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アプルの実と倫太郎

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 お知らせします。やっと王宮側からお小遣い的なものがもらえました!
 その金額は、地球で言う五百円と大体等しい価値の銅貨五枚。銅貨一枚が百円相当になるってことね。

 この世界には白金貨、金貨、銀貨、銅貨、鉄貨の五種類の通過があって、それぞれ上から百万、一万、千、百、十円の価値がある。
 普通に生活していたら、金貨以上のものを見ることはないだろう。

 銅貨五枚。これで買えるものは案外多い。
 そもそも、一般に出回っている通貨は銅貨が五割以上を占めているから、それを基準にして値段が決められているのだ。
 実際、アプルの実は銅貨一枚で五つ買うことができるのだ。

 そしてオレは倫太郎と買い物に行く予定がある。
 アプルの実を紹介するのだ。あのリンゴもどきを売っていたお姉さんは倫太郎という、上客を得ることとなるだろう。きっと。
 リルはお留守番かな……?それとも、行きたいっていうかな。リルに任せようか。

「マオー!」
「倫太郎、はしゃいでいるの?それ」

 倫太郎の頬が緩みきっている。それで緩ませればいいものを、緩ませまいと我慢しているから……。結果、蛇のようなウニョウニョした口元になっているんだよね。
 写真をとって女の子に見せれば、倫太郎の人気は下がるかも……うーん、でも……恋する乙女は盲目って言うからそれすらもかっこいいと言うんじゃなかろうか?好きでもないやつのそういう写真は引くと思うんだけど……。
 世の中は不公平だね……。別にひがんでいるわけじゃないよ、オレにはいたしね。家庭もってましたしね。

「あはは……わかる?オレさ、城下町に出たことがないから」
「無いんだ」

 あーそうか。訓練が六時間ってことは、朝八時に始まると終わるのは午後二時。それから昼食……休憩……。それが終わる頃にはもう外は暗くなっているだろう。
 今日は銅貨五枚もらえるっていうことで、訓練が朝六時からだった。遊ばせてあげようっていう配慮ですかね。

『どこか行くの?訓練は終わったよね?』
『ああ、城下町に行くんだよ。リルも行く?』

 リルは絵本から顔を上げて倫太郎がいることに首を傾げながら、オレに聞いた。
 コテン……。首を傾げるだけなのに……聞こえてしまった。フィルターかかっちゃったかなー……。孫フィルター。

『ううん。私は本を読んでることにする。マオ兄だって友達と遊びたいときもあるでしょ?』
『そうだね。ありがとうね、リル』
『マオ兄、行ってらっしゃい』
「グハッ……」
「マ、マオ?」

 リルの笑顔に少し……少しだけどやられてしまって変な声出してしまったよ。だから、そんな目で見ないで、見ないでほしいんだ。

「じゃあ、行こうか!時間も限られているし」
「お、おう?」

 やれやれ……。倫太郎も孫ができればわかる、きっとわかるから。いや、わからせてやるから。

 城下町は相変わらず。何一つ変わらずに今日も笑顔があるれている。
 早速だけど、アプルの実を勧めてみようか。たしか、売っていたところは……こっち……。

「あら、お兄さん久しぶり。どう?このアプルの実なんか」
「久しぶり、お姉さん。今日はしっかりとあるからかね」

 オレはそう言って親指と人差し指を使って丸を作る。金の形だね。

「おお!これなんてどう?黄色の艶がいいでしょ。こっちは、大きさがねぇ………」
「梨みたいだ」
「ナシ?聞いたことないけど、これはアプルっていうのよ」

 梨かぁ……。言われてみれば、そんな風に見えなくもないか。けど、青りんごには見えなかったのか。
 色味似てたと思うんだけど……。

 客が少しでも興味を持ったら売りつけを開始するのがこのお姉さん。倫太郎に売りつけ始めた。
 ここが美味しいだとか、ここがアプルの実の魅力だとか。最終的には、試食をすすめていた。

「ちょっと食べてみてよ、それからでも……」
「え、あ、は?いいのか?」
「うん、どうぞ!」

 うん、倫太郎はお姉さんのペースに乗せられているね。アプルの実のひと切れを口に突っ込まれているよ。
 そして、飲み込むと気づくはず。リンゴの味をしていることに。

「ングっ……、あ……。これは……」
「どう?おいしい?」
「……。リンゴ……」
「え、えと……大丈夫?」

 倫太郎はリンゴとつぶやいて、静かに涙を流した。あら、そんなにだったか。
 お姉さんがオロオロしているよ。

「お姉さん、大丈夫。こいつ、アプルの実が故郷の食べ物に似てたからさ」
「そぉ?ならいいんだけど……」
「ごめんな、泣いちゃって……。これ値段は?」

 アプルの実を買うみたいだな。オレもリルのおみやげに買おうかな。

「はい、五つで銅貨一枚だよ。お兄さんは?」
「ちょうだい」
「はいはーい!どうぞ」

 紙袋にアプルの実を五つずつ。銅貨一枚と交換で渡してくれた。

「ありがとう。また来てね」

 オレと倫太郎がしばらく歩いて振り返ってもまだお姉さんは手を振っていた。
 よく腕が疲れないですね、お姉さん。

「マオ、知ってて連れてきたんだな」
「ん?うん。そうだよ」
「ありがとう」
「いえいえ。そんな、お礼を言われることじゃないもの」

 元気が出たかな。ステータス的には大丈夫でも、精神的にはそろそろガタが来る頃なんじゃないかと思っていたから。
 普段の倫太郎なら、リンゴと味がそっくりなアプルの実におどくことはあっても、泣きはしない。
 それほどたまっていたんだろうね。

「あ、あの子……。名前なんて言うんだ?」
「あの子?」
「迷子だったあの子」

 リルのことか。
 どうしようかな。まず、名前は教えてもいいとして……魔族ってことは……。
 ま、今聞かれてんのは名前だからそこは後で考えよう。倫太郎は信用できるやつだけど、だからすべて話せるってわけじゃないからね。

「リル、だよ」
「リルちゃんか」
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