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episode.78 水着、砂浜、そして審判
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フランシスカの圧力から私を庇い、赤いワンピースタイプの水着を着ることとなったグレイブ。彼女は、水着を受け取りすぐに着替えると、みんなの前に現れた。
「ちゃんと着たぞ。これで文句はないだろう、フラン」
真っ赤なワンピースから伸びる脚は白くて長い。不要な肉はないが、筋肉がそれなりにあるため、健康的なほど良い太さの脚をしていた。また、腹部は引き締まっていて、水着の布越しにでもはっきりとしたくびれがあることが分かる。
スレンダーでかっこよく、美しい体型だ。
グレイブは文句のつけようのない体つきをしている——が、色気はあまりない。
「は、は、はわわぁぁぁ……」
だが、それでもシンは、顔を赤く染めていた。頬がリンゴ飴みたいだ。
彼にとってはグレイブの水着姿であることが大切で、色気の有り無しはそんなに関係ないのかもしれない。
真っ赤になりつつも興奮気味なシンとは対照的に、フランシスカは笑い転げていた。グレイブがワンピースタイプの水着を着て現れた瞬間から現在まで、ずっと笑い続けている。
「おい、フラン。なぜそんなに笑う」
「いやいや! だってグレイブさんったら、大人なのにワンピースとか! 似合わなすぎですよっ!」
「待て、お前が着させたのだろう」
「フランが頼んだわけじゃないですけどー?」
何とも言えない空気になってくるフランシスカとグレイブ。
あぁもう、といった気分だ。
なぜ良い空気を保とうと努力しないのか。私には理解ができない。
「それはそうだが……」
「じゃあ、フランのせいみたいに言ったことを謝って下さいねっ」
「いや。そもそもの原因を作ったのはお前だろう」
グレイブは、腕組みをしながら眉をひそめている。一方フランシスカの方はというと、不満げに頬を膨らませていた。
二人ともそう容易く折れる気はなさそうだ。
もし仮に折れるとすればグレイブの方だろう。しかし、今回ばかりは、グレイブもすんなり謝りはしなさそうである。
「フランはマレイちゃんに親切にしてあげただけですけどっ?」
「その親切とやらがマレイを困らせていることに、なぜ気づかなかったんだ」
厳しい顔つきとワンピースタイプの水着。
言葉にならない馴染まなさだ。
「はいー? グレイブさんに何が分かるんですかー?」
フランシスカは、両手を腰に当て、体を前方へやや倒しながら言う。
その声色は「まさに嫌み」といった感じのものだ。
言われるのがグレイブだから辛うじてこの程度で済んでいるが、もっと血の気の多い相手だったなら、間違いなく大喧嘩に発展してしまっていたことだろう。
「部外者がいちいち出てこないで下さいねっ!」
満面の笑みで嫌みを吐くフランシスカ。
ばっさりいくところが彼女らしい。なんせ彼女の口は、いろんな意味で恐ろしいのだ。
「……そうか。ま、それも一理あるかもしれないな」
「じゃあ謝って下さいっ」
フランシスカは再び謝罪を求めた。
年上の女性にここまで強く出られるフランシスカは、ある意味凄い人かもしれない。
「いちいち言わなくて大丈夫だ、ちゃんと謝るさ」
「亀みたいにもたもたしないで下さいねっ」
「あぁ。先ほどは、不快にするようなことを言ってすまなかった」
グレイブは頭を下げることはしなかったが、ちゃんと謝罪の言葉を述べていた。表情も真剣そのもの。これならフランシスカも許すだろう。
「構いませんよー。ちゃんと謝ってくれるなら、それ以上は言いませんからっ」
両手を腰へ当てたまま、桃色のビキニに包まれた胸を張り、満足そうに言うフランシスカ。ミルクティー色の髪から漂う甘い香りは健在だ。
