暁のカトレア

四季

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episode.21 帝都散歩

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 今私がフランシスカと歩いているのは、帝都の中でも特に賑わう商店街。太い道の両脇に、いくつもの店が立ち並んでいる。しかも、たくさんの種類の店があり、見たことのないような店も多い。

「あのお店は何ですか?」
「ネイルサロンだよっ」
「ネイル……サロン?」
「爪を綺麗に飾ってもらえるお店!」

 ダリアにはなかったような店が多々あるため、こうしてのんびり歩きながら眺めるだけでも楽しい。
 それに加え、疑問に思ったことはフランシスカに尋ねられる。だから、疑問が疑問のまま放置されることがなく、まるでどんどん賢くなっていくかのようだ。

「あっちのお店は……服屋ですか?」
「惜しいっ、ブランドバッグの店だよ。ま、服もないことはないけどねっ」

 美少女の隣を歩くのは若干緊張する。

「あれは?」
「腕時計のお店だよっ。でもフランたち、腕時計ってあまり使わないんだよねっ。これがあるし」
「ですね。二本もあるとややこしくなりそうです」
「うんうん!」

 私とフランシスカは、そんなたわいない話をしながら、すたすたと道を歩いていく。

 人は多い。それも、若めの女性が。
 しかし、帝都へ来て数日経ったというのもあり、だいぶ慣れてきた。この程度の人混みなら、今はもう平気である。

「いろんな店があって、面白いですね」
「そう? フラン、普通だと思うけど」
「私がいたところにはこんなに色々なかったので、新鮮で楽しいです」

 ずっと帝都暮らしのフランシスカには、この喧騒や様々な店を新鮮に感じる心などありはしないのだろう。彼女にとっては、きっと、これが「普通」なのだ。

 そうこうしているうちに、私たちは一軒の服屋にたどり着いた。
 二十代から三十代くらいの女性が店員の、瑞々しくおしゃれな雰囲気が漂う服屋である。

 慣れない空気に立ち竦んでいると、フランシスカが手を引っ張ってくれた。そのおかげで私は、無事店内に入ることができた。

 私一人では入る勇気はなかっただろう。
 そういう意味では、彼女がいて良かった。

「いらっしゃいませー」
「この娘に似合う服、お願いっ」
「分かりましたー」

 フランシスカと女性店員の会話はそれだけ。
 それから私は、その女性店員に案内され、色々な服を見て回った。

 服装へのこだわりなどほとんどなかった私にしてみれば、正直そこまで興味はない。サイズが合っていてちゃんと着られるなら何でも、といった感じである。

 しかし、色鮮やかな服の数々を眺めること自体に嫌悪感はなかった。
 むしろ心が弾んだくらいである。


 その後。
 私とフランシスカは、服屋の隣の喫茶店へ入った。

「あの……良かったんですか? 本当に買ってもらって」

 かっちりした、紺のジャケットとプリーツスカート。白色のブラウス。そして、真面目な雰囲気のローファー。
 シンプルなデザインではあるが、肌触りが良く、着心地は最高だ。それだけに、「結構な価格だったのでは?」と少々心配である。

 だがフランシスカは、私の心配などよそに、にこにこしていた。

「大丈夫大丈夫っ」

 本人が「大丈夫」と言っているのだから大丈夫なのだろう。
 だが、軽さが逆に心配だ。

「働いて返しましょうか?」
「いいって。フラン、別に貧乏じゃないしっ」

 笑顔のまま軽くそう言った。
 そして、店員にコーヒーと苺のロールケーキを注文する。
 フランシスカに「どうする?」と尋ねられたため、私は遠慮気味に「同じでお願いします」と答えた。すると彼女は「コーヒー駄目なんじゃないの?」と言ってくる。

 まさに、その通り。
 私はコーヒーはあまり飲めない。

 そんなことで私がもたもたしているうちに、フランシスカはさらっと注文してくれる。

「それじゃ、アイスティーと苺ロールで!」

 た、助かった……。
 今日は出掛け慣れているフランシスカに助けられてばかりだ。

「注文する時は、はっきり言ってよねっ」
「分かりました」

 向かい同士に座ると顔と顔の距離が近い。そのせいもあってか、妙に彼女の顔を見つめてしまう。
 睫毛は長く、瞳は潤んで大きい。ミルクティー色の髪はいかにも柔らかそうで、まるで可愛らしい人形のよう。化粧は薄く、あっさりしているにもかかわらず、まさに美少女といった雰囲気があった。

 しかも良い香りがする。

「それで、どう? 新しい服を着た気分は」
「すっきりします」
「え、すっきり? ま、まぁいいけど」

 フランシスカはそう言いながらも、その愛らしい顔に困惑の色を浮かべていた。

「服装なんて考えたことはなかったですけど、ああやって色々見ていると、段々面白いと感じるようになってきました」

 この言葉は真実だ。
 別段興味はなかったが、服屋で色とりどりの服に囲まれているうちに、楽しくなっていく自分がいた。それは確かである。

「それなら良かったよっ。フラン、マレイちゃんはもっと可愛くなれると思う!」
「なれたら嬉しいです。さすがにフランさんには敵わないでしょうけどね」
「そりゃそうだよっ」

 きっぱりと言われてしまった。

 私だって、フランシスカより可愛くなれるとは、端から思っていない。けれど、さすがにこうもきっぱり言われては……って、こういうの、何度目だろうか。


 この後、私とフランシスカは、ゆったりとお茶をした。
 私はアイスティー、彼女はコーヒー。そして共通の苺ロールケーキ。まさに、おしゃれな女性のティータイム、といった雰囲気である。

 まさか私がこんな会に参加する日が来るとは。そんなこと、夢にも思わなかった。
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