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episode.105 説明会
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その日の夜、隊員らの夕食が大体終わったであろう時間に、再び召集がかかった。召集をかけたのはまたまたグレイブ。だが今回は、昼の時とは規模が違っていた。指定されたのが狭い個室ではなかったことからも分かるように、結構な人数が呼び出されている。
私が指定の部屋へ入った時には、既に、結構な数の隊員が集まっていた。その多くは男性だが、女性隊員の姿もちらほらと見受けられる。女性隊員の知り合いといえばフランシスカとグレイブくらいしかいないが、他にも女性隊員はいるのだと、改めて知った。
私は、空いていた後ろの方の席へこっそりと座る。
すると、まるで見計らっていたかのようなタイミングで、グレイブとシンが姿を現した。
それから少しして、話が始まる。
「では、今回の作戦の概要を大まかに説明しよう」
グレイブが話し始めると、それまで私語をしていた隊員も黙った。
人が話し始めたら黙るというのは、当たり前と言えば当たり前のことだ。だが、注意せずとも人を黙らせることができるグレイブは凄いな、と私は思った。
「今回の作戦では、ボスの殺害を行う」
いきなりの直球。
急に聞かされた隊員らは狼狽え、ざわめく。
グレイブは落ち着いた表情のまま騒ぎを鎮めると、何事もなかったかのように作戦に関する話を継続する。
「リュビエの話から推測するに、もう数日以内には、マレイとゼーレを狙いに攻めてくるはずだ。その時に、マレイには一旦、あちらへと連れていかれてもらう」
彼女が告げた言葉に、またしても動揺の波が広がる。
「え……いいの?そんな作戦って酷くない……?」
「えげつねぇよな……」
説明を受けている隊員たちは、そんな風に、ひそひそ言っていた。急展開に驚きを隠せない、といった感じだ。
「そこぉぉぉっ! 静かにぃぃぃーっ!!」
ひそひそ話をする隊員らに対し、シンの鋭い注意が飛ぶ。大声で注意された隊員たちは、白けた顔をしながら口を閉ざした。
一方グレイブはというと、そんなやり取りには一切意識を向けず、静かになったタイミングを見計らって話を続ける。冷淡、と言っても過言ではないほどに、落ち着いた様子だ。
「もちろん本人の同意は得ている。そこは誤解のないように」
紅の唇から発される声は、感情を少しも感じさせないものだった。
「ゼーレは既に死んだということにし、マレイだけを連れ帰ってもらう。そして、その後、我々が逆に向こうの基地へと攻め込む」
私はボスに連れていかれる役なのだ。そう思うと、正直、恐怖心を覚えてしまった。
だが、すぐに首を左右に振る。
怖いなんて言っている暇はないのだ、と。
「そこから先は二班に分かれての行動となる。一班は先に仕掛けて騒ぎを起こす。二班はマレイによって一人になったボスを一斉に襲う」
マレイによって一人になったボス、って……。
それはつまり、私が何とかして、ボスを一人にしなくてはならないということか。なにげに結構ハードなことを求められている気がして仕方がない。
「これが予定してある大まかな流れだ。その他の細かな動きなどは、これより個別に連絡する。では、全体への説明は終了だ」
おっと、もう終わってしまった。
本当に大まかな説明だけだったことが、少々驚きである。
その後、私はグレイブから個別に説明を受けた。
ゼーレより聴取したというボスの基地——飛行艇の内部の図面を見ながらの説明である。図というものが苦手な私は、なかなか理解できなかったが、彼女が根気強く説明してくれたおかげで、最終的には何とか理解できた。
私はボスと二人きりになり、彼を指定された中庭にまで連れていく。それが、連れ去られた後の私がすべき仕事だという話だ。
果たして私に務まるのか。そんな不安が、この胸を包み込む。
