上 下
5 / 22

4作品

しおりを挟む
『私から妹へ乗り換えることを宣言した婚約者の彼でしたが……?』

「俺はお前でなく妹さんを愛している! よって、お前との婚約は破棄とする!」

 とあるパーティーにて。
 婚約者ルドミックが私の妹を抱き締めながらそんなことを告げてきた。

 えっ……、と思っていたら。

「きゃあああああ!! 熊!! 熊がああぁぁぁぁぁぁ!!」

 会場の入り口が乱暴に開かれ、黒々とした熊が乱入してくる。

「叫んじゃだめっ」
「ひぃいいぃぃぃぃー!!」
「落ち着いて!」
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖っ……コワブワハタブラコワブワハタブラハタブラハタブラハタブラパーティーハタブラハタブラコワブワハタブラ」

 その熊はルドミックと彼に抱き締められている妹に迫る。

「ぐっ……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ルドミックは熊の餌となった。

 あーあ、残念なことになっちゃった。
 そんなことを思いながら会場を去る。

 ちなみに妹もまた熊の餌となったのだった。

 ……ま、何とも思わないけれど。


 ◆


 あれから数年、私は大富豪の妻となった。
 あの時婚約者だからとルドミックに執着していなくて良かった、と、今は迷いなくただひたすらに真っ直ぐに思うことができる。

 今はとても幸せ。

 だから私はこの道を行く。
 もう振り返らない。


◆終わり◆


『朝、目が覚めたら、婚約者が枕元に立っていました。しかも婚約破棄を告げてきまして……?』

 朝、目が覚めたら、婚約者ローベンが枕元に立っていた。

「えっ……?」
「おはよう」
「ローベンさん!?」

 ただただ驚いていたのだが。

「ああ、用があって来たんだ」

 ローベンは平然と言葉を投げてくる。

「実はさ、伝えたいことがあったんだ」
「伝えたいこと……ですか?」
「ああ。それで、君のお母さんにお願いして通してもらったんだ」

 ……そういうこと、か。

「君との婚約だが、破棄とさせてもらう」

 少し納得した次の瞬間、ローベンはそんなことを告げてきた。

「婚約、破棄……?」
「ああそうだ」
「ええっ……それはあまりに急過ぎません……?」
「急過ぎるとか関係ない!!」
「……あ、あぁ、そうですか」

 こうして私とローベンの婚約は破棄となったのだった。

 理由なんて分からないまま。
 何がどうなってこうなったのか理解できない。

 でも婚約が破棄となったことだけは確かだった。


 ◆


 あれから数週間。
 実家で親と暮らしていたローベンが亡くなったという話が耳に入ってきた。

 外出先で出会い惚れた女性に騙されて資産を搾り取られたうえややこしい揉め事に巻き込まれてしまい怖い人のもとに連れていかれてしまいそのまま殺められてしまったのだそうだ。

 ……実に恐ろしいことである。

 だがもはや私には何の関係もない。
 だから彼を可哀想だと思ってあげることはしない。


 ◆


 婚約破棄から数年。
 私は今、良き人を夫とし、幸せに暮らせている。

 この生活には文句なんて一つもない。


◆終わり◆


『 「お前みたいな低能女、さっさと俺の視界から消えろ! 婚約は破棄とする!」とか言われたのですが…… 』

「お前みたいな低能女、さっさと俺の視界から消えろ! 婚約は破棄とする!」

 婚約者ロィメンに失礼なことを言われたうえ関係の解消をも告げられてしまった私は、多くのものを想定外のタイミングで失い落ち込むしかなかった。

 ……だが、その日の晩、信じられないことが起こる。

 ロィメンの自宅に隕石が落ちたのだ。

 その隕石は小さなものだった。
 しかし宇宙からの落下物の破壊力というのは凄まじい。

 その事件によって、ロィメンは死亡した。

 聞いた話によると。
 隕石の落下によって破壊された家だった瓦礫の下敷きとなり落命してしまったのだそうだ。

 だが信じられないことはそれだけではなくて。

「アイシテイマス、ケッコンシテクダサイ」

 その隕石の表面に付着していた宇宙人が私のところにまでやって来て、そんな風に想いを告げてきたのだ。

「えっ……」
「トモニウチュウヲシハイシマショウ」
「あ、あの、そんなことを言われましても……すぐには理解できなくて、えっと……ごめんなさいまだ頭が」
「イソギマセン。タダ、ジブンハ、アナタトトモニイキテユキタイ。ソシテ、アナタトトモニウチュウヲシハイシタイノデス」

 すぐには頭が追い付かなくて。

 ……でも、結局、私はその宇宙人と結婚することとなったのだった。


 ◆


 あれから数年、私は宇宙の支配者となった。

 すべての星。
 そこに生きるすべての命。

 全部、私のもの。

 もはや私に逆らえる者などいない。
 私の顔を見れば誰もが頭を下げる。


◆終わり◆


『暑い夏、婚約者が突然呼び出してきたので何事かと思いつつ彼のもとへ行ってみたのですが……?』

 数分外を歩くだけで汗がだばだばと流れ落ちるような厳しい夏のある日。

「エリーサ、君との婚約は破棄するよ」

 婚約者ルゼオに突然呼び出されたと思ったら、そんなことを告げられてしまった。

「君はさ、華がない。俺と共に生きるのであれば、もっと、華やかであってもらわなくては。……ま、そういうことだから。俺は君とは生きていかないことにしたよ。だって、君はきっと、永遠に俺好みの女にはなってくれないだろうからね」

 彼は容赦なく関係を叩き壊す。

「じゃあね、エリーサ。……永遠に、さよなら」

 こうして一方的に切り捨てられた私だったが……その二日後、ルゼオは熱中症によってこの世を去った。

 彼は路上で一日中ナンパしていたそうだ。
 で、暑い中でずっと活動していたために体調を崩してしまい、この世を去ることとなったのである。

 ナンパしていて熱中症、しかも死亡、だなんて……。

 何とも馬鹿げた話だ。


 ◆


 あれから二年半。
 私は今、とても幸せに暮らしている。

「今年の夏も暑いなぁ」
「そうね」
「エリーサ、水分補給忘れないようにね」
「ええありがとう。貴方こそ、気をつけてちょうだいね」
「うん! もちろんだよ!」

 夫はとても優しくて穏やかな人。
 ただ同じ空間にいてただ共に生きているだけで幸福を感じられる。

 私はこれから先もずっと彼を愛し続けるだろう。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

いちゃつきを見せつけて楽しいですか?

四季
恋愛
それなりに大きな力を持つ王国に第一王女として生まれた私ーーリルリナ・グランシェには婚約者がいた。 だが、婚約者に寄ってくる女性がいて……。

婚約破棄寸前の悪役令嬢に転生したはずなのに!?

もふきゅな
恋愛
現代日本の普通一般人だった主人公は、突然異世界の豪華なベッドで目を覚ます。鏡に映るのは見たこともない美しい少女、アリシア・フォン・ルーベンス。悪役令嬢として知られるアリシアは、王子レオンハルトとの婚約破棄寸前にあるという。彼女は、王子の恋人に嫌がらせをしたとされていた。 王子との初対面で冷たく婚約破棄を告げられるが、美咲はアリシアとして無実を訴える。彼女の誠実な態度に次第に心を開くレオンハルト 悪役令嬢としてのレッテルを払拭し、彼と共に幸せな日々を歩もうと試みるアリシア。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ

悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。 残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。 そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。 だがーー 月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。 やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。 それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。

処理中です...