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ヤンキー御曹司×清らか系の幼なじみ
マルタの騎士と穢れの波 第1話 ブレイド・キス
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いつもの平穏が、どれほどの尊き価値あるものだったのか、と、青年は眼鏡に透けるラテン十字を仰ぎ見る。あの事件から1カ月が経った。不穏というものがいかなる事態を、心理を呼び醒すかも、青年は、あの夜、身をもって知った。
【BLADE・K ISS】
「死ねだの、ぶち殺すだの。いくら理由が理由だとしても、まさか、俺に、あんな物騒なセリフが吐けてしまうとは。神よ、人間ってのは、ほんとうに罪深き存在なんですね」
「あっ、いた、いた! 数図ぅ~、課題、みてくんな~い?」
青年は眼鏡を直し、苦々しそうに振り返る。
「ヒトが猛省しながら祈ってる場を、あっさりとゴチャ混ぜる……」
「あ、お祈りしてたの。ワリーワリー」
「ぜんぜん誠意を感じねえ。まあいいよ。二階行こう、邑治。ったく、予備校もやめた暇人のクセに、なんで毎回毎回、課題をやりに来るんだか」
取り出したカッサで肩を押し押し階段を上る。
後ろから猫背なニートは話しかける。
「今日はさぁ、数図人が入院中には聴けなかったハナシもいろいろ聴けたらな~、って。課題は二の次!」
「見舞いのときに大体は話したろ」
「スゲーよなあ、俺がコッソリ忍ばせといたエアガンじゃなく、マジもんの銃ぶっ放したんだろ? しかも悪名高い『深紅の怪盗』に! かっけえ~、普段ケンカもスポーツもしないカズちゃんが」
「ひとこと多い。喧嘩なんか自分から振るわけないだろう、俺は立場上、優しい平和主義者でなきゃダメなんだ」
「不便だな~、クリスチャン。うちなんか、姉貴が薙刀振りまわすわ執事はキックボクシングかますわ」
「で、息子はニートで暴走族なドラ野郎。好き勝手でいいね、白鷺一派は」
「おまえ、ひとことどころか、やまほど多い!」
「ははは。ツッコミ箇所が多すぎるおまえが悪いんだよ、邑治」
二階のダイニングに入り、冷蔵庫を開く。コーラの瓶と缶コーヒーを出した。
「あ、いいよ数図。持参してる」
邑治はビニール袋をテーブルに置いた。中から麦茶のパックを出す。紙コップに注いだ。
「チョコレートも持ってきたぜ、食おう」
「差し入れサンクス、うわあゴディバかよ」
「アルコールなしのを選んだぜ?」
「いや、もう少し気楽なメーカーを選……、気楽なつもりなんだな、さすが白鷺」
ひとつぶを口にする、その様子を横目にし、邑治は、何の気なしに問いかけた。
「そ~いえばさぁ、あの夜、深紅の怪盗がおまえにチューした、って噂、ほんと? 数図」
ぶふっ、と数図人はチョコレートを噴きかけた。慌てて麦茶を喉に流しこむ。
「う、噂!? 誰だ、あのことをコソコソ誰かが話してたのか!?」
はっ、と口を噤む。ニヤつく邑治の表情で勘づいたのだ、いまのはカマかけだ!
「入院した直後のおまえの状態を調べたんだ。腹と手のひらに刺し傷、首筋に痣、こめかみに打撲、口の端に血痕、ってわかった。でも、翌日に見舞いに行ったら、おまえの口にケガはなかった。で、現場。押収物のルビエスのハンカチにおまえの血が付着してた。拭きとったら出来るシミだ、って知って、ますます変だなぁと思った。怪盗はおまえの腹も拭いてくれないサイコ野郎なのに、さて、いったい、数図のどこを拭ったのか」
「な、なんだ、いきなりの長台詞。推理力」
テーブルをカッサで軽く叩く。
「ってか、あの黒探偵の事務所連中! 白鷺邑治、こいつはダチだが他人なのに! ベラベラ喋りすぎだ!」
「違うよ。ネタ元は結城探偵事務所じゃない」
「新聞……ワイドショー……」
いいや、伏せ字だらけなあの件を明かすとしたら。
「インターネット」
「アパートにはマイコンねーから違う」
ならば残るは、
「……週刊誌……」
邑治はパチリと指を鳴らす。
「あー、読んだ読んだ! いちばん速くスゲー記事を出したのは『BLADE』だったっけ。犯人は被害者の腹を斬り裂いて喰ったとかナントカ」
