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前編
しおりを挟む幼い頃からハエトリグモだけが友達だった。
家があまり裕福でなかったこともあって周囲からは馬鹿にされることが多く仲良しにはなかなかなれなくて。
そんな孤独な私の心を支えてくれていたのは、自宅にいた野生のハエトリグモ。
彼ら彼女らはいつだって私に寄り添ってくれた。
貧しめな人間のことも馬鹿にはせず、気ままに、その愛らしい姿を見せてくれていた。
「君、ハエトリグモと仲良しだそうだな」
ある日のこと、婚約者ヴィヒヴァスがそんなことを言ってくる。
そんな話題を振られるなんて意外だった。
これまでは一度もそんな話になったことはなかったから。
「え? あ、はい、見ているのは好きですよ」
一応素直に本当のことを答えてみる。
すると。
「あり得ん!!」
ヴィヒヴァスは鼻の穴を大きく広げて叫んだ。
「ええっ」
思わず漏れる声。
それは本心だ。
「ハエトリグモが好きな女など女ではない! 蜘蛛だぞ? そんなものを好きなやつなどどうかしているしまず女性ではない!」
「えええー」
「当たり前だろう! 素晴らしい女性は蜘蛛を好んだりはしない!」
「そんなことを言われましても……」
「よって! 婚約は破棄とする!」
「ええっ!?」
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