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2部

44.壊せ!(1)

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 北の森にてオヴァヴァ鋼国軍と衝突しているレフィエリ国境警備隊は、何よりも、魔法砲台による遠方からの攻撃の対処に苦労していた。いつ何時どこから飛んでくるのか分からずそのためいつも突然攻撃される、しかしその砲台の場所を調べるほどの余裕は彼らにはない。そこで彼らは、レフィエリシナ宛てに、魔法砲台を発見してできれば破壊してほしいという希望を提出した。ちなみに、女王であるフィオーネ宛てではなくレフィエリシナ宛てとなっているのは、レフィエリシナが何かあれば自分に言うようにと前もって言っていたからである。

 それを受けて。
 レフィエリシナは魔法砲台の発見と破壊の命令を出した――ある二人に。


 ◆


「あっははは! 楽しいねぇ!」
「何だよ怖ぇよ」

 身軽な格好で木々の狭間を駆ける男が二人。
 リベルとアウディーだ。
 その身の大きさは対照的だが走る速度はそれほど変わらない。

「ったく、こっちで合ってんのか?」
「知らないよー、でもまぁ、合ってるんじゃないー?」

 茶と緑の狭間を駆け抜けてゆく藍色はいつになく楽しげで、風を切りながら左右異なる色をした双眸を煌めかせている。
 魔法砲台は常時少量の魔力をまとっている、そのため、探知するのはそれほど難しくない――とはいえ広大な土地の中からそう大きくはないそれを見つけなくてはならないのでそこそこ運動量が必要な作業ではあるのだが。

 刹那、リベルは急に一本の木の陰に身を潜めた。

 何がどうなっているのかは分からなかったが、アウディーも咄嗟に草むらに隠れる。

 そう遠くないところから聞こえてくる小さな声。
 リベルが隠れたのはそれを聞き取ったからであった。

「……で、木っ端微……ぜ、ははは」
「ヤッテ……ショウ、降参スルマデ……ノデス」

 ところどころしか聞こえないが、それでも、悪意を持った会話であることは分かる。アウディーは隠れながらも怒りを感じた。なぜ人々の幸福な世界を破壊しようとするのか、と、すぐにでも出ていって問い詰めたい思いだった。とはいえそのようなことをしては捕まりかねない――それはリベルやレフィエリの皆の足を引っ張る行為――のでさすがにそんな愚かなことはしなかったが。

 その次の瞬間、木々の隙間を青白い光が飛んだ。
 そして数秒の間の後に声が聞こえていた方向で爆発が起こる。
 風が起こり、葉と葉が擦れる音が激しくなる。

「よし、次行こっかー」

 やがて道に姿を現すリベル。
 アウディーは少しして恐る恐る草むらから出た。

「……やったのか?」
「反応はなくなってるねー」
「ならいいけどよ」
「進もうー」

 にっこり笑うリベルを見てアウディーは「ってか、これ、俺要らなくねぇか?」と呟いていた。

 そして二人は再び進み始める。
 煙の匂いが充満する森の中を。


 自然の中ではどのくらい時間が経ったのかなど分からない。
 だが少なくとも一時間以上は経過していそうで。
 ただそれだけの時間をかけただけの成果はあった――既に五つの魔法砲台を破壊できている。

 一つ目の魔法砲台のところには人がいるようであったが、あれ以降は、誰もいないところに接近して破壊するという流れで上手くいっている。おかげで誰かと激突することにはならなかったし、ある意味平和的に順調に破壊していけている。

「恐ろしいくらい順調だな」
「だねー」

 リベルとアウディーが束の間の休憩をしていると、次第に雨が降り始めた。

「うわわ、雨とかー」
「降り出しちまった……」

 二人は一度互いの顔を見合せてから同時に空を見上げる。

「これはもう濡れても仕方ないねー」
「だな」

 雨は次第に強まる。
 躊躇なく降り注ぐ雨粒に打たれ、全身が重くなったように感じられて。
 それでも仕事は終わらない。

「そろそろ次行くか?」
「うん、そうだねー、そうし――」

 言い終わるより早くリベルは動いた。
 アウディーの前へ身をやり一発平凡な魔法を放つ。
 急なことに驚きつつもアウディーが正面へ視線を向けると――数メートル離れたところにこちらを見ている機械仕掛けの人間のようなものがいるのが見えた。

「敵――!?」

 アウディーは即座に動けない。
 そのうちにもう一発魔法による攻撃が飛んでくる、が、リベルがいるので魔法には魔法で対処することができた。

「そうみたいだねー」

 雨のせいで視界が悪い。

「逃げるか?」
「そうだね、一旦退こうか」

 頷き、アウディーとリベルは進行方向を変えた。

 得体のしれない存在である機械仕掛けの人間のようなあれとこの雨の中まともにやり合う気はない。

 一歩踏み出すたび、ぱちゃりと水が跳ねる音がする。
 あれは追ってきている――背後からは金属と金属が触れ合い軋むような音が規則正しく響いていた。
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