「おまえなぁ、おふくろも愛莉も気遣って聴いてこねえのにズケズケとなぁ!」
「だから待ったんじゃん。ひとつき」
「……、ユウ」
「ほんとなら、スグにおまえに尋ねたかった。でも、俺は待った。俺はスゲー短気だけど、おまえが話せる時期まで待った。そして、いま、正面から尋ねてる、数図。おまえの優しい周りが避ける話でも、俺は真実を聴きたい。ダチだから、俺は聴く」
「……ユウ……」
サンクス、と数図人は呟く。
「嬉しいよ。文章を読むを嫌うおまえが、まる1ヶ月も小難しい本を読んで調べていただなんて。かなり感動した」
「ちょこっと違う。まあ雑誌も読みこんだけど、もっと正確な証拠が欲しくて、病院から執刀記録、警察から現場検証結果を取り寄せたんだ。俺はそこから、推理したわけ」
「って、そんなシークレットを取り寄せた!? 誰が!?」
「俺が」
脱力感に沈む数図人。白鷺の情報収集力に戦慄も覚えた。
「邑治……だが、まさか、おまえ、いまの話を誰かに回すつもりじゃないだろうな……」
「うひぃ、なんか殺気! 安心しろ、臆測でウワサなんか流さねーよ」
たったいま確証に変わったから、来週までにはみんなの噂にしちゃうけど、と続けた。
数図人はガタリと席を立つ。パイプ椅子が揺らぐ勢いだ。眼前の悪友に身を乗り出す。睨みつけた。
「Te mato……」
「なに語かわかんないけど、ゼッタイやばい意味だね? ひ~、おっかね~、黒探偵よりスナイパーっぽ~い、コワぁい!」
「まったく怖がってねえ口振りだ。気色悪い!」
「まあまあ、落ち着いて。いいじゃん、チューのひとつやふたつ。おもしろ愉快なウワサにしちゃれよ、そしたら猟奇的な箇所が薄まってアイリちゃんたちも安心するだろ?」
「そりゃ安堵はさせてぇよ! しかしそんな卑猥な話を撒けるか!? この神聖なエクレシアに!」
「紅い悪魔が聖なる若者にチューかぁ」
「へんなアオリつけんな!!」
「チュー、チュー」
紙コップを掴み、のんびりチュウチュウと茶を啜る猫背。
「なぁ、どんなチューだったの。大悪党とはいえ、美人なんだろ、深紅の怪盗。ローズ味のリップを愛用してる、とかヨタ話に聴いた。なあ、どーだった? やっぱ、ローズ味してた?」
「知らねえよ! 俺はずっと口を閉じてた!」
嘘だが。うっかり喋ったらアッサリ呑まれたが。ついでに味は鉄錆ていたが。
「味なんか意識してらんねぇよ。いいか、あのサイコパスは俺の血を吸い、肉を食べたんだぜ、肉を!」
「うひぃ。ブレイドの記事、マジだったの。ホラーかよ。そりゃ、痛みと恐怖心のが勝るわな。お楽しみどころじゃね~」
「お楽しみ、って……。ユウ。さっきから、おまえ、下品な言い方ばかり……」
「ん? あっ、そうか、おまえ、うちの執事以上に猥談キライだったよな! ワリー!!」
今度は本気の陳謝の模様。柏手をつくり、頭を下げる。そうして、話難そうにしつつ、「もしかして、ファーストキス、だったり?」我慢できずに、のたまった。
数図人は遂にテーブルをカッサを嵌めた握り拳で撲り叩く。
「ユウ!! ぶち殺すぞ、てめえェェェ!!」
「うひぃ、待っ、セリフがNG! クリスチャン的にNGです、数図人さま!!」
邑治は椅子ごと後退る。
「マジ、聖人なんだな、おまえ。チューに、夢を抱いてたのな。ゴメン。俺なんか人生で最初にチューしたの誰だっけ? ってカンジなのに」
「ああ!? 成人ですがなにか!? 5年も前から成人ですがなにか!?」
「待てマテマテ! マジ悪かった、もうからかってなんかない、落ち着いてくれ!」
歩み寄り、チョコレートを熱り立つ友に差し出す。くちびるに充ててやると、友は素直にそれを含み噛んだ。
「別に、キスに壮大な夢なんかねえ。カノジョを作るより、趣味のほうが楽しい。だけど、いざ、あんな酷い形で経験しちまうと。ああ畜生、って。なにかとても大切なものを失った気分でいっぱいになる」
「……ブレイドの記事、もしかして、全部ほんとだったのか」
数図人は「ああ。事実だ。って言うしかねぇ。やはり嘘は、いやだ」と微かに笑う。
「警察から聴取履歴も取り寄せたのかね、敏腕な記者は。俺は刑事とカウンセラーにだけは、3日目に全て話したから」
「うえぇ。あんなエログロな話を、たった3日あとに?」
