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第3話 カエルとトカゲ事件(1)
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昨日あんな自己紹介して、今日からどんな顔して学校に行けばいいのかな?
気が重いけど、みんなと仲良くなりたいし、それに、雪ちゃんにも昨日のことちゃんと謝りたい。でも、やっぱり気分は昨日から沈んだまま、浮き上がってきてくれない。
「笑顔が一番だよ。仲良くなりたい気持ちを忘れずに、楽しいことを考えれば、きっと良い一日になる」
〈白ご飯〉を〈お箸〉ですくいながら、パパが言った。……もう、パパ。私の心の中勝手に読むのやめてよ、恥ずかしいから。
「ごめんよ、アリスが心配でつい……。――昨日ママから聞いたよ。つらい思いをしたんだね。でも安心して、何があってもパパとママはアリスの味方だ」
パパ……。
「『笑顔が一番』なんて言ったけど、悲しいときは無理に笑わなくていいんだよ。自分の気持ちに正直なところが、アリスのいいところだからね」
「ありがとう……本当の笑顔で、今日も学校がんばってくるね!」
少しだけぬるくなった〈味噌汁〉を飲み干して、わたしは急いで仕度を始めた。
今朝から話す元気も出なかったけど、パパのおかげでちょっとずつ気分が浮き上がってくれる予感がした。
やっぱりランドセル重いし肩が痛い……。これから毎日こんな思いをしながら学校に行かなきゃいけないの? ちょっとでも力持ちになれたらいいのにな……。
そう心の中でひとりごとを言いながら歩いていると、校門の前に黒崎先生が立っているのが見えた。そっか、今日は黒崎先生があいさつ当番なのね。
「先生、おはようございます」
「おはようございます、アリスさん。――大丈夫ですか? 目がはれていますが……」
しまった……昨日たくさん泣いたから、ひどい顔になってるの忘れてた。
「平気です。心配してくれてありがとうございます」
「何か悩んでいることがあれば、いつでも相談してくださいね」
黒崎先生、やっぱり優しいな……。
クラスのみんなにこの顔を見せるわけにはいかないから、お手洗いの洗面所で顔を洗うことにした。
これでちょっとはマシになるといいんだけど……。
「おはよう、アリスちゃん」
ぬれた顔をハンカチでぬぐっていると、誰かが声をかけてくれた。
後ろを振り返って姿を見ると、同じクラスの――あれ、どうしよう……名前が思い出せない!
「わたし、西園寺楓。これからよろしくね」
おはようを言った後に口ごもっていると、その子は名前を教えてくれた。
「うん、よろしくね、楓ちゃん!」
わたしがそう答えると、楓ちゃんは優しい笑顔を見せた。
「昨日は勇気が出なくて話しかけられなかったけど、今日アリスちゃんに会えて良かった」
そっか、わたしだけじゃなくて、楓ちゃんもドキドキしてたんだ。
「そうだ! 良かったら、休み時間いっしょにお絵描きしない?」
休み時間にいっしょに遊ぶ友達ができるなんて!
でもお絵描きかぁ。小さい頃、ドラゴンを描いたのに、他の子に「ヘビにしか見えない」って言われたことがあるの。
「うん、したい! でもわたし絵が下手なんだけど、いいの?」
「そんなこと気にしなくていいよ。わたし思うんだけど、絵に上手も下手もないんじゃないかな? 絵って、人それぞれの個性を表す力を持ってて、なんだか不思議だよね……」
「それぞれの個性」か……そんな考え方したことなかったな。なんだか、楓ちゃんとのお絵描きが楽しみになってきた!
教室に入ろうとすると、
「うわ、魔女が来た! みんな下がってろ、呪われるぞ!」
そう叫んだのは、昨日、カエルとトカゲつかまえるとかなんとか、ひそひそ話していた男の子のうちの一人だった。
念のために言っとくけど、わたしは呪いとか、そういう悪い魔法は使いません!
「でも大丈夫だ、みんな。えさでおびき寄せれば安全だ」
さっきの男の子がそう言って合図すると、もう一人の背の高い男の子がにやりと意地悪な笑みを浮かべながら、教室の前につっ立っているわたしの方へじりじりと近づいてくる。
そしてわたしの後ろへ回りこみ、わたしの肩からランドセルを引きはがした。
「ちょっと!」
わたしの声は、ランドセルが床にぶつかる音にかき消された。このランドセル、パパとママに買ってもらったばっかりなんだから、もう少し丁寧に扱ってよね! そう文句を言う前に、わたしの両腕は背の高い男の子にがっしり押さえられていた。
「放して!」
「しっかり押さえてろよ、順平。――ほら、これお前の好物だろ」
わたしが教室に入ろうとした途端、最初に叫んだ男の子がわたしに差し出してきたのは、カエルとトカゲのセットだった。それも、生きてるやつ。生だとお腹壊すから、食べる前にちゃんと料理しないといけないのに!
