王女アメリダの記憶

四季

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後編

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 ただ、僕が友好的であることは彼女も気づいていたようで、彼女も僕に友好的に振る舞ってくれた。

 彼女は椅子から立ち上がり、駆け寄ってくる。

 近くで見ると、彼女の輝きは想像を絶するものだった。

 もちろん、彼女の美しさに気づいていなかったわけではない。人形のような、人間離れした麗しさを持つ女性だということは、一目見た瞬間から分かっていた。
 ただ、離れて見るのと近くで見るのとでは、迫力が違う。

 栗色に白を多く混ぜたような地味な色のワンピースに、赤茶の毛糸で編まれたショール。そんな控えめな色遣いの服装にもかかわらずここまで華やかなのは、彼女の魅力ゆえと言えよう。

 僕は彼女に手を引かれ。
 それからしばらく、二人の時を過ごした。

 彼女は何も知らない僕にいくつもの絵画を見せてくれた。

 僕が手で絵画と彼女自身を交互に示して確認すると、彼女はコクコク頷いていた。
 どうやら、彼女が描いたものらしい。

 アメリダの絵。
 それは多分、彼女がみる夢。

 ある絵画には、美しい草原が描かれていた。
 風に揺られる、まだ若い草。空気感に満ちた青い空。地平線を見つめる、白いワンピースの可憐な少女。

 絵画の中の少女は、背中だけが見え、顔は描かれていない。
 だからこそ、僕は想像した。

 どのような顔立ちだろう?
 どのような表情だろう?

 ——そんな風に。

 その後、僕は彼女と別れ、塔を後にした。
 別れしな、一応「またね!」と言っておいたのだが、その言葉が彼女に届いていたかは分からない。


 これが、僕とアメリダの出会い。

 その邂逅は僕の心に得体の知れない感情を残した。

 二人で過ごした時を思い出すたび、胸が温かくなる。鳥が飛び立つ瞬間のような高揚。しかしそれだけではなく、どことなく息苦しくなるような感覚もあって。

 以降、彼女と遊んだことはない。会ったこともない。

 それなのに、なぜだろう。
 ほんの僅かなあの時間が、今でも鮮明に蘇ることがある。

 東の塔へ追いやられた、不遇な王女アメリダ。もしかしたら僕は、彼女の素朴ながら美しい容姿と心に、あの日からずっと惹かれ続けているのかもしれない。

 真相は不明だが。

 ただ、またいつか会えたらいいなと思う。

 再び会った時には、彼女の国の言葉を理解して、ちゃんと言葉を交わしたい。

 彼女の言葉を聞いて、こちらからも話を振って。

 そんな風にして、また彼女と幸せな時間を過ごせたとしたら、きっとそれは嘘のように素晴らしいことだろう。

◆終わり◆
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