それでもやるしかない。やるしかないから——私は首を縦に動かした。
「聞いたよ! マレイちゃんが囮だなんて、本当に大丈夫なのっ!?」
グレイブからの個別説明を終えると、待ってくれていたらしいフランシスカが声をかけてきた。かなり慌てたような顔で。
「えぇ。やるしかないわ」
「でもでも、ボスを動かすなんて、マレイちゃんにできるのっ!?」
「それは分からないわ」
するとフランシスカはぐいっと顔を寄せてきた。
「じゃあ駄目だよ! できるかどうか分からないことを作戦に組み込むなんて、おかしいっ。今からグレイブさんに言ってくる!」
早速歩き出そうとするフランシスカを、「待って!」と言って制止する。
私がやると言ったのだ、グレイブは悪くない。
「フランさん、待って。グレイブさんは悪くないの」
「そうなの?」
きょとんとした顔でこちらを見つめてくるフランシスカ。華やかな睫毛に、紫色の丸い瞳——顔の愛らしさは健在だ。
「えぇ、グレイブさんはちゃんと確認してくれたの。それで、私が頷いたの。だから、グレイブさんは悪くないわ」
「でもでも、マレイちゃんだけに重荷を背負わせるなんてっ……」
「ありがとう。……でも、それは気にしないで」
私はこれまで迷惑ばかりかけてきた。だから、せめて最後くらいは役に立ちたいのだ。危険だとしても、成功するか分からなくても、そんなことは関係ない。
とにかくやる。それしかない。
「……そっか。マレイちゃんは本気なんだね」
「えぇ」
その瞬間、フランシスカの愛らしい顔が一気に明るくなった。
「じゃ、応援するよっ!」
凄まじい変わりように多少困惑したが、すぐに言葉を返す。
理解してくれたことへの感謝を込めて。
「ありがとう。嬉しいわ」
素直に礼を述べるのは、少しばかり恥ずかしい気もした。
だが、感謝の意を伝えることは人を幸せな気分にしてくれる。言われた者はもちろん、言った者も温かい気持ちになれるのだから、「ありがとう」とは魅力的な言葉だ。
「フランが応援してあげるんだから、頑張って、絶対に成功させてよっ」
こんな言い方をできるのは、彼女が自分に自信を持っているからだろう。見方によれば過剰な自信家とも取れないことはないが、今の私の目には、眩しく輝いているように映った。
私が指定の部屋へ入った時には、既に、結構な数の隊員が集まっていた。その多くは男性だが、女性隊員の姿もちらほらと見受けられる。女性隊員の知り合いといえばフランシスカとグレイブくらいしかいないが、他にも女性隊員はいるのだと、改めて知った。
私は、空いていた後ろの方の席へこっそりと座る。
すると、まるで見計らっていたかのようなタイミングで、グレイブとシンが姿を現した。
それから少しして、話が始まる。
「では、今回の作戦の概要を大まかに説明しよう」
グレイブが話し始めると、それまで私語をしていた隊員も黙った。
人が話し始めたら黙るというのは、当たり前と言えば当たり前のことだ。だが、注意せずとも人を黙らせることができるグレイブは凄いな、と私は思った。
「今回の作戦では、ボスの殺害を行う」
いきなりの直球。
急に聞かされた隊員らは狼狽え、ざわめく。
グレイブは落ち着いた表情のまま騒ぎを鎮めると、何事もなかったかのように作戦に関する話を継続する。
「リュビエの話から推測するに、もう数日以内には、マレイとゼーレを狙いに攻めてくるはずだ。その時に、マレイには一旦、あちらへと連れていかれてもらう」
彼女が告げた言葉に、またしても動揺の波が広がる。
「え……いいの?そんな作戦って酷くない……?」
「えげつねぇよな……」
説明を受けている隊員たちは、そんな風に、ひそひそ言っていた。急展開に驚きを隠せない、といった感じだ。
「そこぉぉぉっ! 静かにぃぃぃーっ!!」
ひそひそ話をする隊員らに対し、シンの鋭い注意が飛ぶ。大声で注意された隊員たちは、白けた顔をしながら口を閉ざした。
一方グレイブはというと、そんなやり取りには一切意識を向けず、静かになったタイミングを見計らって話を続ける。冷淡、と言っても過言ではないほどに、落ち着いた様子だ。