「どうした、食べないのか? 魔女なんだから食えるだろ」
てのひらの上でカエルとトカゲを躍らせながら、わたしのつま先を足で小突く。
そりゃもちろん美味しそうよ。でもせめて、煮るなり焼くなりしてから持ってきてよ! 味付けをしろとまでは言わないから。
「新鮮なうちに食った方がいいんじゃないか?」
後ろから背の高い男の子――順平君のささやき声がした。
「仕方ねぇな、俺が食べさせてやろう」
「お前優しいな、一真。――おい、動くなよ、金髪女」
金髪女ぁ!? わたしには「アリス」っていう名前があるのよ! 後で本当に呪ってやろうかしら。
「やめて!」
一真君のてのひらの上に乗ったカエルとトカゲが、もがくわたしの目の前に迫ったそのとき――
気が重いけど、みんなと仲良くなりたいし、それに、雪ちゃんにも昨日のことちゃんと謝りたい。でも、やっぱり気分は昨日から沈んだまま、浮き上がってきてくれない。
「笑顔が一番だよ。仲良くなりたい気持ちを忘れずに、楽しいことを考えれば、きっと良い一日になる」
〈白ご飯〉を〈お箸〉ですくいながら、パパが言った。……もう、パパ。私の心の中勝手に読むのやめてよ、恥ずかしいから。
「ごめんよ、アリスが心配でつい……。――昨日ママから聞いたよ。つらい思いをしたんだね。でも安心して、何があってもパパとママはアリスの味方だ」
パパ……。
「『笑顔が一番』なんて言ったけど、悲しいときは無理に笑わなくていいんだよ。自分の気持ちに正直なところが、アリスのいいところだからね」
「ありがとう……本当の笑顔で、今日も学校がんばってくるね!」
少しだけぬるくなった〈味噌汁〉を飲み干して、わたしは急いで仕度を始めた。
今朝から話す元気も出なかったけど、パパのおかげでちょっとずつ気分が浮き上がってくれる予感がした。
やっぱりランドセル重いし肩が痛い……。これから毎日こんな思いをしながら学校に行かなきゃいけないの? ちょっとでも力持ちになれたらいいのにな……。
そう心の中でひとりごとを言いながら歩いていると、校門の前に黒崎先生が立っているのが見えた。そっか、今日は黒崎先生があいさつ当番なのね。
「先生、おはようございます」
「おはようございます、アリスさん。――大丈夫ですか? 目がはれていますが……」
しまった……昨日たくさん泣いたから、ひどい顔になってるの忘れてた。
「平気です。心配してくれてありがとうございます」
「何か悩んでいることがあれば、いつでも相談してくださいね」
黒崎先生、やっぱり優しいな……。
クラスのみんなにこの顔を見せるわけにはいかないから、お手洗いの洗面所で顔を洗うことにした。
これでちょっとはマシになるといいんだけど……。
「おはよう、アリスちゃん」
ぬれた顔をハンカチでぬぐっていると、誰かが声をかけてくれた。
後ろを振り返って姿を見ると、同じクラスの――あれ、どうしよう……名前が思い出せない!
「わたし、西園寺楓。これからよろしくね」
おはようを言った後に口ごもっていると、その子は名前を教えてくれた。
「うん、よろしくね、楓ちゃん!」
わたしがそう答えると、楓ちゃんは優しい笑顔を見せた。
「昨日は勇気が出なくて話しかけられなかったけど、今日アリスちゃんに会えて良かった」
そっか、わたしだけじゃなくて、楓ちゃんもドキドキしてたんだ。
「そうだ! 良かったら、休み時間いっしょにお絵描きしない?」
休み時間にいっしょに遊ぶ友達ができるなんて!
でもお絵描きかぁ。小さい頃、ドラゴンを描いたのに、他の子に「ヘビにしか見えない」って言われたことがあるの。
「うん、したい! でもわたし絵が下手なんだけど、いいの?」
「そんなこと気にしなくていいよ。わたし思うんだけど、絵に上手も下手もないんじゃないかな? 絵って、人それぞれの個性を表す力を持ってて、なんだか不思議だよね……」
「それぞれの個性」か……そんな考え方したことなかったな。なんだか、楓ちゃんとのお絵描きが楽しみになってきた!
教室に入ろうとすると、
「うわ、魔女が来た! みんな下がってろ、呪われるぞ!」
そう叫んだのは、昨日、カエルとトカゲつかまえるとかなんとか、ひそひそ話していた男の子のうちの一人だった。
念のために言っとくけど、わたしは呪いとか、そういう悪い魔法は使いません!
「でも大丈夫だ、みんな。えさでおびき寄せれば安全だ」
さっきの男の子がそう言って合図すると、もう一人の背の高い男の子がにやりと意地悪な笑みを浮かべながら、教室の前につっ立っているわたしの方へじりじりと近づいてくる。
そしてわたしの後ろへ回りこみ、わたしの肩からランドセルを引きはがした。
「ちょっと!」
わたしの声は、ランドセルが床にぶつかる音にかき消された。このランドセル、パパとママに買ってもらったばっかりなんだから、もう少し丁寧に扱ってよね! そう文句を言う前に、わたしの両腕は背の高い男の子にがっしり押さえられていた。
「放して!」
「しっかり押さえてろよ、順平。――ほら、これお前の好物だろ」
わたしが教室に入ろうとした途端、最初に叫んだ男の子がわたしに差し出してきたのは、カエルとトカゲのセットだった。それも、生きてるやつ。生だとお腹壊すから、食べる前にちゃんと料理しないといけないのに!
「どうした、食べないのか? 魔女なんだから食えるだろ」
てのひらの上でカエルとトカゲを躍らせながら、わたしのつま先を足で小突く。
そりゃもちろん美味しそうよ。でもせめて、煮るなり焼くなりしてから持ってきてよ! 味付けをしろとまでは言わないから。
「新鮮なうちに食った方がいいんじゃないか?」
後ろから背の高い男の子――順平君のささやき声がした。
「仕方ねぇな、俺が食べさせてやろう」
「お前優しいな、一真。――おい、動くなよ、金髪女」
金髪女ぁ!? わたしには「アリス」っていう名前があるのよ! 後で本当に呪ってやろうかしら。
「やめて!」
一真君のてのひらの上に乗ったカエルとトカゲが、もがくわたしの目の前に迫ったそのとき――
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