「愛撫は執拗で、縫うように僕の身体を這った。怪我の痛みと未知の経験と恐怖で、されるがままに肌を許してしまった。母を馬鹿にされてキレた反撃が巧くいったけど、負けていたなら、僕はもっと剥かれ、弄ばれ、死の手前には犯されていたと思います、と締めた」
「だーっ、そこまで喋ったの!? ブレイドの記者、間違いなくソレ聴いてるぞ、まるまる記事に同じこと書いてあったもん!」
「ふうん。たいしたコネクションだね、敏腕記者」
「あのなぁ、数図、なにもそこまで正直に言うこたないんだよ、内容が内容! 泣いて誤魔化すか黙秘すりゃよかったんだ、スゲーつらかったろうに」
「辛かったから、逆に吐いたのさ。泣き寝入りしても犯人が歓ぶだけだ。それに、」
「ウソは嫌だ、だろ。ったく、ほんとマジメに生きてきたんだなぁ、おまえ」
「だから変なヨタを周りに吹くのは控えろ、ユウ。やがては、みんなも忘れてくれる」
「わかった」
邑治は頷く。片手で窓を示した。
「打ち明けてくれてサンキューな。よし、今夜、街に出る? いろいろな詫びだ、俺がぜんぶ奢る! キャバクラかディスコに行って、口直ししろよ、な!」
「うわついた真似は出来ない。賑やかな場所は苦手だし」
「俺のバイクで気晴らしに風を切ってた、ってことにしろ。俺からワカコ母さんに話しとく」
「嘘はつけない」
「あーもー! はいはいわかるよわかる、ブレイド9回は読んだから! 『かれは瞬間、弾けた。怪盗よ、おふくろを愚かと貶したか。まさに豹変だ。劣勢にあった青年は母を侮辱された怒りを糧に弾けたのだ。かれは掴みし眼鏡を怪盗にたたきつけ、いっきに攻勢に移った』!」
「マジ敏腕な記者だな。つうか、ははは、照れるね、そういう文にされると」
「じゃあさぁ、アパートにフリーな女の子を何人か呼ぶよ、アパートなら地味空間だし! お袋さんには邑治のアパートで遊んでた、っつえばウソにはならないだろ!」
「どうしても女遊びをさせたいのか」
「カワイー男子のがいいの? 紹介できるぜ? なんせカオ広いしぃ」
「なぜそうなる。もう、お気遣いサンクス。いらないいらない、気持ちだけいただくよ」
はあ、と彼は指先に着いた汚れを舐めとる。俯向き、肩も落とす。
邑治は、友の消沈ぶりと歯切れの悪さに、もどかしさを感じてならなかった。余計な探りを入れた俺が悪いんだ、ひどい記憶を思い出させた俺が悪い、俺が慰めなくちゃ、と一生懸命に考え、考え、
「そーだ! 俺とチューしよう、数図!」
考えた結果がそれかよ単細胞、と白鷺の執事がいらばケリをかますに違いない。
数図人は「え? え? え?」と、二の句が言えず、片足を退げた。
邑治は逆に、かれに更に寄る。
「口直し、口直し! おふざけと思って、軽くチューしよう!」
「おまえで口直しって……」
ふ、ふふ、と友は肩を揺らして笑いだした。
「ははは、マジ、馬鹿だな、ユウ」
「やろうぜ、ふざけたキスを。ユウ」
「おー! やっと余興にノッてくれた!!」
「や、もう、クックック、おまえの発想、おもしろ愉快すぎて。仕方ない、付き合うよ。おまえなりに一所懸命、気を払い、がんばった。それへの、付き合いだ」
眼鏡を外し、テーブルに置く。
向かい、「早めに済まそう。誰かに見られたら、それこそとんでもねえ噂になるし、ユウ、たぶんおまえは出禁になる」見上げ、「それに、おまえはデカすぎる、首が痛くなりそうだから、早く」眼差しを閉じた。
(見つめるのもなんか妙だし。まあ体勢的にコレ完全、俺が女形だけど、仕方ない)
が、しばらく待ったが、なにも起こらない。
(なんだよ、まだか? 目を瞑りながら待つって地味に辛い)
薄目を開こうか、
そのときだ。邑治は無防備な彼の唇に馳せた。
(か、カワイーー!! え、数図、こんな可愛かったっけ? ヤバい、これ、ヤバいよ)
「なんだよ、どうしたんだ、ユウ」
「数図ッ……」
「ん、ん……」
鼻先に気配を感じた。そして、口唇には、触れうるなにか。少なくともチョコレートではない。軽く、触れ、離れ、また触れて、離れ。
(鳥が点いてるみたいだな。実際、こいつの名前は白鷺だけど)
そろそろ目を開こう、と呑気に構えていたが、
(えっ?)
