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「……久しぶりだなぁ」

 地球では少しの期間でも、あっちではかなりの期間が経っているわけでオレからしたらここは何百年ぶりかの場所なんだよね。

「ちゃんと言わないと」

 一段落ついたあの日から考えに考え抜いた。オレはどうすべきか。ずっと悩んだ。悩みすぎてノイローゼになるかと思ったくらいだ。

 悩み抜いてオレは決めた。

 チャイムを鳴らすという行動も何百年ぶりだか。チャイムのボタンが初めて触るもののように感じる。
 チャイムを一度鳴らすと、家の中から反応があって、その後すぐにドアが開いた。
 ドアを開けてくれたのは結城春菜。マオを産んでくれた人物だ。マオはこの人に目元なんかがそっくりだと言われている。

「マオ、なのね?」
「母さん、久しぶりです」

 母さん。やっぱり母さんがしっくりくるなぁ……。
 母さんはオレが目の前にいることが信じられないというように、目の前にいるんだということを確かめようとオレを強く抱きしめた。

「マオ……帰ってきてくれた……」

 母さんの瞳からは涙が溢れ出て地面に雨を振らせた。

「母さん、話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
「そう。とても大事なこと」

 できることなら、父さんも含めて。オレがそう言うと、母さんはさすが母さんというのかなんとなくではあるがそれがとても重要なことなのだとわかってくれた。

「とにかく帰ってきてくれてよかったわ。家に入りなさい、妹ができたのよ?」

 母さんはオレが帰ってきたことを一通り泣いて喜んだあと、昔と変わらない微笑みを浮かべ家に入ってくることを促した。

「妹?」

 本当は知っているけど、マオが知っているはずがないことだから知らないふりをするしかない。

「そうよ。養子なんだけれどね、かわいい良い子よ」
「名前は……?」
「リオって言うの」
「リオ、か。そう、オレ、兄になったのかぁ」

 改めて妹がリオだと言われるとどこかこそばゆい気持ちになる。

「リオー!」
「なーに?」

 母さんに呼ばれてリオが部屋から出てくる。そしてリオはオレを見て叫ぶ。

「あのときの黒髪のイケメンのおにーさん!」
「へ……?」

 あ、あーそうか。様子を見に行ったときに一度だけぶつかってしまったことがあったんだっけ。
 しかし、黒髪のイケメンのおにーさんとはね。やったね、イケメンだって。

「どうもはじめまして、結城マオです。長らく留守にしていた兄です」
「お兄ちゃん……?えと、結城リオです。よろしくです、お兄ちゃん」

 ぎこちない挨拶を交わした。できたお兄ちゃんは長らく留守にしてたんだもんな。ぎこちなくもなるわな。

「お兄ちゃん、私怒っているの」
「うん」
「お説教する」
「妹は厳しいなぁ」

 何で怒られるかはわかっている。

「妹じゃなくて、リオ」
「はいはい。リオ」
「ふふふっ」

 リオはオレを引っ張ってリビングへと入っていく。その後正座をさせられて小一時間ほど説教をされた。
 説教をされるのは当然だった。リオからすればオレは行方不明になって、一緒に行方不明になったクラスメイトたちは帰ってきていたのにオレは帰ってこなかった。しかも帰ってくる前にリオはオレと街角で出会ってしまっている。戻ってきていながら家に顔を見せなかった。余計に母さんたちを心配させた。

「お兄ちゃん、教えてほしいな。行方不明になってたときのこと」

 コワイ……。女は強し。
 リオに逆らえる気がしない。リオの後ろに夜叉が見えるのはオレの目がおかしいのだろうか。

「それは、父さんが帰ってきたときに一緒に話すからまって」
「わかったわ」
「お願いします」

 父さんが帰ってきたらすべてを話すつもり。理解されずともいいから、とにかく知っていてほしいのだ。
 どんなことがあって、どうしてこうなったのかを細かく話す。

「ねぇ、お兄ちゃん。あのとき一緒にいた人は?」
「一緒にいたひと?……あぁ、テオドールか」

 テオドールか……。あの頃までは楽しくやっていたよな。ハチャメチャなオレたちで、リルも入れてクラディアにイタズラを仕掛けて怒られて。
 あの時計が表すものを知るまでは気楽なものだったな。

「テオドールがどうかしたの?」
「いや、カッコよかったなって」
「そっか……」

 テオドールは存在しているけれどもういないから。テオドールはなくなってしまった。テオドールの形のものは残ったけれど、テオドールはいないのだ。

「テオドールは外国にいるからね」

 ウソは言ってないよ?外の国だもんね。地球外の国。外国じゃん?

「残念……」
「複雑だ……」

 兄のあれこれより、テオドールのあれこれのほうが感情の振れ幅が大きいなんて。

「複雑って?」
「知らなくていいよ」
「なにそれぇ!」
「いーの!兄として複雑だっただけだし!」
「知りたい」
「だーめ!」

 ふむ、これが兄妹ってものか。不思議なものだ。

 オレははっきりいって、自分のことを父さんたちに話すのが怖かったりする。
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