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13.図書館で調べものをしましょう
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神殿の近くに設けられた図書館は、赤茶の煉瓦で覆われた外観が印象的な建物だ。
今日フィオーネはそこへ来ている。
黒い扉を開けて中へ入れば、大切に保存された紙の独特の匂いが肺を満たした。
無表情な図書館管理者の女性に一礼してから部屋の中へと踏み込んでゆく。
なぜフィオーネがここへ来たか?
理由は一つ。
レフィエリの始まりの歴史について学ぶ必要があったのだ。
いや、厳密には、これはレフィエリシナから与えられた課題であった。図書館へ行って自分で欲しい情報を探す、これもまた社会の勉強の一つ。レフィエリシナによる教育の一環である。
「見て、あれ、フィオーネさんじゃない?」
「かーわーいーいー」
「こんなところで何してるのかしら」
先客の女性たちがひそひそ話をするのが聞こえる。
フィオーネはなるべく気にしないようにした。
自分が目立ってしまうのは仕方がないことだ。なんせこの地を治めるレフィエリシナの娘のような立ち位置だから。どうやっても注目されてしまうもの、だから、見られても何か言われても気にしないでいるべきだ。よほど無礼なことでない限り。
高い位置にある分野のプレートを見ながら、歴史の本が置かれている棚を探す――そしてたどり着いた先には、たまたま、エディカがいた。
「フィオーネ!」
「エディカさん!」
ほぼ同時に声を発する二人。
声を発してしまってからまたほぼ同時に手で口を押さえた。
「わり、大声出して……」
「い、いえ、こちらこそすみませんでした……」
二人は顔を近づけるようにしながら控えめに笑う。
「で、フィオーネ、何を探しに来たんだ?」
「レフィエリの始まりの歴史について調べるように、と、お母様に言われまして」
「課題みたいなやつか?」
フィオーネはこくこくと子どものように頷く。
「始まりの歴史、ってことは、あっちだろ」
「え、そうなのですか?」
「ここ現代寄りの時代の棚だろ」
「えっ!」
「歴史にも色々あるだろ、古いのはあっち」
言われてハッとするフィオーネ。
歴史は歴史でも色々ある――言われて初めて気づいた、新たな気づきだ。
「協力しようか?」
「お願いします!」
「おっし! じゃ、一緒に探そうぜ。始まりの歴史!」
その後フィオーネはエディカと共に始まりの歴史について調べた。
フィオーネにとっては新鮮な経験だ。図書館での調べもの、なんて、これまであまりしたことがなかった。昔数回レフィエリシナと共に絵本を見に来たことはあったけれど、図書館での記憶というのはそのくらいしかない。
◆
「この本がとても参考になりそうです! エディカさん、ありがとうございます!」
レフィエリの始まりの歴史。
そこに出てくるのは、一人の魔術師と魚人族。
魚人族はともかく――魔術師がうんぬんというのは初めて知ったことだ。というのも、フィオーネはこれまで歴史については詳しくは習ったことがなかったので、この国に魔術師などという存在が関わっていることは知らなかったのだ。
それに、レフィエリには魔法を使う者は少ないので、なおさらそのような存在には気づけなかった。
「よさげなのが見つかって良かった良かった」
「エディカさんありがとうございました!」
「いいよ、気にしなくて。でも、何だその魔術師伝説。あんまり聞いたことないな……事実なのかは謎だな」
「神様の伝説みたいなものですかね」
「ま、多分そうだろうな」
「ですよね、そんな気がします」
その後フィオーネは図書館を出発。
神殿に帰還する。
借りることに成功した厚い本を胸の前で大事そうに抱えたまま、レフィエリシナのところへ駆けてゆく。
早く成功を伝えたい。
助けてもらいながらでも上手くやれたことを褒めてほしい。
そんな思いがフィオーネの心を満たしていた。
◆
フィオーネは知らないが。
「どうでした? あれで合ってました?」
「ありがとうエディカ、見事でした」
エディカがあの場所にいたのはたまたまではない。
すべてはレフィエリシナの意思。
あの時、エディカがあそこにいたのは、レフィエリシナから前もってそうするように頼まれたからであった。
「協力に感謝します、個別報酬は――」
「いやいや他の人と間違ってません?」
「……そうね、失礼。ではエディカ、お疲れ様でした」
両手を下腹部の前で重ねたまま丁寧に一礼するレフィエリシナ。
「また何でも頼んでください」
「ええ、頼りにしているわエディカ」
「光栄です」
今日フィオーネはそこへ来ている。
黒い扉を開けて中へ入れば、大切に保存された紙の独特の匂いが肺を満たした。
無表情な図書館管理者の女性に一礼してから部屋の中へと踏み込んでゆく。
なぜフィオーネがここへ来たか?
