小学生魔女アリス

向浜小道

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第8話 パパとママのお仕事って……?(1)

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 今日は色々あった一日だったわ……。っていうより、人間界に来てから、すごく色々なことがあったわ。
 それにしても、雪ちゃんが大切な友達にまた会えて、陽菜ちゃんに大切な思い出が戻ってきて、本当に良かった……。
 また、陽菜ちゃんに会えるといいな。
「――アリス」
 ……?
「ありがとう。陽菜の記憶をよみがえらせてくれて」
「ううん。わたしは何もしてないわ。二人の大切な思い出を取り戻したのは、雪ちゃんなんだよ」
 一緒に練習をして、魔法は使ったけど、雪ちゃん自身の想いがなければ、きっと成功しなかったもの。これは間違いなく、雪ちゃんの力。
 もしかすると、雪ちゃんと陽菜ちゃんなら、魔法なんかなくても大丈夫だったのかも。
 ……あれ? さっき雪ちゃん、わたしの名前を呼ばなかった? それも初めて! いや、気のせいかしら?
「ねぇ、雪ちゃん」
「……なに?」
 五年二組に転校してきた最初の日、雪ちゃんはわたしのことを「大嫌い」って言ったけど、それでも陽菜ちゃんとの過去を話してくれて……。わたしに心を開いてくれたのかなって、思ったの。
 魔法の練習のときの、一生懸命な姿。初めて見せてくれた笑顔。陽菜ちゃんへの強い想い。雪ちゃんの色んな表情、たくさん見られたな……。
 雪ちゃんと、もっと仲良くなれたらいいな……。そう思った。
「わたし、雪ちゃんとお友達になりたいの。だめ……かな?」
「……それは無理」
 少しうつむいて、雪ちゃんは言った。
「魔法の練習に付き合ってくれたこと、それと今日のこと、本当に感謝してるわ。……でも、あなたのことは嫌い。だから、友達にはなれない」
 雪ちゃんがわたしと友達になろうと思ってないなら、仕方ないわよね。
 前に「大嫌い」って言われたときはすごく悲しかった。でも今度は、どうしてかな……そんなに悲しくない。

 遠くから、車のエンジンの音が聞こえてくる。
「あ、迎えに来てくれたみたい」
 パパの車は駐車スペースに丁寧に収まった。
 運転席の扉が開いて、パパが出てきて――あれ、助手席の扉も開いた。黒くて長い髪をした女の人が助手席から降りてきた。
「お母さん!? なんでここに……?」
 この人、雪ちゃんのお母さんだったのね。
「雪~! 今日は何作ったの?」
 ハイヒールをカツカツいわせながら、お母さんは雪ちゃんに駆け寄ってきた。
「りんごのマフィンだけど」
「あら~、美味しそうじゃない。今度、私とお父さんにも作ってくれる?」
「分かったから、人前で頭なで回すのやめてくれない?」
 雪ちゃんのお母さん、優しそうな人ね。わたしのママは、めったに頭をなでてくれたりはしないから、ちょっとうらやましいわ。
 ようやく頭をなでるのをやめた雪ちゃんのお母さんは、わたしの姿に気付いて、
「あなた、アリスちゃんじゃない? 子どもの頃のメアリにそっくり! 将来は美人さんになるわね~」
 え、なんでわたしのこと知ってるのかしら? メアリって、ママの名前よね? ママと雪ちゃんのお母さんって、やっぱり知り合いだったのね!
「あ、あの……はじめまして」
「はじめまして! 今日は雪に付き合ってくれてありがとうね」
 びっくりして、ぎこちないあいさつをしてしまったわたしに、雪ちゃんのお母さんは明るく答えてくれた。

「ルイス、疲れてるんじゃない? 帰りは私が運転するわ」
 雪ちゃんのお母さんが、長い時間運転しっぱなしだったパパを気遣ってくれた。
「いえ、大丈夫です」
 パパはなぜか焦った様子で、早口で断った。
「わたしもやめておいた方がいいと思う。だって、お母さんの運転って――」
「なんていうか、良く言えば、スリルがあるというか……」
 雪ちゃんの言葉に続いて、パパは一生懸命言葉を選ぼうとがんばってる。
「じゃあ、悪く言えば?」
「下手」
 お母さんの問いかけに、雪ちゃんは一瞬の間も置かずに答えた。
 雪ちゃんのお母さんの整った顔が、みるみるうちに歪んで、目に涙が浮かんだ。
「ああ! 天美さん、泣かないで。車の運転も、ほうきと同じで練習すれば上手くなりますから」
「本当……?」
 パパの優しい声掛けに、雪ちゃんのお母さん――天美さんはさらに涙を流した。
「すみません、なぐさめていただいて。――お母さん、ごめんって。いいからもう泣き止んで、恥ずかしいから」

