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2部
54.黒き剣の敵
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フィオーネは復活した。
一時は負傷しベッドに身を置いていたが、いつまでもじっとしてはいられないと思い、一人の戦士として戦いの場へと戻ってきたのだ。
紅燃ゆる中、それ以上に熱く燃ゆるポニーテールを揺らして、神殿付近を駆ける。
敵兵が多いという情報を得て力となるべく出てきたのだ。
大切な命、国の象徴でもある女王ゆえ、あまり自由に前へは出ないように。そう言われていてもなお、彼女は護るべきもののために外へ出る。その足の動きを止められる者などどこにもいない。
転んで泣いている子がいれば声をかけ励まし神殿の方へ行くよう伝える。敵兵――主にロボットと呼ばれるような外見の者が多い――に襲われている人がいれば敵を斬り倒し救助。そんなことを続けていた。
そんな最中、街の方向、神殿があるのとは真反対の方向から黒い影が歩いてくるのが見えた。
避難してきたのかと思ったが、それにしては足取りが落ち着いていて、少々違和感がある。
フィオーネは目を凝らしてそちらを見る。
だがすぐには明瞭には見えず。
けれども距離が縮まるにつれてその姿が露わになる――落ち着いた足取りで歩いてきていた人物は、人とは少々異なる容姿をしていた。
頭頂部から足先まですべてが金属でできているような見た目の二足歩行生命体。関節部やプレートのつなぎ目にはねじに似たパーツがはめられており、それらは時折不気味に煌めく。その姿はまるで機械でできた人間のよう。立ち姿だけは人間のようだがその他の面では人間らしい外見とはお世辞にも言い難い。
そして、その手には、黒い鉱物で作られた剣がひとふり握られていた。
「レフィエリヨ、降伏セヨ」
くるみ割り人形にもにた口から、歪な男声が放たれる。
そこに人間らしいイントネーションは存在しない。
「な……何なのです!?」
フィオーネは思わず叫んでしまう。
敵に視線を向けられてから少し後悔。
冷静に動くべきだった、と。
とはいえもう退くことはできない。なぜって、こういう状況になってしまったから。今さら怯えて逃げ出すことなどできはしない。
敵はフィオーネをじっと見つめた後に発する。
「女王ヲダセ」
心臓が跳ねる。それが目的なのか、と。その事実に気づいた時、フィオーネはもう平常心を保ってはいられず。
「ハナシヲスル」
だが、敵は、フィオーネがこの地の主であるとは気づいていないようだった。
唯一の救いはそれだ。
現時点ではフィオーネが襲いかかられることはない。
「コバムノデアレバセンメツスル、覚悟セヨ」
無表情な声とは何よりも恐ろしいものだとフィオーネは知った。
その時背後からアウディーが走ってきた。
彼は一度汗を拭い、それから、緊迫した顔つきのフィオーネに気づく。
「どうしたフィオーネ」
「アウディーおじさま……」
「何だ? そんな顔して」
「敵、が……」
「敵? ……何だありゃ、見たことねぇ人種だな」
フィオーネとアウディーは一度顔を見合わせる。
それから改めて敵へと視線を戻す。
「ソコノオマエラ、女王ヲヨビダセ」
「何だあんた、ここに何しに来た」
「女王トハナシヲシニキタ。レフィエリヲアケワタシテモラウコトニカンスル話ヲダ」
「ったく……ふざけんな! そんな話、聞けねぇよ!」
アウディーはフィオーネの前へ出る。
「今すぐ出ていけ侵略者!!」
一時は負傷しベッドに身を置いていたが、いつまでもじっとしてはいられないと思い、一人の戦士として戦いの場へと戻ってきたのだ。
紅燃ゆる中、それ以上に熱く燃ゆるポニーテールを揺らして、神殿付近を駆ける。
敵兵が多いという情報を得て力となるべく出てきたのだ。
大切な命、国の象徴でもある女王ゆえ、あまり自由に前へは出ないように。そう言われていてもなお、彼女は護るべきもののために外へ出る。その足の動きを止められる者などどこにもいない。
転んで泣いている子がいれば声をかけ励まし神殿の方へ行くよう伝える。敵兵――主にロボットと呼ばれるような外見の者が多い――に襲われている人がいれば敵を斬り倒し救助。そんなことを続けていた。
そんな最中、街の方向、神殿があるのとは真反対の方向から黒い影が歩いてくるのが見えた。
避難してきたのかと思ったが、それにしては足取りが落ち着いていて、少々違和感がある。
フィオーネは目を凝らしてそちらを見る。
だがすぐには明瞭には見えず。
けれども距離が縮まるにつれてその姿が露わになる――落ち着いた足取りで歩いてきていた人物は、人とは少々異なる容姿をしていた。
頭頂部から足先まですべてが金属でできているような見た目の二足歩行生命体。関節部やプレートのつなぎ目にはねじに似たパーツがはめられており、それらは時折不気味に煌めく。その姿はまるで機械でできた人間のよう。立ち姿だけは人間のようだがその他の面では人間らしい外見とはお世辞にも言い難い。
そして、その手には、黒い鉱物で作られた剣がひとふり握られていた。
「レフィエリヨ、降伏セヨ」
くるみ割り人形にもにた口から、歪な男声が放たれる。
そこに人間らしいイントネーションは存在しない。
「な……何なのです!?」
フィオーネは思わず叫んでしまう。
敵に視線を向けられてから少し後悔。
冷静に動くべきだった、と。
とはいえもう退くことはできない。なぜって、こういう状況になってしまったから。今さら怯えて逃げ出すことなどできはしない。
敵はフィオーネをじっと見つめた後に発する。
「女王ヲダセ」
心臓が跳ねる。それが目的なのか、と。その事実に気づいた時、フィオーネはもう平常心を保ってはいられず。
「ハナシヲスル」
だが、敵は、フィオーネがこの地の主であるとは気づいていないようだった。
唯一の救いはそれだ。
現時点ではフィオーネが襲いかかられることはない。
「コバムノデアレバセンメツスル、覚悟セヨ」
無表情な声とは何よりも恐ろしいものだとフィオーネは知った。
その時背後からアウディーが走ってきた。
彼は一度汗を拭い、それから、緊迫した顔つきのフィオーネに気づく。
「どうしたフィオーネ」
「アウディーおじさま……」
「何だ? そんな顔して」
「敵、が……」
「敵? ……何だありゃ、見たことねぇ人種だな」
フィオーネとアウディーは一度顔を見合わせる。
それから改めて敵へと視線を戻す。
「ソコノオマエラ、女王ヲヨビダセ」
「何だあんた、ここに何しに来た」
「女王トハナシヲシニキタ。レフィエリヲアケワタシテモラウコトニカンスル話ヲダ」
「ったく……ふざけんな! そんな話、聞けねぇよ!」
アウディーはフィオーネの前へ出る。
「今すぐ出ていけ侵略者!!」
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