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59.空は今日も青い

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 フィオーネが女王の座に就いてから一年が経った。
 けれども今日は普通の日だ。
 一周年、と呼べば特別な日のようではあるけれど、案外それほど特別な日ではない。

「はぁっ! せい! はっ!」
「せい! とりゃっ! ふっ……はぁっ!」

 そんな日、フィオーネはエディカと共に剣の訓練をしていた。

 もう平和になったレフィエリではあるけれど、その平和がどれほど続くかなんてはっきりしない。いつ何時事件が起こるか分からない、それはこれからだって変わらないことだ。
 だからこそ、フィオーネは剣の腕を今日も磨くのだ。
 ちなみに、この訓練を希望したのはフィオーネの方だ。エディカはそれに対応し付き合っているだけ。

「なぁ、そろそろ休まね? フィオーネ」
「そうですね。少し休憩しましょう」

 ちょうどきりのいいところで一旦動きを止め、乱れた息を整えるように静かな柔軟体操をする二人。

「少しーって、まだやるんかい!!」

 エディカは一人突っ込みを入れていた。

「え? 駄目でしたか?」

 フィオーネは腕を交差させるようにして筋を伸ばす運動をしている。

「いや、べつに駄目とかじゃないけどさ……」
「では何でしょう?」
「よくやるよなー熱心だなー、って思ってさ」

 するとフィオーネは恥じらいの色を面に滲ませる。

「そんな! 褒めていただけるほどではありません!」

 褒められたとだけ捉えているフィオーネを見て、エディカは「やはり純粋だな」と思った。
 もっとも、そういうところも含めてフィオーネのことは好きなのだが。
 真っ直ぐなところ、嬉しささえも顔にがっつり表れてしまうところ、そういうところがフィオーネの良いところだ――エディカはずっとそう思っている。
 そして、きっとこれからも、そう思い続けるだろう。

「たまには休んだらいいのに」
「身体を動かしているのが好きなのです!」
「まぁそうかもしれないけど、さ……」

 何か言いたげなエディカの顔つきを目にし首を傾げるフィオーネ。

「問題があるのでしょうか?」

 発する問いもまた真っ直ぐなものだった。
 エディカは、ふっ、と笑みをこぼす。

「いや、いいけどさ。でも、あんま無理すんなよ」
「お気遣いありがとうございます!」

 すべては変わったようで、けれども、変わらないものだってある。

 それは、フィオーネの求めるもの。
 彼女は今も『剣を振る』ことを求めている。

 そして、その行為というのは、決して他者を理不尽に傷つけるためのものではない。彼女にとって剣とは、人々を護るため振るうものなのだ。そういう面では、彼女が求めているものは『人々を護ること』とも捉えることができる。

「あ、そういやさ、リベルのやつ赤子を引き取るらしいな」
「え!?」

 フィオーネは目を剥く。
 自分のことでないのに興味津々だ。

「まだ手続きとか色々あってややこしいらしいけどな」
「そうなんですか……」

 知らなかったな、と、口の中でビー玉を転がすように呟くフィオーネ。

「で、今は金稼ぎ中らしい」
「金稼ぎ中?」

 フィオーネは両足を開くと右足側に重心を乗せ、裏の筋を伸ばすかのようにじんわりと脚へ体重をしみこませる。
 しかし意識は話の方へ向いていた。
 ストレッチはほぼ無意識で行っているのだ。

「なんか街でも一日限りのバイトとかしてるんだってさ」
「労働ですか? 確かに、最近神殿で見かけない時がありますよね。前は大概中庭とかどこかで会えたのに……でも、平和になってただお出掛けしているだけかと思ってました」
「妙に張りきってたよ」
「へえ……」
「また会ったら話聞いてみな?」
「あ、そうですね! そうしてみます!」

 リベルのことはしばらく考えていなかったなぁ、と思うフィオーネであった。

 レフィエリの空は今日も青い。
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