 運転席にパパが、助手席に天美さんが、わたしと雪ちゃんがその後ろに座って、車はお料理教室を後にした。
 茶色いレンガのお家がどんどん小さくなって、見えなくなった。
「そういえば、ホワイト家は人間界こっちに来てそんなに経ってないのに、いつ免許取ったの?」
魔法界向こうにも、最近教習所ができたんです。人間界に移住する魔法使いたちのために」
「あら、そうなの? 知らなかったわ」
 わたしも知らなかったわ。車の教習所が魔法界にもあることも、わたしたちのほかにも魔法使いが人間界に来てるってことも。
 教習所って、乗り方を教わるところよね。魔法界では、五人乗りとかの大きなほうきに乗るためには、教習所に行かないといけないの。
「それにしても、なんとかなって良かったわね、ルイス」
「えっと、何のことでしょうか……?」
 今日はそこまで暑くないと思うのに、パパはおでこから汗を流している。
「とぼけることないじゃない! さっきの『魔法生物出没事件』のことに決まってるでしょ」
「わあああああ! あの、僕たちの仕事のことは、アリスには言わないことになってて――」
 『魔法生物出没事件』? 人間界(こっち)に、魔法界(向こう)にいるはずの生き物が来たってこと!?
「メアリから連絡をもらったときはびっくりしたわ。魔法生物が人間界(こっち)に来るのなんて久しぶりだったもの。メアリが水晶玉で異常を検知してくれてなかったら、あのカラスもどき、もっと大暴れして人間たちに怪我をさせてたかも」
 慌てるパパに構わず、天美さんは話を続ける。
 お料理教室に向かう途中、パパが指輪越しに話してたのって、ママだったのね。
 それと魔法生物って、もしかして、人間を追いかけてたあの三匹のカラス? 化けてたのね……全然気付かなかったわ!
「今まで大変だったのよ。今日みたいなことがあっても、私一人でやってたんだから。私のダーリンは生まれつき魔力が少ないから、あまり無理はさせられないでしょ。ルイスとメアリが来てくれたおかげで、とってもスムーズに解決できたわ」
 天美さんは白いハンカチで、パパの頬を伝う汗を拭いた。
「ルイスは本当に魔法生物をなだめるのが上手いのね」
「いや、今回は特に苦労したんですよ。あの子たち、なんていうか、とても……元気いっぱいだったから」
 パパは途切れ途切れに言った。
「生まれ持った性格って、得意な魔法にも影響するのかもね。ルイスは優しい心の持ち主だから、心を読む魔法で誰かの気持ちに寄り添えるんでしょうね。だから、あのカラスもどきでさえも、ルイスの前では良い子になれたのよ」
 わたしもそう思うわ。だってパパは、わたしがつらいとき、いつもわたしの気持ちを分かろうとしてくれるもの。
「天美さんこそ、素晴らしいじゃないですか、転送魔法。それも人間界から魔法界に。あれ、けっこう魔力消費するんですよ。身体は大丈夫なんですか?」
 転送魔法のかけ方は、魔法陣を描くっていうところは移動魔法と同じ。なんだけど、移動魔法は自分が移動「する」ときに使って、転送魔法は自分じゃないものを移動「させる」ときに使うの。
「全然平気よ」
 すごい……!
 わたしも、すごく短い距離で転送魔法を使ったことはあるけど、ものを隣の教室に送っただけでもフラフラして、その日はほうきに乗れないくらい魔力が減っちゃったの。転送魔法は、「ものを移動させる」ことと、「自分はそこに残る」ことっていう、二つのことを同時に考えないといけないから、それですごく疲れちゃうのかも。
 それぐらい魔力を使う魔法なのに、人間界から魔法界にあの元気いっぱいなカラスもどきを送り返せるなんて、天美さんはものすごくたくさんの魔力を持ってるのね!
「むしろ、ずっと溜めてた魔力を思いっきり出せたから、すっきりしたぐらいよ。私、魔力が多いから、抑えるのが大変なのよ。まあ、人間界に来て五年目だし、だいぶ慣れてきたけどね」
 すごい……!
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