僕は彼女に話しかけられない

四季

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第一回 春

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 僕、すずり 憲一けんいちは、高校二年C組になった。


 一年から二年に上がる時はクラスのメンバーが変わる。組替えがあるのだ。しかし、三年に上がる時は変わらない。つまり、二年になる時の組替えが、その後の二年間を決めるのである。

 とはいえ、組替えは、ただのいち生徒に過ぎない僕がどうこうできる問題ではない。

 この時ばかりは、生徒とは辛いものだと思ってしまう。
 その後の二年間を決める重大な決定だというのに、意見を述べることさえ許されず、ただ発表を待つことしかできないのだから。


 しかし、僕は運が良かった。


 人生で一度きり、高校二年間を決める組替えで、僕はとんでもない幸運な体験をすることになった。

 何故「とんでもない幸運」か?

 それは簡単。
 憧れの女子生徒と同じ組になれたからだ。

 その子の名前は、小豆あずき あん

 いかにも和菓子に使われそうな名前だが、名前負けしていない、和風美少女だ。

 耳の下で二つに結んだ黒髪は、さらりとして清潔感がある。また、シルクのような白い肌に浮かぶ桜色の唇は柔らかで、その小ささゆえに品を感じさせてくれる。それに加え、目じりがすっとつり上がった目が印象的だ。

 そんな女の子と、今まさに、隣の席である。


 こんな幸せがあるだろうか。


「また同じクラスやったねー。よろしくー」
「よろー」

 他の女子生徒の声が聞こえるが、僕は杏を見つめる。

「何でまたおんなじクラスやねん! 嫌やわ!」
「そんなこと言わんと仲良くしよーや!」
「無理やって!」

 男子生徒も何やら言葉を交わしているようだ。しかし、僕は杏から目を逸らさない。周囲の声より大事なものがそこにあるのだから、当然だ。

「静かにせぇ! 静かになるまで終わらへんぞ!」

 ざわざわする教室を静めようと、担任の男性教師が喚いている。

 だが、そんなことはどうでもいい。
 一番大事なのは杏の横顔だ。

「先生もうるさいやんー」
「ホンマやー」

 声がかなり耳障りだが、そんなことはどうでもいい。無視だ、無視。

 僕はそれからも、隣の席にいる杏の横顔を見つめ続ける。

 柔らかそうな頬、意外にもつんとした鼻。そして、机の引き出しの中でこっそり本を読んでいるらしく、軽く伏せた目。

 どこをとっても素晴らしい。

 それにしても——どんな本を読んでいるのだろう。名も容姿も和風なだけに、『和菓子本舗』とかだろうか。

「ほんなら終わるで! 立ってー」

 担任が告げる。
 もうすぐだ。あと少しで、今日が終わってしまう。

「よしキタ!」
「早くしよ早くしよ」

 クラスメイトは相変わらず騒がしい。今年も苦労しそうだ。

「そしたら、さようなら」
「「「さよーなら!」」」

 挨拶。そして、解散。

「また明日なー」
「うんー」


 こうして、僕と杏の一日目が終わった。
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