理由は一つ。
レフィエリの始まりの歴史について学ぶ必要があったのだ。
いや、厳密には、これはレフィエリシナから与えられた課題であった。図書館へ行って自分で欲しい情報を探す、これもまた社会の勉強の一つ。レフィエリシナによる教育の一環である。
「見て、あれ、フィオーネさんじゃない?」
「かーわーいーいー」
「こんなところで何してるのかしら」
先客の女性たちがひそひそ話をするのが聞こえる。
フィオーネはなるべく気にしないようにした。
自分が目立ってしまうのは仕方がないことだ。なんせこの地を治めるレフィエリシナの娘のような立ち位置だから。どうやっても注目されてしまうもの、だから、見られても何か言われても気にしないでいるべきだ。よほど無礼なことでない限り。
高い位置にある分野のプレートを見ながら、歴史の本が置かれている棚を探す――そしてたどり着いた先には、たまたま、エディカがいた。
「フィオーネ!」
「エディカさん!」
ほぼ同時に声を発する二人。
声を発してしまってからまたほぼ同時に手で口を押さえた。
「わり、大声出して……」
「い、いえ、こちらこそすみませんでした……」
二人は顔を近づけるようにしながら控えめに笑う。
「で、フィオーネ、何を探しに来たんだ?」
「レフィエリの始まりの歴史について調べるように、と、お母様に言われまして」
「課題みたいなやつか?」
フィオーネはこくこくと子どものように頷く。
「始まりの歴史、ってことは、あっちだろ」
「え、そうなのですか?」
「ここ現代寄りの時代の棚だろ」
「えっ!」
「歴史にも色々あるだろ、古いのはあっち」
言われてハッとするフィオーネ。
歴史は歴史でも色々ある――言われて初めて気づいた、新たな気づきだ。
「協力しようか?」
「お願いします!」
「おっし! じゃ、一緒に探そうぜ。始まりの歴史!」
その後フィオーネはエディカと共に始まりの歴史について調べた。
フィオーネにとっては新鮮な経験だ。図書館での調べもの、なんて、これまであまりしたことがなかった。昔数回レフィエリシナと共に絵本を見に来たことはあったけれど、図書館での記憶というのはそのくらいしかない。
◆
「この本がとても参考になりそうです! エディカさん、ありがとうございます!」
レフィエリの始まりの歴史。
そこに出てくるのは、一人の魔術師と魚人族。
魚人族はともかく――魔術師がうんぬんというのは初めて知ったことだ。というのも、フィオーネはこれまで歴史については詳しくは習ったことがなかったので、この国に魔術師などという存在が関わっていることは知らなかったのだ。
それに、レフィエリには魔法を使う者は少ないので、なおさらそのような存在には気づけなかった。
「よさげなのが見つかって良かった良かった」
「エディカさんありがとうございました!」
「いいよ、気にしなくて。でも、何だその魔術師伝説。あんまり聞いたことないな……事実なのかは謎だな」
「神様の伝説みたいなものですかね」
「ま、多分そうだろうな」
「ですよね、そんな気がします」
その後フィオーネは図書館を出発。
神殿に帰還する。
借りることに成功した厚い本を胸の前で大事そうに抱えたまま、レフィエリシナのところへ駆けてゆく。
早く成功を伝えたい。
助けてもらいながらでも上手くやれたことを褒めてほしい。
そんな思いがフィオーネの心を満たしていた。
◆
フィオーネは知らないが。
「どうでした? あれで合ってました?」
「ありがとうエディカ、見事でした」
エディカがあの場所にいたのはたまたまではない。
すべてはレフィエリシナの意思。
あの時、エディカがあそこにいたのは、レフィエリシナから前もってそうするように頼まれたからであった。
「協力に感謝します、個別報酬は――」
「いやいや他の人と間違ってません?」
「……そうね、失礼。ではエディカ、お疲れ様でした」
両手を下腹部の前で重ねたまま丁寧に一礼するレフィエリシナ。
「また何でも頼んでください」
「ええ、頼りにしているわエディカ」
「光栄です」
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