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第4話 確かに感じた魔法の力(1)
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「馬鹿げたこと言わないで」
それが、雪ちゃんの答えだった。でも、雪ちゃんがわたしと「同じ」なのは間違いないと思う。だって、わたしにはちゃんと感じたもの……魔法の力を。
「アリスさん、怖い思いをしましたね」
いつの間にか、黒崎先生が戻ってきていた。一真君と順平君はいないから、きっと保健室で手当てを受けているのね。
「でも、もう大丈夫です。一真君と順平君にはもう二度とあのようなことはしないよう、よく言って聞かせました。五年二組には、アリスさんの力になってくれる人がたくさんいます。なので、困ったときはクラスメイトや先生に助けを求めてくださいね」
黒崎先生、本当に頼もしいな……。でも、みんなに頼ってばかりじゃ悪いから、わたしもみんなの力になりたい!
「雪さん、アリスさんをよく助けられましたね。とても勇気が必要だったと思います。しかし、今後は決して一人で解決しようとするのではなく、先生を呼んでくださいね。そうすれば、クラスメイトやものを傷つけることはないでしょう」
「ごめんなさい……。矢吹君と横谷君になんとおわびしたらいいか……それに、窓ガラスも――」
「修理をするためのお金と、怪我の治療費は学校が負担します。誰にでも感情が暴走してしまうことはありますから、必要以上に自分を責めないでくださいね」
そうだよ。わたしなんて、ドラゴンの絵をヘビだって言われたとき、腹が立って魔法でその絵を燃やして灰にしようとしたら、教室を火事にしそうになったことがあるもの。教室ごと燃やそうだなんて考えてなかったのに、あまりにすごい力だったからびっくりしたわ。そのときからだったかしら……怒ってるときに魔法を使うことを、禁止されたのは(主に魔法学校の先生やママから)。
チャイムが鳴る頃、教室の外からドタバタと慌てた足音がした。
「セーフ!」
未来のサッカー選手――赤松壮司君が、滑るように教室の中に入ってきた。
「あれ、先生、一真と順平は?」
「二人とも怪我をして、病院で手当てを受けています」
え、病院!? 怪我、そんなにひどいのね……。二人にされたことをわたしは許すつもりはないけど、なんだか心配になってきた。
「二人そろって怪我とか、もしかして、殴り合い? おお、怖え……」
壮司君、本当は怖がってなんかないでしょ。こんなときに変なこと言わないでよ。
「先生、ビデオカメラを確認してほしいのですが……」
〈朝の会〉が終わると、思伝君が一番に席を立った。
「証拠を残してくれたこと、感謝します。クラスの問題の解決に、大いに役立つことでしょう。ショッキングな映像だと思うので、今ではなく、放課後職員室で一緒に確認しましょう。――しかし思伝君、学級新聞の記事を書くことで頭がいっぱいになっていませんでしたか?」
黒崎先生にそう言われて、思伝君は恥ずかしそうに頭をかいた。
「仲間へ思いやりの気持ちを示すことも、とても大切ですよ。これからの学校生活でそれを身に付けていけるといいですね」
「はい……」
「アリスさん、すぐに助けられなくてごめんなさい」
黒崎先生とのお話が終わった後、思伝君がわたしの席にやってきた。
「矢吹君と横谷君に正面から立ち向かう勇気がぼくにはなくて……この方法しか思いつかなかったんだ」
ビデオカメラを軽く持ち上げながら、思伝君はゆっくりと話し始めた。
「最初はクラスの問題を解決しようとして撮ってたけど、つい学級新聞の方に頭が向いてしまっていて……アリスさんの気持ちを考えられずに、本当にごめんなさい!」
思伝君は目に涙を浮かべていた。
「思伝君はわたしを十分助けてくれたわ。ありがとう。あなたのビデオカメラがなかったら、さっきのことを先生に信じてもらえたかどうか……。学級新聞、楽しみにしてるね」
正直、学級新聞にさっきのことが載るのはやっぱり恥ずかしい。でも、本当は優しい心を持ってる思伝君の文章、読んでみたいな。
「アリスちゃん、大丈夫だった……?」
思伝君と入れ替わるように、楓ちゃんが声をかけてくれた。
「うん、平気よ。楓ちゃんこそ、びっくりしたでしょ? 先生呼びに行ってくれてありがとう」
「窓は割れてるし、矢吹君と横谷君は怪我してるしで、何事かと思ったけど、そういうことだったんだね……。あの二人、ほんと最低!」
「変な自己紹介したわたしも悪いわ。もっと普通にできたら、こんなことにはならなかったよね……」
「わたしは、アリスちゃんの自己紹介、好きだよ! 嘘がなくて、まっすぐ気持ちが伝わってきて……『この子と友達になりたい』って、心から思ったの」
楓ちゃん……。
「あ、もうすぐ一時間目始まっちゃう! 次の休み時間、お絵描きしようね」
黒板の上にかざってある時計を見て、楓ちゃんは席に戻って行った。
今朝も色々あったな……。楓ちゃんに声かけられて嬉しかったり、そうかと思えば意地悪な二人組に生の爬虫類を食べさせられそうになったり……。それに、雪ちゃんのこともやっぱり気になるし。
一生懸命授業をしてくれてる黒崎先生には悪いけど、一時間目の授業に集中できなかった。
それが、雪ちゃんの答えだった。でも、雪ちゃんがわたしと「同じ」なのは間違いないと思う。だって、わたしにはちゃんと感じたもの……魔法の力を。
「アリスさん、怖い思いをしましたね」
いつの間にか、黒崎先生が戻ってきていた。一真君と順平君はいないから、きっと保健室で手当てを受けているのね。
「でも、もう大丈夫です。一真君と順平君にはもう二度とあのようなことはしないよう、よく言って聞かせました。五年二組には、アリスさんの力になってくれる人がたくさんいます。なので、困ったときはクラスメイトや先生に助けを求めてくださいね」
黒崎先生、本当に頼もしいな……。でも、みんなに頼ってばかりじゃ悪いから、わたしもみんなの力になりたい!