「じゃ、遊びましょっか!」
彼女はそれから、その愛らしい顔を私へ向け、「マレイちゃんも!」と声をかけてくれた。躊躇いなくばっさりいくところは少々怖いが、こんな風に巻き込んでいってくれるところは好きだ。
「何をするの? フランさん」
「うーん。何がいいかな。たとえば……スポーツとか?」
浜辺でスポーツとは、何とも健康的である。
だが、それなら水着を着る必要性はないように思うが。
「他にも、貝殻を拾うとか魚をとるとか、できるんじゃないっ?」
フランシスカは楽しげに笑う。
数年ダリアで生活していた私にすれば、海も砂浜も、何の特別感もない。当たり前にそこにある光景だ。だが、帝都で育ってきたフランシスカにとっては、海は特別なものなのかもしれない。
「スポーツをするならぁぁぁ! 審判は任せて下さいよぉぉぉーっ!!」
私とフランシスカの会話にいきなり乱入してくるシン。彼の叫びは、相変わらずの大迫力だ。
「黙れ、シン」
「いえぇぇ! 黙ってなんていられませんよぉぉぉっ!」
シンは、制止しようと声をかけたグレイブに、凄まじい勢いで迫っていく。だが、慣れゆえかグレイブは落ち着いており、眉一つ動かさない。彼女は冷静さを保ち続けている。
「このシン・パーンの名にかけてぇ、審判役から外れるわけにはぁぁ、いきませんよぉぉぉっ!」
「そうか、そうだな。だがまずは落ち着け」
「無理ですぅぅぅ! いくらグレイブさんのお言葉でもぉぉ、そればかりは無理ぃぃぃー!」
一向に止まりそうにないシンを見て、グレイブは、やれやれ、といった顔をする。もはや怒る気にもならない、という様子だ。呆れきっている。
シンの言動はいつだっておかしい。明らかに普通の人ではない、と見る者に感じさせる。
けれども私は、その騒がしさが、意外と嫌いでない。
珍妙な彼の言動は、いつだって場の空気を面白くしてくれる。その大声は沈黙を破り、そのユニークな容姿と振る舞いは深刻な雰囲気を掻き消してくれるのだ。
死が傍にあるような厳しい世界だからこそ、彼のような人間は必要なのだ。
私はそう思う。
「ちゃんと着たぞ。これで文句はないだろう、フラン」
真っ赤なワンピースから伸びる脚は白くて長い。不要な肉はないが、筋肉がそれなりにあるため、健康的なほど良い太さの脚をしていた。また、腹部は引き締まっていて、水着の布越しにでもはっきりとしたくびれがあることが分かる。
スレンダーでかっこよく、美しい体型だ。
グレイブは文句のつけようのない体つきをしている——が、色気はあまりない。
「は、は、はわわぁぁぁ……」
だが、それでもシンは、顔を赤く染めていた。頬がリンゴ飴みたいだ。
彼にとってはグレイブの水着姿であることが大切で、色気の有り無しはそんなに関係ないのかもしれない。
真っ赤になりつつも興奮気味なシンとは対照的に、フランシスカは笑い転げていた。グレイブがワンピースタイプの水着を着て現れた瞬間から現在まで、ずっと笑い続けている。
「おい、フラン。なぜそんなに笑う」
「いやいや! だってグレイブさんったら、大人なのにワンピースとか! 似合わなすぎですよっ!」
「待て、お前が着させたのだろう」
「フランが頼んだわけじゃないですけどー?」
何とも言えない空気になってくるフランシスカとグレイブ。
あぁもう、といった気分だ。
なぜ良い空気を保とうと努力しないのか。私には理解ができない。
「それはそうだが……」
「じゃあ、フランのせいみたいに言ったことを謝って下さいねっ」
「いや。そもそもの原因を作ったのはお前だろう」
グレイブは、腕組みをしながら眉をひそめている。一方フランシスカの方はというと、不満げに頬を膨らませていた。
二人ともそう容易く折れる気はなさそうだ。
もし仮に折れるとすればグレイブの方だろう。しかし、今回ばかりは、グレイブもすんなり謝りはしなさそうである。
