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『この国の歴史ある食べ物なのですが、それを何も知らずに「きたねぇ」などと言うというのはどうかと思います。』

 私が生まれ育った国、そこに長年伝わってきている梅肉を発酵させたヌププロスという食べ物があるのだが――それを口にしていたために婚約者ロレアスに「きたねぇ女だな! あーあ、サイテーだわ!」などと言われてしまった。

「もう無理。だから、婚約は破棄な」

 ロレアスはさらりとそんな風に言って、私との関係を身勝手に切り捨てた。

 えええー……、と思った。
 けれどもそんなことを平気でできる人と生きてゆくなんて、そんなことをしても幸せになれないとも分かっていて。

 だから私は婚約破棄を受け入れることとした。

 だって、彼といても幸せになれないと分かっているのにその彼に執着し続けるなんて、無意味の極み的な行為ではないか。

 誰もが幸せを掴むために生きる。
 それはもちろん私も。
 ならば幸福へと進めないことが明確な道を歩む意味などない。

「分かったわ。じゃあそうしましょう」
「……いいんだな?」
「ええ、もちろん。貴方は関係を終わりにしたいのでしょう? ならば私も終わりにすることを願うわ」

 はっきりと言ってやれば。

「……ふん。可愛くねぇやつだな。けど、まぁ、話早くていいわ」

 面白くなさそうな顔をするロレアスだった、が。

「じゃあな、バイバイ」
「ええ、さようなら」


 ◆


 婚約破棄後、ロレアスは一人の女性と恋仲になったようだが、女性が実は付き合っていた男に襲われて落命したようだ。

 男からすればロレアスは愛する女を奪おうとした悪魔。
 だからこそ男は激怒していたし容赦もなくて。

 不運が重なったとも言えるが……何にせよ、ロレアスが殺められたことは確かだ。


 ◆


 あれから数年。
 私は愛する人と結ばれることに成功し幸せを掴むことができた。

「私、貴方と結婚できて良かったわ」
「えっ……い、今!?」
「……何よ、駄目なの?」
「いやいやいや! 駄目とかじゃない! 嬉しい嬉しい嬉しい!」
「本当に? ……うそくさーい」
「えええっ。いや、ほんと、嬉しいんだよ!? 急だったからびっくりしただけ!」


◆終わり◆


『 「ずっと好きだよ」彼の言葉を信じていたのですが……。 』

「ずっと好きだよ」

 婚約者となった彼ミレルの口癖はそんなもので。

 だから私は彼を信じていた。
 彼なら裏切るようなことはしない、と。

 ――でもそれは間違いだった。

「ミレルぅ、今日もかっこいいわぁ」
「へへ、ありがとう」

 ある夏の日、ミレルは私を裏切った。

 彼は私との約束を急にとりやめて。
 そして他の女性と遊びに出掛けていたのだ。

 たまたまそこを目撃してしまったのは、幸運なのか否か……。

「婚約者さんとのお出掛けキャンセルしたんでしょぉ? 良かったのぉ? そんなことしてぇ」
「いいんだよそのくらい」
「で~もぉ~……ほんとに大丈夫ぅ?」
「しつこいなぁ」
「だってぇ、心配なのよぉ」
「へへ、ありがとう。でも、本当に、心配しないでいいよ」

 いちゃつく二人を見ていられなくて――私は衝動的に駆け出し、二人の前へ出た。

「こんなところで一体何をしているの!? ミレル! 貴方、嘘をついて、裏切ったのね!?」
「……なっ」
「許さないわ、絶対に……ヘルポスヘルプスエトネリクスノシアッ!!」

 私は叫んだ。
 相手を地獄へ堕とす呪文を。

 ――それによってミレルは急死した。

「貴方も最低ね、婚約者がいると知りながらその男に近寄るなんて」
「な、何なの!? 貴女!! 魔女!? ミレルを殺すなんて、どう見ても魔女よっ……!!」

 ミレルの浮気相手の女性は青ざめている。

「だったら何?」
「へ……?」
「言うべきことがあるのではないの」
「なっ……何なのよいきなりっ……」

 しかしなかなか謝らないので。

「ヘルポスヘルプスエトネリクスノシア!!」

 彼女もこの世から消滅させた。

 ――そうよ、裏切り者は要らないの。

 純粋に信じていた私を裏切った、そんな人、許せるわけがないし生きていて許されるわけもないのだ。


◆終わり◆



『彼はその女の本当の目的に気づけず、その結果、この世を去ることとなってしまったようです。』

「お前なんてな、価値がねぇんだよ。てことで! 婚約は破棄な! ……俺はもうお前みたいなぱっとしねぇやつとは一緒には歩まねぇ。なんせ時間の無駄だからな、妥協してお前みたいなやつと生きるとか」

