど。

「そんな! 酷いわ!」
「どうして」
「他の女とも行くなんて信じられない!」

 こちらとしてはそんなくだらない言い訳で納得できるわけもなくて。

「……うるさいよ、ニーナ」
「傷つくわ……!」
「あ、そ。じゃ、もういいや」
「え」

 私たちの関係は崩れてゆく。

「ニーナとの婚約は破棄とするよ」

 ついに彼はそこまで言った。

「面倒臭い女は嫌いなんだ」

 こうして私とミッシェルの関係は終わりを迎えてしまったのだった……。


 ◆


 婚約破棄宣言から一週間、ミッシェルの訃報が耳に入った。
 ミッシェルは借金取りからあの女を護ろうとして刃物で刺され落命したそうだ。

 ……なんて愚かな人なのかしら。

 あんな女を護るために。
 いや、あんな女、なんて言うと失礼かもしれないけれど。
 でも、私だけと共にあったなら、彼は今でもきっと普通に生きていたはずだ。

 ……私には借金取りなんて襲ってこないし。

 だがまぁそれもまた彼の選択。
 ならば仕方がない。
 たとえその女性のために死ぬこととなろうともすべて自己責任、自業自得でしかない。

 ちなみに当の女性はというと、その時に借金取りに誘拐されたきり行方不明となっているらしい。

 ◆

 あれから数年が経った。
 私は今、家庭を築き、穏やかに生活できている。
 そして何より、夫も私と同じ紅茶好きなので、日常の中で楽しむティータイムが何よりも愛おしい時間だ。


◆終わり◆


『唾をかけてくる婚約者が不快で嫌すぎます……泣きそうです……』

 お馬鹿な婚約者ロレテは会うたびに唾をかけてくる――彼にとってはそれが愛情表現なのだそう、彼の親がそう言っていた――まったくもって理解不能だが。

 そんなロレテはある日突然。

「お前との婚約は破棄する!」

 そんな宣言をしてきた。

「え」
「お前には飽きた!」

 さっくりとそんな風に言われて。

「関係はここまで、な。じゃ! そういうことで! バァーイ!」

 一方的に関係を解消されてしまったのだった。

 でも……良かったのかもしれない。
 だって、これでもう、唾をかけられずに済むから……。

 不潔な行為から解放されるのはとても嬉しいことだ。

 ――翌日、ロレテは落命した。

 家の前にある石の階段で踊っていたところ足を滑らせて転落。その際舌を強く噛んでしまい、痛みのあまり失神。誰にも気づかれなかったために数時間にわたってそのまま放置され、結果、命を落とすこととなってしまったそうだ。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...