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2部
30.未来を創る者、新女王フィオーネ
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その日はついにやって来た。
そう――フィオーネがレフィエリの主、女王となる日だ。
レフィエリシナからフィオーネへ、歴史は受け継がれてゆく。その瞬間を見届けるべく、会場には多くのレフィエリ国民が集まった。ちなみに、集まった国民のほとんどがフィオーネらと同じ灰色の肌を持つ魚人族の末裔である。
会場は神殿からそう遠くない広場。
その日は快晴だった。フィオーネの、レフィエリの、新たな始まりを祝うかのような空模様。降り注ぐ日射しは包むような穏やかさと柔らかさ、まるで女神が微笑みながらこれから未来を創ってゆく者たちを見つめているかのよう。
そんな今日の式典のために設置された台の上、レフィエリシナとフィオーネが向かい合っている。
二人は母娘のような関係だが、それはあくまで日頃の関係だ。
今は、人々の上に立ってきた者とこれから人々の上に立つこととなる者として、その場所に立っている。
「フィオーネ、貴女に、レフィエリの主――女王の位を捧げます」
レフィエリシナが静かに言葉を発した。それを合図として、フィオーネは深く一礼する。そして、前もって指示されていた通り、流れるような動作で片膝を立てる形で地面に座る。座るといっても、地面には片方の膝だけをつける形での座る、だ。
レフィエリシナの手には、レフィエリの主である証ともいえる飾りが乗っている。
ホタテガイを連想させる物体の左右からレフィエリシナらの耳に似た突起が飛び出ているそれこそが、この地の主である証なのだ。
それは、レフィエリシナが長年身につけていたもの。
けれどももうじき彼女のもとから去る。
そして、未来へ、未来を創る者へと――手渡されてゆく。
「聖地レフィエリのため生きることを誓いますか」
「はい」
レフィエリシナの淑やかな問いに、フィオーネは一言で答える。
フィオーネは片膝をついて座った状態のまま、手のひらを上にして両手を頭上に掲げる。二つ並んだ手のひらに、レフィエリシナが証を乗せた。
新たなるレフィエリの主が誕生した瞬間だ。
「今この時をもって、フィオーネをレフィエリの主とします」
レフィエリシナが宣言する。
フィオーネは心臓が激しく鳴るのを感じながらも両手を胸もと辺りにまで下ろした。
やがて、拍手が広がる。
大声はない、それでも、手と手がぶつかる軽くとも温かな音が空気を揺らした。
それは、新たなる統治者の誕生を祝福する音。
新女王の誕生にあたって皆から批判の声を投げられることはなかった――そのことにフィオーネは安堵していた。
フィオーネが平静を保ちつつ立ち上がれば、右肩にかけた緋色の布が風を受けてなびいた。
心を新たに。
今、ここから、フィオーネの女王としての道が始まる。
「おめでとうフィオーネ」
「ありがとうございますお母様」
改めて見つめ合う二人。
「貴女の行く道に幸福と繁栄があることを願うわ」
「レフィエリのため、お母様のため、私は生きます!」
フィオーネにとっては行くつもりなどなかった道。けれども、敬愛するレフィエリシナに頼まれて得た道。それは何よりも尊い道である。彼女にとって、レフィエリシナから託された道は、何がどうあっても進むべき道なのである。
警備として付近に立っていたアウディーは片手の手のひらで顔を覆う。
彼は泣いていた。
そんな彼を目にして呆れた顔をするのは娘であるエディカ。
「おいおい、泣くなよ……」
呆れ顔のエディカに言われたアウディーは。
「……無理だろ。こりゃ……どうやっても泣くわ」
本心を隠すことなく、心のままに言葉を返した。
「あのちっさかったフィオーネが女王になったんだぞ……感動もんだろ」
アウディーが震える声で言うのを聞いて。
「ま、それもそうだな」
エディカは控えめに同意した。
一方リベルはというと、アウピロスと共に式典の様子をこっそり見に来ていた。
「やっぱ似合ってるなー」
「布ですか?」
「うん! 僕があげたやつー。なかなかきまってるよねー?」
「そうですね」
二人が佇んでいるのは街路樹の陰だ。
「フィオーネさんは明るくて優しい方ですから、ゆくゆくは素晴らしい女王となるでしょうね」
アウピロスは穏やかな顔つきで式典が執り行われれている方へ視線を向ける。
「だよね! ふふ、僕もそう思うよ」
リベルもまたアウピロスと同じように式典の様子を見守っている。