触れうるものの角度が変化した。より深く、押し付けられる。
(待っ……、ちょっと本格的な気が)
両頰に、手が添えられた。力が籠るから、よろめきかける。唇を開かせようとしているのか、と気づいたときには口腔に侵入された。
「ンッ……、ちょっ、ユウ、っ、あ、んぐっ、んんっ……」
おい待て馬鹿、これ舌だろ! 本格的すぎだ馬鹿! と頰をホールドする彼の手を引き離そうとした、けれど敵わない。
(こ、の、馬鹿力ッ….…)
身を捩ると、彼の片手が腰に回る。抱き寄せられた。強く。
(うそだろ、こんな、なぜ、ッ、熱い、クチのなかも、……カラダも、……)
舌先が歯列をなぞり、絡めてくる。身体が、未知の感覚に震えだす。深紅の悪魔が与えた苦痛と屈辱の味とはまったく別な、
(なんだ。この熱は、なんなんだ。わ、わからなッ……)
別な、これは、これは、おそらくーー
(快楽…………)
そんな、まさか、と浮かんだワードを必死に否定する。けれど、間違いなく己は、いま、悦に浸っている。
(だめだ。頭が……まっしろに……)
「……良かったみたいだな。俺が抱えてなきゃ倒れそーなぐらい」
「はぁッ、はぁッ、ユウ……」
「しようか、もーすこし」
「やだ、や、もう、や、めッ……」
「やめてやりたいけど……だって、まさか、こんなに可愛いとは。思ってなかったから」
「え? どういう意味だ。っていうか、離せよ、離せ……」
「なぁ、数図……」
囁く。耳元で、名を。息も吹き付ける。
「やッ、耳、やめ……」
「やめない。感じる? なら、もっと感じて?」
「な、なんで、なぜ、ここまでする? あッ……、あぁッ……」
「ワリー。可愛い、って思っちゃったんだ」
「え?……はぁあ!? どこからそんな思考にいったんだ、冒頭!? 中盤!? このハナシの起承転結の! どこにそんな要素があったんだよ!!」
「結び、かなー。いまさっき。チューの余興をだした直後」
「ま、ま、マジにおまえの発想は順序がメチャクチャ……」
唖然となる友の耳の裏から首筋へ、邑治は舌を滑らせ、舐めおろす。
「あッ、ユウ、それ、いやだ!」
「くすぐったい? なら、きっと、今にキモチよくなるぜ」
「あ、あぁッ、やめろ、邑ッ、ユ、ウ、はぁッ、はぁッ、応えに、なって、ない、なんで、俺を」
「普段はソッコー、座ってお喋りしてるじゃん、俺ら。今日、いま、初めて、ジーッと上から目を閉じたカオを見て、あれっ? 結構きれいだなぁって気づいた。そしたら、マジなチューしたくなっちゃって」
「なんだよそのイレギュラーな理由! あッ、やめ、首筋、やッ……、やめ、やだ、ぁぁぁ……!!」
「反応がまたウブで、敏感で可愛い、って気づいた。ほら、いまも。喘ぐ声、スゲー可愛い」
「あぁぁ、やめ、ぁ、ああッ……」
「いつもよりツーオクターブは高いよな、その声。もっと、聴きたい」
すっ、と邑治は急に身を離した。
当然、数図人は体勢を崩す。その身が折れる前に、邑治は即座に背後から抱き締めた。
「あッ、ユウ……! いやだ、もう離してくれ、たのむ、俺……っ、俺、こういうの、知らな……」
「教えてやるよ」
「嫌だ、これ、どんどんアタマが、くらくらする!」
「それが、いーんじゃん」
「ぁ、あ……、き、気分、が、おかし、く」
ふらつく有り様に囁く、
「おかしくない。イキそう、って言うんだよ、こういうときは」シャツの中に手を入れ、愛撫しながら。
「ヤぁッ、はぁッ、ぁ、あッぐ、ユウ、ゆ、う……」
「ほら、気持ちいい、って。言って」
「はぁッ、はぁッ、こんなの、あッ、こんな、俺、知らな、……っ、あ、ぁッ……キモチ、い、……」
口を噤む。
「ち、ちがう、いまの、違うッ」
「可愛い。いーぜ、素直に言えよ。反芻!」
「…………、う、ぅ、き、キモチいい……」
「わ、ほんとに応えた。わ。やっばい。マジ、可愛い」
「だ、だって、おまえが素直に、って言うから、……ゃ、やめろ、ユウ、俺、これ、わからな、ッん、あ……」
「……なぁ、部屋に行っていい? 数図。いま、誰もいないんだろ」
「えっ、あ、部屋……、だ、だめだ、散らかっ、てる」
「いつも大体は散らかってる。なんで今はダメなんだ?」
「そ、それは、……それは……」
