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後編

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「そうですか……! ではザベルさん、で」
「ありがとう、嬉しいです。その呼び方で、ぜひよろしくお願いします。そして、できれば、ゆくゆくは呼び捨てを」
「は、はい……尽力します……」

 ザベルは悪い人ではなかったみたい。それは良かった。安心した。彼のいろんなところを知ったわけではないけれど、今のところは問題なさそう。この感じであれば、共に暮らすとなっても何とかやっていけそうだ。

 少なくとも、毛嫌いされる実家にいるよりは良い。


 ◆


 その後はスムーズに進んだ。

 私はザベルと親しくなり、婚約し、結婚して夫婦となった。

 それからは実家へは戻らなかった。国が違うところへ移り住んだから、ということもあるけれど、実家へ戻らなかった理由はそれだけではない。それは私にとって小さな抵抗だったのだ。両親へのちょっとした抵抗に過ぎなかったのだ。帰ってきてほしいと思われてはいないだろうけど、それでも、帰りたくはなかった。

 それから十年ほどが経った、ある夏。

 私は一番下の妹から「父が亡くなった」と連絡を受けた。

 事故で身動き取れない状態になり、それが続くうちに段々衰弱していって、ついに落命したそうだ。そう聞くと気の毒なようだが、実際には違った。というのも、浮気相手と密かに外出している時の事故だったのだそうだ。

 彼も馬鹿なことをしたものだな。
 そんなことを思った。

 連絡は受けたが、結局、父親の葬儀には参加しなかった。もう会いたくなかったから、である。失礼なことばかりしてきた彼の死に顔なんてもう見たくない。たとえ相手が死んでいても、たとえ父娘だとしても。

 父親の死から一ヶ月後、今度は母親が亡くなったという連絡を受けた。

 夫の浮気を知ってしまったことで心を病み、家に一人になったタイミングを見計らって窓から身を投げたそうだ。

 身を投げても助かることはある。絶対に死ねるとは限らない。が、彼女の場合は助からなかった。自ら死ぬことに成功したのだ。運が良かったというか悪かったというか。

 また、その時たまたま婚約期間中であった長女は、縁起が悪いと婚約破棄されてしまったらしい。


◆終わり◆
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