 婚約者ローレンスは知らない女を抱き締めながらそんなことを告げてきた。

「俺は彼女と、リリアと、生涯を共にする!!」
「本気……なのですか?」
「ああ。リリアは良家のお嬢さんだし性格も良く容姿も素晴らしいからな」

 ローレンスは平然と私を貶め、また、今まさに強く抱き締める女を評価し持ち上げた。

「お前はもう要らん」

 こうして私は捨てられてしまったのだった。 

 切ない……。
 悲しい……。

 ……そして、虚しい。


 ◆


 婚約破棄後、間もなく、王家の男性であるロゼットと出会った。

 そして彼にアプローチされて。
 やがて私たちの関係は深まってゆく。

 そうして、数年以内に、私は彼と結ばれることとなったのだった。

「おめでとう!」
「良かった、本当に……本当に、幸せそうで……ううっ、嬉しすぎてっ……泣きそう」
「絶対に幸せになってね!」
「応援してるよ、ずっと、見守ってるから」

 私はここからはロゼットと共に歩む。
 決して迷わずに。
 ただどこまでも進む。

 明るい未来だけを信じて。


 ◆


 あれから数年、私は今も王家の血を引く夫であるロゼットに大事にしてもらいながら幸せに暮らしている。

 ああ、そう、そういえば。

 ローレンスはあの後間もなくリリアに殺されたそうだ。

 リリアはローレンスを消すために送り込まれた刺客だったそうで、リリアはその職務を全うした。
 彼女はローレンスを愛してはいなかった。
 ローレンスとその家を潰したい意思を持つ者によって雇われている存在、ただそれだけだったようだ。

 ローレンスは最期までそのことには気づけなかったようだけれど……。


◆終わり◆


『婚約者と実妹が腕を組みながら私の前に現れ……?』

 その日、婚約者である彼ローゼントと私の妹リーシアが、腕を組みながら私の前に現れた。

「悪いがシーシナ、君とはもう共には生きない。なぜかというと、君よりも素晴らしい女性と巡り合ったからだ。そう、その素晴らしい女性というのが彼女だ。妹さんだよ、君の」

 ローゼントがそんなことを言う。

 そして。

「お姉さまはもう必要とされていないのよ」

 リーシアがそう続けた。

「彼はお姉さまではなくわたしを選んだわ。それは決して変わらない事実」
「リーシア……どうしてこんなことを」
「どうして? あっはっはは!! 馬鹿じゃないのぉ? お姉さまぁ!?」

 リーシアは私を見下すような振る舞いを崩さない。

 勝った、そう思っているのだろう。で、勝ったなら何をしても良いのだ、とでも考えているのだろう。だからこそこんな風に心ないことを言えるのだ、きっと。

「俺たちは二人で幸せになる」
「そういうことよ、お姉さま。つ! ま! り! 女としてはわたしの勝ちなの!」
「じゃあな。ばいばい、シーシナ」
「お姉さま負けぇ! きゃーっはっはっははは! ざまぁ! きゃぁーっ、はっはっははは!」


 ◆


 あれから一年。
 驚くべきことだが、ローゼントとリーシアはもうこの世に存在しない。

 というのも、二人は結婚式の日の朝に死亡したのだ。

 もちろん私は無関係。

 私はその日風邪を引いて自宅で寝込んでいたのだが、そんな中でその事件について聞いた時にはかなりの衝撃を受けた。

 会場に突然山賊が入ってきたそうで、無惨に殺められたそうだ。

 ……可哀想、とは思わない。

 私を傷つけた二人だ。
 その人たちがどうなろうとも知らないしどうでもいい。

 ちなみに私はというと、今は友人の花屋で手伝いをしている。

 毎日はとても楽しい。
 とにかく充実している。


◆終わり◆
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