「なに。なにを予感したの。なんか起こると思ったんだよな? それはキャバクラで遊ぶよりヤバいこと?」
「わかってて訊いてるのかよ。意地の、わる、い……」
「ん? 数図?」
「うっ、うっ……」
みなまで言えず、数図人は声を圧し殺した。
邑治は腕に力を籠める。
「うわ。マジ、ほんとマジにヤバい。可愛い。いじわるしてゴメンな、カズちゃん」
「もう、いい……。おまえは、いちどゴネたら梃子でも動かない馬鹿だ……」
離してくれ、歩ける。そう告げ、「部屋に、いこう」と、かれは、ふるえる声で締めた。乱れたシャツの胸元を握りしめ、よろめきながら歩きだす。
猫背のニートは「あの、誘っておいてアレだけど。だいじょーぶ? 途中で具合悪くなったら言ってね? 俺はいつでも暇だし」と付いて行く。
[続く]
【BLADE・K ISS】
「死ねだの、ぶち殺すだの。いくら理由が理由だとしても、まさか、俺に、あんな物騒なセリフが吐けてしまうとは。神よ、人間ってのは、ほんとうに罪深き存在なんですね」
「あっ、いた、いた! 数図ぅ~、課題、みてくんな~い?」
青年は眼鏡を直し、苦々しそうに振り返る。
「ヒトが猛省しながら祈ってる場を、あっさりとゴチャ混ぜる……」
「あ、お祈りしてたの。ワリーワリー」
「ぜんぜん誠意を感じねえ。まあいいよ。二階行こう、邑治。ったく、予備校もやめた暇人のクセに、なんで毎回毎回、課題をやりに来るんだか」
取り出したカッサで肩を押し押し階段を上る。
後ろから猫背なニートは話しかける。
「今日はさぁ、数図人が入院中には聴けなかったハナシもいろいろ聴けたらな~、って。課題は二の次!」
「見舞いのときに大体は話したろ」
「スゲーよなあ、俺がコッソリ忍ばせといたエアガンじゃなく、マジもんの銃ぶっ放したんだろ? しかも悪名高い『深紅の怪盗』に! かっけえ~、普段ケンカもスポーツもしないカズちゃんが」
「ひとこと多い。喧嘩なんか自分から振るわけないだろう、俺は立場上、優しい平和主義者でなきゃダメなんだ」
「不便だな~、クリスチャン。うちなんか、姉貴が薙刀振りまわすわ執事はキックボクシングかますわ」
「で、息子はニートで暴走族なドラ野郎。好き勝手でいいね、白鷺一派は」
「おまえ、ひとことどころか、やまほど多い!」
「ははは。ツッコミ箇所が多すぎるおまえが悪いんだよ、邑治」
二階のダイニングに入り、冷蔵庫を開く。コーラの瓶と缶コーヒーを出した。
「あ、いいよ数図。持参してる」
邑治はビニール袋をテーブルに置いた。中から麦茶のパックを出す。紙コップに注いだ。
「チョコレートも持ってきたぜ、食おう」
「差し入れサンクス、うわあゴディバかよ」
「アルコールなしのを選んだぜ?」
「いや、もう少し気楽なメーカーを選……、気楽なつもりなんだな、さすが白鷺」
ひとつぶを口にする、その様子を横目にし、邑治は、何の気なしに問いかけた。
「そ~いえばさぁ、あの夜、深紅の怪盗がおまえにチューした、って噂、ほんと? 数図」
ぶふっ、と数図人はチョコレートを噴きかけた。慌てて麦茶を喉に流しこむ。
「う、噂!? 誰だ、あのことをコソコソ誰かが話してたのか!?」
はっ、と口を噤む。ニヤつく邑治の表情で勘づいたのだ、いまのはカマかけだ!
「入院した直後のおまえの状態を調べたんだ。腹と手のひらに刺し傷、首筋に痣、こめかみに打撲、口の端に血痕、ってわかった。でも、翌日に見舞いに行ったら、おまえの口にケガはなかった。で、現場。押収物のルビエスのハンカチにおまえの血が付着してた。拭きとったら出来るシミだ、って知って、ますます変だなぁと思った。怪盗はおまえの腹も拭いてくれないサイコ野郎なのに、さて、いったい、数図のどこを拭ったのか」
「な、なんだ、いきなりの長台詞。推理力」
テーブルをカッサで軽く叩く。
「ってか、あの黒探偵の事務所連中! 白鷺邑治、こいつはダチだが他人なのに! ベラベラ喋りすぎだ!」
「違うよ。ネタ元は結城探偵事務所じゃない」
「新聞……ワイドショー……」
いいや、伏せ字だらけなあの件を明かすとしたら。
「インターネット」
「アパートにはマイコンねーから違う」
ならば残るは、
「……週刊誌……」
邑治はパチリと指を鳴らす。
