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後編

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「やめてください!」
「お願いだよおぉぉぉぉ~ん!!」
「外ですよ!?」
「嗅がせて嗅がせて嗅がせてぇ~!!」

 アダーブルスは私を押し倒すと地面に強く押し付ける。

「うぐふぅふぅふ、もう逃がさないよぉ」

 霧状の唾が大量に垂れてきて服にかかる。

 ――これは、汚いッ!!

「ミュミュちゅあぁぁ~ん? つぅ~かまぁ~えたぁ、今からじっくり嗅ぐからねぇ~? んほほほんぼぼぼんぐふふふぅ」

 だがその瞬間。

「ぐぎゃ!!」

 果物を切るようなナイフがどこからともなく飛んできて、アダーブルスの脳天に命中した。

 それによってアダーブルスは沈黙。

「ああーっ、手が滑ってしまいましたすみませんー、って……えええ!? さ、刺さって!? あわわ大丈夫ですかぁーっ!?」

 そこへ駆けてきたのは一人の可愛らしい女性だった。
 いかにもおっとりさんなような顔立ちをしている赤毛の人物だ。

 どうやら彼女が手を滑らせて飛んでいってしまったナイフがアダーブルスに刺さったようである。

 アダーブルスの死によって私たち二人の関係は終わりを迎えた。

 片方が死ねばどうにもならない。
 この世とあの世で関係を続けてゆくことなどできないから。

 強制的に婚約は破棄となる。

 これでもうアダーブルスと会わなくていい、そう思うと嬉しかった。

 唾をかけられることも。
 おかしな発言を繰り返されることも。

 もう二度とないのだ。

 そう考えると、自然と心が弾んだ。

 その後私はとある農家の長男と結婚し、彼の両親らと同居して、農業に勤しむ生活を送った。

 でもそれは嫌な日々ではなかった。
 彼の両親が善良な人だったこともあって毎日はとても楽しかった。

 この道を選んだことに後悔はない。

 ……毎日新鮮な野菜を食べられるのも美味しくて嬉しいし、ね。


◆終わり◆
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