「フランはマレイちゃんに親切にしてあげただけですけどっ?」
「その親切とやらがマレイを困らせていることに、なぜ気づかなかったんだ」
厳しい顔つきとワンピースタイプの水着。
言葉にならない馴染まなさだ。
「はいー? グレイブさんに何が分かるんですかー?」
フランシスカは、両手を腰に当て、体を前方へやや倒しながら言う。
その声色は「まさに嫌み」といった感じのものだ。
言われるのがグレイブだから辛うじてこの程度で済んでいるが、もっと血の気の多い相手だったなら、間違いなく大喧嘩に発展してしまっていたことだろう。
「部外者がいちいち出てこないで下さいねっ!」
満面の笑みで嫌みを吐くフランシスカ。
ばっさりいくところが彼女らしい。なんせ彼女の口は、いろんな意味で恐ろしいのだ。
「……そうか。ま、それも一理あるかもしれないな」
「じゃあ謝って下さいっ」
フランシスカは再び謝罪を求めた。
年上の女性にここまで強く出られるフランシスカは、ある意味凄い人かもしれない。
「いちいち言わなくて大丈夫だ、ちゃんと謝るさ」
「亀みたいにもたもたしないで下さいねっ」
「あぁ。先ほどは、不快にするようなことを言ってすまなかった」
グレイブは頭を下げることはしなかったが、ちゃんと謝罪の言葉を述べていた。表情も真剣そのもの。これならフランシスカも許すだろう。
「構いませんよー。ちゃんと謝ってくれるなら、それ以上は言いませんからっ」
両手を腰へ当てたまま、桃色のビキニに包まれた胸を張り、満足そうに言うフランシスカ。ミルクティー色の髪から漂う甘い香りは健在だ。
「じゃ、遊びましょっか!」
彼女はそれから、その愛らしい顔を私へ向け、「マレイちゃんも!」と声をかけてくれた。躊躇いなくばっさりいくところは少々怖いが、こんな風に巻き込んでいってくれるところは好きだ。
「何をするの? フランさん」
「うーん。何がいいかな。たとえば……スポーツとか?」
浜辺でスポーツとは、何とも健康的である。
だが、それなら水着を着る必要性はないように思うが。
「他にも、貝殻を拾うとか魚をとるとか、できるんじゃないっ?」
フランシスカは楽しげに笑う。
数年ダリアで生活していた私にすれば、海も砂浜も、何の特別感もない。当たり前にそこにある光景だ。だが、帝都で育ってきたフランシスカにとっては、海は特別なものなのかもしれない。
「スポーツをするならぁぁぁ! 審判は任せて下さいよぉぉぉーっ!!」
私とフランシスカの会話にいきなり乱入してくるシン。彼の叫びは、相変わらずの大迫力だ。
「黙れ、シン」
「いえぇぇ! 黙ってなんていられませんよぉぉぉっ!」
シンは、制止しようと声をかけたグレイブに、凄まじい勢いで迫っていく。だが、慣れゆえかグレイブは落ち着いており、眉一つ動かさない。彼女は冷静さを保ち続けている。
「このシン・パーンの名にかけてぇ、審判役から外れるわけにはぁぁ、いきませんよぉぉぉっ!」
「そうか、そうだな。だがまずは落ち着け」
「無理ですぅぅぅ! いくらグレイブさんのお言葉でもぉぉ、そればかりは無理ぃぃぃー!」
一向に止まりそうにないシンを見て、グレイブは、やれやれ、といった顔をする。もはや怒る気にもならない、という様子だ。呆れきっている。
シンの言動はいつだっておかしい。明らかに普通の人ではない、と見る者に感じさせる。
けれども私は、その騒がしさが、意外と嫌いでない。
珍妙な彼の言動は、いつだって場の空気を面白くしてくれる。その大声は沈黙を破り、そのユニークな容姿と振る舞いは深刻な雰囲気を掻き消してくれるのだ。
死が傍にあるような厳しい世界だからこそ、彼のような人間は必要なのだ。
私はそう思う。
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