「あー、読んだ読んだ! いちばん速くスゲー記事を出したのは『BLADE』だったっけ。犯人は被害者の腹を斬り裂いて喰ったとかナントカ」
「おまえなぁ、おふくろも愛莉も気遣って聴いてこねえのにズケズケとなぁ!」
「だから待ったんじゃん。ひとつき」
「……、ユウ」
「ほんとなら、スグにおまえに尋ねたかった。でも、俺は待った。俺はスゲー短気だけど、おまえが話せる時期まで待った。そして、いま、正面から尋ねてる、数図。おまえの優しい周りが避ける話でも、俺は真実を聴きたい。ダチだから、俺は聴く」
「……ユウ……」
サンクス、と数図人は呟く。
「嬉しいよ。文章を読むを嫌うおまえが、まる1ヶ月も小難しい本を読んで調べていただなんて。かなり感動した」
「ちょこっと違う。まあ雑誌も読みこんだけど、もっと正確な証拠が欲しくて、病院から執刀記録、警察から現場検証結果を取り寄せたんだ。俺はそこから、推理したわけ」
「って、そんなシークレットを取り寄せた!? 誰が!?」
「俺が」
脱力感に沈む数図人。白鷺の情報収集力に戦慄も覚えた。
「邑治……だが、まさか、おまえ、いまの話を誰かに回すつもりじゃないだろうな……」
「うひぃ、なんか殺気! 安心しろ、臆測でウワサなんか流さねーよ」
たったいま確証に変わったから、来週までにはみんなの噂にしちゃうけど、と続けた。
数図人はガタリと席を立つ。パイプ椅子が揺らぐ勢いだ。眼前の悪友に身を乗り出す。睨みつけた。
「Te mato……」
「なに語かわかんないけど、ゼッタイやばい意味だね? ひ~、おっかね~、黒探偵よりスナイパーっぽ~い、コワぁい!」
「まったく怖がってねえ口振りだ。気色悪い!」
「まあまあ、落ち着いて。いいじゃん、チューのひとつやふたつ。おもしろ愉快なウワサにしちゃれよ、そしたら猟奇的な箇所が薄まってアイリちゃんたちも安心するだろ?」
「そりゃ安堵はさせてぇよ! しかしそんな卑猥な話を撒けるか!? この神聖なエクレシアに!」
「紅い悪魔が聖なる若者にチューかぁ」
「へんなアオリつけんな!!」
「チュー、チュー」
紙コップを掴み、のんびりチュウチュウと茶を啜る猫背。
「なぁ、どんなチューだったの。大悪党とはいえ、美人なんだろ、深紅の怪盗。ローズ味のリップを愛用してる、とかヨタ話に聴いた。なあ、どーだった? やっぱ、ローズ味してた?」
「知らねえよ! 俺はずっと口を閉じてた!」
嘘だが。うっかり喋ったらアッサリ呑まれたが。ついでに味は鉄錆ていたが。
「味なんか意識してらんねぇよ。いいか、あのサイコパスは俺の血を吸い、肉を食べたんだぜ、肉を!」
「うひぃ。ブレイドの記事、マジだったの。ホラーかよ。そりゃ、痛みと恐怖心のが勝るわな。お楽しみどころじゃね~」
「お楽しみ、って……。ユウ。さっきから、おまえ、下品な言い方ばかり……」
「ん? あっ、そうか、おまえ、うちの執事以上に猥談キライだったよな! ワリー!!」
今度は本気の陳謝の模様。柏手をつくり、頭を下げる。そうして、話難そうにしつつ、「もしかして、ファーストキス、だったり?」我慢できずに、のたまった。
数図人は遂にテーブルをカッサを嵌めた握り拳で撲り叩く。
「ユウ!! ぶち殺すぞ、てめえェェェ!!」
「うひぃ、待っ、セリフがNG! クリスチャン的にNGです、数図人さま!!」
邑治は椅子ごと後退る。
「マジ、聖人なんだな、おまえ。チューに、夢を抱いてたのな。ゴメン。俺なんか人生で最初にチューしたの誰だっけ? ってカンジなのに」
「ああ!? 成人ですがなにか!? 5年も前から成人ですがなにか!?」
「待てマテマテ! マジ悪かった、もうからかってなんかない、落ち着いてくれ!」
歩み寄り、チョコレートを熱り立つ友に差し出す。くちびるに充ててやると、友は素直にそれを含み噛んだ。
「別に、キスに壮大な夢なんかねえ。カノジョを作るより、趣味のほうが楽しい。だけど、いざ、あんな酷い形で経験しちまうと。ああ畜生、って。なにかとても大切なものを失った気分でいっぱいになる」
「……ブレイドの記事、もしかして、全部ほんとだったのか」
数図人は「ああ。事実だ。って言うしかねぇ。やはり嘘は、いやだ」と微かに笑う。
「警察から聴取履歴も取り寄せたのかね、敏腕な記者は。俺は刑事とカウンセラーにだけは、3日目に全て話したから」