「雪さん、アリスさんをよく助けられましたね。とても勇気が必要だったと思います。しかし、今後は決して一人で解決しようとするのではなく、先生を呼んでくださいね。そうすれば、クラスメイトやものを傷つけることはないでしょう」
「ごめんなさい……。矢吹君と横谷君になんとおわびしたらいいか……それに、窓ガラスも――」
「修理をするためのお金と、怪我の治療費は学校が負担します。誰にでも感情が暴走してしまうことはありますから、必要以上に自分を責めないでくださいね」
そうだよ。わたしなんて、ドラゴンの絵をヘビだって言われたとき、腹が立って魔法でその絵を燃やして灰にしようとしたら、教室を火事にしそうになったことがあるもの。教室ごと燃やそうだなんて考えてなかったのに、あまりにすごい力だったからびっくりしたわ。そのときからだったかしら……怒ってるときに魔法を使うことを、禁止されたのは(主に魔法学校の先生やママから)。
チャイムが鳴る頃、教室の外からドタバタと慌てた足音がした。
「セーフ!」
未来のサッカー選手――赤松壮司君が、滑るように教室の中に入ってきた。
「あれ、先生、一真と順平は?」
「二人とも怪我をして、病院で手当てを受けています」
え、病院!? 怪我、そんなにひどいのね……。二人にされたことをわたしは許すつもりはないけど、なんだか心配になってきた。
「二人そろって怪我とか、もしかして、殴り合い? おお、怖え……」
壮司君、本当は怖がってなんかないでしょ。こんなときに変なこと言わないでよ。
「先生、ビデオカメラを確認してほしいのですが……」
〈朝の会〉が終わると、思伝君が一番に席を立った。
「証拠を残してくれたこと、感謝します。クラスの問題の解決に、大いに役立つことでしょう。ショッキングな映像だと思うので、今ではなく、放課後職員室で一緒に確認しましょう。――しかし思伝君、学級新聞の記事を書くことで頭がいっぱいになっていませんでしたか?」
黒崎先生にそう言われて、思伝君は恥ずかしそうに頭をかいた。
「仲間へ思いやりの気持ちを示すことも、とても大切ですよ。これからの学校生活でそれを身に付けていけるといいですね」
「はい……」
「アリスさん、すぐに助けられなくてごめんなさい」
黒崎先生とのお話が終わった後、思伝君がわたしの席にやってきた。
「矢吹君と横谷君に正面から立ち向かう勇気がぼくにはなくて……この方法しか思いつかなかったんだ」
ビデオカメラを軽く持ち上げながら、思伝君はゆっくりと話し始めた。
「最初はクラスの問題を解決しようとして撮ってたけど、つい学級新聞の方に頭が向いてしまっていて……アリスさんの気持ちを考えられずに、本当にごめんなさい!」
思伝君は目に涙を浮かべていた。
「思伝君はわたしを十分助けてくれたわ。ありがとう。あなたのビデオカメラがなかったら、さっきのことを先生に信じてもらえたかどうか……。学級新聞、楽しみにしてるね」
正直、学級新聞にさっきのことが載るのはやっぱり恥ずかしい。でも、本当は優しい心を持ってる思伝君の文章、読んでみたいな。
「アリスちゃん、大丈夫だった……?」
思伝君と入れ替わるように、楓ちゃんが声をかけてくれた。
「うん、平気よ。楓ちゃんこそ、びっくりしたでしょ? 先生呼びに行ってくれてありがとう」
「窓は割れてるし、矢吹君と横谷君は怪我してるしで、何事かと思ったけど、そういうことだったんだね……。あの二人、ほんと最低!」
「変な自己紹介したわたしも悪いわ。もっと普通にできたら、こんなことにはならなかったよね……」
「わたしは、アリスちゃんの自己紹介、好きだよ! 嘘がなくて、まっすぐ気持ちが伝わってきて……『この子と友達になりたい』って、心から思ったの」
楓ちゃん……。
「あ、もうすぐ一時間目始まっちゃう! 次の休み時間、お絵描きしようね」
黒板の上にかざってある時計を見て、楓ちゃんは席に戻って行った。
今朝も色々あったな……。楓ちゃんに声かけられて嬉しかったり、そうかと思えば意地悪な二人組に生の爬虫類を食べさせられそうになったり……。それに、雪ちゃんのこともやっぱり気になるし。
一生懸命授業をしてくれてる黒崎先生には悪いけど、一時間目の授業に集中できなかった。
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