ことあるごとに絡んでくる妹が鬱陶しいので、罠にかけました

後編

　その後、私と婚約するはずであった男性と妹が婚約することになった。

「悪いな。でもこれもあの子の幸せのため、諦めてくれ」
「……はい」

　残念そうにするのは演技。企みを察知されないために仮面をつけているだけのこと。心はいつになく笑っている。

「諦めます」
「物分かりが良くて助かる。ではな」

　すべてはこの手のひらの上。
　今は呑気な妹も、今に地獄を見るだろう。

　でもそれでいい。自分の心が汚いことは分かっている。でも、それでも私は、この作戦を成功させてみせる。


　婚約から一年ほどが経過し、妹は結婚した。

　彼女の結婚式には当然私も参加。その時間の間は、今までで一番軽やかな気持ちでいられた。

　婚約者を奪われた辛さも残ってはいない。
　始めから妹に奪わせるつもりだったから。

　父親は可愛くて仕方がない娘の結婚を泣きながら喜んでいた。


　結婚して間もなく、妹は夫が多額の借金を背負っていることを知る。

　我が家に激震が走った——といっても、私は前から知っていたのだが。でも、今さら明かすわけにもいかないので、知らなかったふりをしておいた。

　すべてが順調。
　面白いくらい想定通りに進んでいる。

　そんなある日のこと、妹が私のところへやって来た。整った可憐な顔面を涙やら何やらで濡らしながら。

「酷ぉい！　お姉様なんかを信用したからぁ、こんなことにぃ！」
「知らないわ」
「ちょっとぉ！　その言い方は何なのぉ!?」
「婚約を決めたのは貴女よ。私が頼んだわけじゃないわ」

　私は微笑みを崩さずに対応する。

「わたしに貧乏くじを引かせてぇ！　許さない、言いつけてやるわぁ！」
「……何のこと？」

　数秒だけ間を空けて。

「前に言っていたじゃない『今までみたいに脇役でいてくれればそれでいい』って。だから私は脇役でいる、ただそれだけのことよ」

　その次の日、私は家を出た。
　多分もう実家には戻らないだろう。


◆終わり◆