「うえぇ。あんなエログロな話を、たった3日あとに?」
「愛撫は執拗で、縫うように僕の身体を這った。怪我の痛みと未知の経験と恐怖で、されるがままに肌を許してしまった。母を馬鹿にされてキレた反撃が巧くいったけど、負けていたなら、僕はもっと剥かれ、弄ばれ、死の手前には犯されていたと思います、と締めた」
「だーっ、そこまで喋ったの!? ブレイドの記者、間違いなくソレ聴いてるぞ、まるまる記事に同じこと書いてあったもん!」
「ふうん。たいしたコネクションだね、敏腕記者」
「あのなぁ、数図、なにもそこまで正直に言うこたないんだよ、内容が内容! 泣いて誤魔化すか黙秘すりゃよかったんだ、スゲーつらかったろうに」
「辛かったから、逆に吐いたのさ。泣き寝入りしても犯人が歓ぶだけだ。それに、」
「ウソは嫌だ、だろ。ったく、ほんとマジメに生きてきたんだなぁ、おまえ」
「だから変なヨタを周りに吹くのは控えろ、ユウ。やがては、みんなも忘れてくれる」
「わかった」
邑治は頷く。片手で窓を示した。
「打ち明けてくれてサンキューな。よし、今夜、街に出る? いろいろな詫びだ、俺がぜんぶ奢る! キャバクラかディスコに行って、口直ししろよ、な!」
「うわついた真似は出来ない。賑やかな場所は苦手だし」
「俺のバイクで気晴らしに風を切ってた、ってことにしろ。俺からワカコ母さんに話しとく」
「嘘はつけない」
「あーもー! はいはいわかるよわかる、ブレイド9回は読んだから! 『かれは瞬間、弾けた。怪盗よ、おふくろを愚かと貶したか。まさに豹変だ。劣勢にあった青年は母を侮辱された怒りを糧に弾けたのだ。かれは掴みし眼鏡を怪盗にたたきつけ、いっきに攻勢に移った』!」
「マジ敏腕な記者だな。つうか、ははは、照れるね、そういう文にされると」
「じゃあさぁ、アパートにフリーな女の子を何人か呼ぶよ、アパートなら地味空間だし! お袋さんには邑治のアパートで遊んでた、っつえばウソにはならないだろ!」
「どうしても女遊びをさせたいのか」
「カワイー男子のがいいの? 紹介できるぜ? なんせカオ広いしぃ」
「なぜそうなる。もう、お気遣いサンクス。いらないいらない、気持ちだけいただくよ」
はあ、と彼は指先に着いた汚れを舐めとる。俯向き、肩も落とす。
邑治は、友の消沈ぶりと歯切れの悪さに、もどかしさを感じてならなかった。余計な探りを入れた俺が悪いんだ、ひどい記憶を思い出させた俺が悪い、俺が慰めなくちゃ、と一生懸命に考え、考え、
「そーだ! 俺とチューしよう、数図!」
考えた結果がそれかよ単細胞、と白鷺の執事がいらばケリをかますに違いない。
数図人は「え? え? え?」と、二の句が言えず、片足を退げた。
邑治は逆に、かれに更に寄る。
「口直し、口直し! おふざけと思って、軽くチューしよう!」
「おまえで口直しって……」
ふ、ふふ、と友は肩を揺らして笑いだした。
「ははは、マジ、馬鹿だな、ユウ」
「やろうぜ、ふざけたキスを。ユウ」
「おー! やっと余興にノッてくれた!!」
「や、もう、クックック、おまえの発想、おもしろ愉快すぎて。仕方ない、付き合うよ。おまえなりに一所懸命、気を払い、がんばった。それへの、付き合いだ」
眼鏡を外し、テーブルに置く。
向かい、「早めに済まそう。誰かに見られたら、それこそとんでもねえ噂になるし、ユウ、たぶんおまえは出禁になる」見上げ、「それに、おまえはデカすぎる、首が痛くなりそうだから、早く」眼差しを閉じた。
(見つめるのもなんか妙だし。まあ体勢的にコレ完全、俺が女形だけど、仕方ない)
が、しばらく待ったが、なにも起こらない。
(なんだよ、まだか? 目を瞑りながら待つって地味に辛い)
薄目を開こうか、
そのときだ。邑治は無防備な彼の唇に馳せた。
(か、カワイーー!! え、数図、こんな可愛かったっけ? ヤバい、これ、ヤバいよ)
「なんだよ、どうしたんだ、ユウ」
「数図ッ……」
「ん、ん……」
鼻先に気配を感じた。そして、口唇には、触れうるなにか。少なくともチョコレートではない。軽く、触れ、離れ、また触れて、離れ。
(鳥が点いてるみたいだな。実際、こいつの名前は白鷺だけど)
そろそろ目を開こう、と呑気に構えていたが、
(えっ?)