「もちろん本人の同意は得ている。そこは誤解のないように」
紅の唇から発される声は、感情を少しも感じさせないものだった。
「ゼーレは既に死んだということにし、マレイだけを連れ帰ってもらう。そして、その後、我々が逆に向こうの基地へと攻め込む」
私はボスに連れていかれる役なのだ。そう思うと、正直、恐怖心を覚えてしまった。
だが、すぐに首を左右に振る。
怖いなんて言っている暇はないのだ、と。
「そこから先は二班に分かれての行動となる。一班は先に仕掛けて騒ぎを起こす。二班はマレイによって一人になったボスを一斉に襲う」
マレイによって一人になったボス、って……。
それはつまり、私が何とかして、ボスを一人にしなくてはならないということか。なにげに結構ハードなことを求められている気がして仕方がない。
「これが予定してある大まかな流れだ。その他の細かな動きなどは、これより個別に連絡する。では、全体への説明は終了だ」
おっと、もう終わってしまった。
本当に大まかな説明だけだったことが、少々驚きである。
その後、私はグレイブから個別に説明を受けた。
ゼーレより聴取したというボスの基地——飛行艇の内部の図面を見ながらの説明である。図というものが苦手な私は、なかなか理解できなかったが、彼女が根気強く説明してくれたおかげで、最終的には何とか理解できた。
私はボスと二人きりになり、彼を指定された中庭にまで連れていく。それが、連れ去られた後の私がすべき仕事だという話だ。
果たして私に務まるのか。そんな不安が、この胸を包み込む。
それでもやるしかない。やるしかないから——私は首を縦に動かした。
「聞いたよ! マレイちゃんが囮だなんて、本当に大丈夫なのっ!?」
グレイブからの個別説明を終えると、待ってくれていたらしいフランシスカが声をかけてきた。かなり慌てたような顔で。
「えぇ。やるしかないわ」
「でもでも、ボスを動かすなんて、マレイちゃんにできるのっ!?」
「それは分からないわ」
するとフランシスカはぐいっと顔を寄せてきた。
「じゃあ駄目だよ! できるかどうか分からないことを作戦に組み込むなんて、おかしいっ。今からグレイブさんに言ってくる!」
早速歩き出そうとするフランシスカを、「待って!」と言って制止する。
私がやると言ったのだ、グレイブは悪くない。
「フランさん、待って。グレイブさんは悪くないの」
「そうなの?」
きょとんとした顔でこちらを見つめてくるフランシスカ。華やかな睫毛に、紫色の丸い瞳——顔の愛らしさは健在だ。
「えぇ、グレイブさんはちゃんと確認してくれたの。それで、私が頷いたの。だから、グレイブさんは悪くないわ」
「でもでも、マレイちゃんだけに重荷を背負わせるなんてっ……」
「ありがとう。……でも、それは気にしないで」
私はこれまで迷惑ばかりかけてきた。だから、せめて最後くらいは役に立ちたいのだ。危険だとしても、成功するか分からなくても、そんなことは関係ない。
とにかくやる。それしかない。
「……そっか。マレイちゃんは本気なんだね」
「えぇ」
その瞬間、フランシスカの愛らしい顔が一気に明るくなった。
「じゃ、応援するよっ!」
凄まじい変わりように多少困惑したが、すぐに言葉を返す。
理解してくれたことへの感謝を込めて。
「ありがとう。嬉しいわ」
素直に礼を述べるのは、少しばかり恥ずかしい気もした。
だが、感謝の意を伝えることは人を幸せな気分にしてくれる。言われた者はもちろん、言った者も温かい気持ちになれるのだから、「ありがとう」とは魅力的な言葉だ。
「フランが応援してあげるんだから、頑張って、絶対に成功させてよっ」
こんな言い方をできるのは、彼女が自分に自信を持っているからだろう。見方によれば過剰な自信家とも取れないことはないが、今の私の目には、眩しく輝いているように映った。
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