ご機嫌だ。
「たまにはこういうのも悪くないねー」
「そうですね」
そう――フィオーネがレフィエリの主、女王となる日だ。
レフィエリシナからフィオーネへ、歴史は受け継がれてゆく。その瞬間を見届けるべく、会場には多くのレフィエリ国民が集まった。ちなみに、集まった国民のほとんどがフィオーネらと同じ灰色の肌を持つ魚人族の末裔である。
会場は神殿からそう遠くない広場。
その日は快晴だった。フィオーネの、レフィエリの、新たな始まりを祝うかのような空模様。降り注ぐ日射しは包むような穏やかさと柔らかさ、まるで女神が微笑みながらこれから未来を創ってゆく者たちを見つめているかのよう。
そんな今日の式典のために設置された台の上、レフィエリシナとフィオーネが向かい合っている。
二人は母娘のような関係だが、それはあくまで日頃の関係だ。
今は、人々の上に立ってきた者とこれから人々の上に立つこととなる者として、その場所に立っている。
「フィオーネ、貴女に、レフィエリの主――女王の位を捧げます」
レフィエリシナが静かに言葉を発した。それを合図として、フィオーネは深く一礼する。そして、前もって指示されていた通り、流れるような動作で片膝を立てる形で地面に座る。座るといっても、地面には片方の膝だけをつける形での座る、だ。
レフィエリシナの手には、レフィエリの主である証ともいえる飾りが乗っている。
ホタテガイを連想させる物体の左右からレフィエリシナらの耳に似た突起が飛び出ているそれこそが、この地の主である証なのだ。
それは、レフィエリシナが長年身につけていたもの。
けれどももうじき彼女のもとから去る。
そして、未来へ、未来を創る者へと――手渡されてゆく。
「聖地レフィエリのため生きることを誓いますか」
「はい」
レフィエリシナの淑やかな問いに、フィオーネは一言で答える。
フィオーネは片膝をついて座った状態のまま、手のひらを上にして両手を頭上に掲げる。二つ並んだ手のひらに、レフィエリシナが証を乗せた。
新たなるレフィエリの主が誕生した瞬間だ。
「今この時をもって、フィオーネをレフィエリの主とします」
レフィエリシナが宣言する。
フィオーネは心臓が激しく鳴るのを感じながらも両手を胸もと辺りにまで下ろした。
やがて、拍手が広がる。
大声はない、それでも、手と手がぶつかる軽くとも温かな音が空気を揺らした。
それは、新たなる統治者の誕生を祝福する音。
新女王の誕生にあたって皆から批判の声を投げられることはなかった――そのことにフィオーネは安堵していた。
フィオーネが平静を保ちつつ立ち上がれば、右肩にかけた緋色の布が風を受けてなびいた。
心を新たに。
今、ここから、フィオーネの女王としての道が始まる。
「おめでとうフィオーネ」
「ありがとうございますお母様」
改めて見つめ合う二人。
「貴女の行く道に幸福と繁栄があることを願うわ」
「レフィエリのため、お母様のため、私は生きます!」
フィオーネにとっては行くつもりなどなかった道。けれども、敬愛するレフィエリシナに頼まれて得た道。それは何よりも尊い道である。彼女にとって、レフィエリシナから託された道は、何がどうあっても進むべき道なのである。
警備として付近に立っていたアウディーは片手の手のひらで顔を覆う。
彼は泣いていた。
そんな彼を目にして呆れた顔をするのは娘であるエディカ。
「おいおい、泣くなよ……」
呆れ顔のエディカに言われたアウディーは。
「……無理だろ。こりゃ……どうやっても泣くわ」
本心を隠すことなく、心のままに言葉を返した。
「あのちっさかったフィオーネが女王になったんだぞ……感動もんだろ」
アウディーが震える声で言うのを聞いて。
「ま、それもそうだな」
エディカは控えめに同意した。
一方リベルはというと、アウピロスと共に式典の様子をこっそり見に来ていた。
「やっぱ似合ってるなー」
「布ですか?」
「うん! 僕があげたやつー。なかなかきまってるよねー?」
「そうですね」
二人が佇んでいるのは街路樹の陰だ。
「フィオーネさんは明るくて優しい方ですから、ゆくゆくは素晴らしい女王となるでしょうね」
アウピロスは穏やかな顔つきで式典が執り行われれている方へ視線を向ける。
「だよね! ふふ、僕もそう思うよ」
リベルもまたアウピロスと同じように式典の様子を見守っている。
ご機嫌だ。
「たまにはこういうのも悪くないねー」
「そうですね」
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