触れうるものの角度が変化した。より深く、押し付けられる。
(待っ……、ちょっと本格的な気が)
両頰に、手が添えられた。力が籠るから、よろめきかける。唇を開かせようとしているのか、と気づいたときには口腔に侵入された。
「ンッ……、ちょっ、ユウ、っ、あ、んぐっ、んんっ……」
おい待て馬鹿、これ舌だろ! 本格的すぎだ馬鹿! と頰をホールドする彼の手を引き離そうとした、けれど敵わない。
(こ、の、馬鹿力ッ….…)
身を捩ると、彼の片手が腰に回る。抱き寄せられた。強く。
(うそだろ、こんな、なぜ、ッ、熱い、クチのなかも、……カラダも、……)
舌先が歯列をなぞり、絡めてくる。身体が、未知の感覚に震えだす。深紅の悪魔が与えた苦痛と屈辱の味とはまったく別な、
(なんだ。この熱は、なんなんだ。わ、わからなッ……)
別な、これは、これは、おそらくーー
(快楽…………)
そんな、まさか、と浮かんだワードを必死に否定する。けれど、間違いなく己は、いま、悦に浸っている。
(だめだ。頭が……まっしろに……)
「……良かったみたいだな。俺が抱えてなきゃ倒れそーなぐらい」
「はぁッ、はぁッ、ユウ……」
「しようか、もーすこし」
「やだ、や、もう、や、めッ……」
「やめてやりたいけど……だって、まさか、こんなに可愛いとは。思ってなかったから」
「え? どういう意味だ。っていうか、離せよ、離せ……」
「なぁ、数図……」
囁く。耳元で、名を。息も吹き付ける。
「やッ、耳、やめ……」
「やめない。感じる? なら、もっと感じて?」
「な、なんで、なぜ、ここまでする? あッ……、あぁッ……」
「ワリー。可愛い、って思っちゃったんだ」
「え?……はぁあ!? どこからそんな思考にいったんだ、冒頭!? 中盤!? このハナシの起承転結の! どこにそんな要素があったんだよ!!」
「結び、かなー。いまさっき。チューの余興をだした直後」
「ま、ま、マジにおまえの発想は順序がメチャクチャ……」
唖然となる友の耳の裏から首筋へ、邑治は舌を滑らせ、舐めおろす。
「あッ、ユウ、それ、いやだ!」
「くすぐったい? なら、きっと、今にキモチよくなるぜ」
「あ、あぁッ、やめろ、邑ッ、ユ、ウ、はぁッ、はぁッ、応えに、なって、ない、なんで、俺を」
「普段はソッコー、座ってお喋りしてるじゃん、俺ら。今日、いま、初めて、ジーッと上から目を閉じたカオを見て、あれっ? 結構きれいだなぁって気づいた。そしたら、マジなチューしたくなっちゃって」
「なんだよそのイレギュラーな理由! あッ、やめ、首筋、やッ……、やめ、やだ、ぁぁぁ……!!」
「反応がまたウブで、敏感で可愛い、って気づいた。ほら、いまも。喘ぐ声、スゲー可愛い」
「あぁぁ、やめ、ぁ、ああッ……」
「いつもよりツーオクターブは高いよな、その声。もっと、聴きたい」
すっ、と邑治は急に身を離した。
当然、数図人は体勢を崩す。その身が折れる前に、邑治は即座に背後から抱き締めた。
「あッ、ユウ……! いやだ、もう離してくれ、たのむ、俺……っ、俺、こういうの、知らな……」
「教えてやるよ」
「嫌だ、これ、どんどんアタマが、くらくらする!」
「それが、いーんじゃん」
「ぁ、あ……、き、気分、が、おかし、く」
ふらつく有り様に囁く、
「おかしくない。イキそう、って言うんだよ、こういうときは」シャツの中に手を入れ、愛撫しながら。
「ヤぁッ、はぁッ、ぁ、あッぐ、ユウ、ゆ、う……」
「ほら、気持ちいい、って。言って」
「はぁッ、はぁッ、こんなの、あッ、こんな、俺、知らな、……っ、あ、ぁッ……キモチ、い、……」
口を噤む。
「ち、ちがう、いまの、違うッ」
「可愛い。いーぜ、素直に言えよ。反芻!」
「…………、う、ぅ、き、キモチいい……」
「わ、ほんとに応えた。わ。やっばい。マジ、可愛い」
「だ、だって、おまえが素直に、って言うから、……ゃ、やめろ、ユウ、俺、これ、わからな、ッん、あ……」
「……なぁ、部屋に行っていい? 数図。いま、誰もいないんだろ」
「えっ、あ、部屋……、だ、だめだ、散らかっ、てる」
「いつも大体は散らかってる。なんで今はダメなんだ?」
「そ、それは、……それは……」
「なに。なにを予感したの。なんか起こると思ったんだよな? それはキャバクラで遊ぶよりヤバいこと?」
「わかってて訊いてるのかよ。意地の、わる、い……」
「ん? 数図?」
「うっ、うっ……」
みなまで言えず、数図人は声を圧し殺した。
邑治は腕に力を籠める。
「うわ。マジ、ほんとマジにヤバい。可愛い。いじわるしてゴメンな、カズちゃん」
「もう、いい……。おまえは、いちどゴネたら梃子でも動かない馬鹿だ……」
離してくれ、歩ける。そう告げ、「部屋に、いこう」と、かれは、ふるえる声で締めた。乱れたシャツの胸元を握りしめ、よろめきながら歩きだす。
猫背のニートは「あの、誘っておいてアレだけど。だいじょーぶ? 途中で具合悪くなったら言ってね? 俺はいつでも暇だし」と付いて行く。
[続く]
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