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新年早々

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 それからというもの淡々と粛々と厳かに祈りの間で儀式的なことを進めた。
 起きてから儀式をする時間までに父上から段取りを教えられ、いざ移動すると物は用意だけされていた。いつになく豪華な祭壇は新年だからだろうかーー。

 用意からではなかったので楽と言えば楽だが儀式がいざ始まると何故かすごい勢いで魔力が奪われている。

 だが儀式なので妾は無言である。父上はお経なのか祝言なのか声に出しているがちゃんと聞いているわけではないので意味不明。まぁ、朗読みたいなものかと思っている。教本みたいなものを開いているしね……。

 あー、疲れた……。魔力が奪われ続けて疲れた……。でもまだ終わらない。

 この一月一日。新年を迎えるに当たって誰よりも早いこの時間にやらねばならないのがこの儀式である。

 歳旦祭。
 一年の始めに新しい年、月、日を寿ぎ、年神様に感謝をし、五穀豊穣、天下泰平、国民豊楽を祈願する。

 うん、解る。解るけどもな? だからといってなんで父上と妾が犠牲になるんじゃよ……。魔力受け渡しも下手をすれば死ぬ。魔力が高いから仕方ない。それも解る。でもな、感謝しろとは言わないがこの前の人族や他領の下位貴族みたいなのを救うのは嫌なんじゃよね。犠牲と言うか魔力を使いたくない。あげたくない。妾、父上みたいに寛大じゃないんじゃよねぇ……。
 でも神様にあの人とあの人、あの人にあの人は省いてとか面倒だから出来ないしやれない。不特定多数は国民全員の1%以下なのだ。つまりは省くだけ手間がかかるから面倒臭いだけなのだ。

 今回だってお祈りの魔力がたくさん奪われるのは年神様とこの国の氏神と言うべきなのか、二つの神様がいるからである。





「リアちゃん、お疲れ様。疲れたでしょ」
「父上~……。半分以上持ってかれたのじゃ……」

 ヘロヘロ~……となりながら父上の腰に抱きついた。
 この分だと父上もかなり奪われている。だって父上にリアちゃんのおかげで干からびずに済んだと言われたのだ。
 父上の膨大な魔力で干からびるってかなりだと思う。


 称号『神の巫覡』をゲットしました。


「ん?」
「どうしたの?」
「父上~……。なんか称号『神の巫覡』とか言うのをゲットしたらしい」

 そんな報告をしたら父上に年神様と氏神さまに魔力を気に入られたみたいだね~……。パパと称号お揃いだね♪と言われた。

 …………父上とお揃いか……。うむ、それならいっか!

 ニコニコしていたら父上に何とも言えないような顔で見られたがすぐに綺麗な笑みで頭を撫でられた。
 ちなみにこの称号は魔力が5割増しと言う嬉しいのか悲しいのかよくわからない増え方をするらしく、与えられた直後は魔力の総数量が上がるためかなり瀕死状態になるのだとか……。神様鬼畜! 神なのに鬼!

 どうりで妾の脱力感が増したと思った……。死ぬ……。これはヤバイ。

 父上の部屋で楽チンな服に着替えると見計らったように宰相であるアラン兄様と王妃である母上がやって来た。

「お二人ともお疲れ様でした」

 テーブルに置かれたのはコップに並々と注がれた青い何とも体に悪そうな色をした魔力回復薬(上級)である。

「「…………うえ……」」

 不味くはない。不味くはない。不味くはないんじゃけど、味が嫌い。そして同じタイミングで同じ言葉と同じくらい嫌そうな声を出した父上。どうやら父上も苦手らしい。

「くすくす、やっぱり親子なんだねぇ……」
「父上。これ、試作品なのじゃ」

 出来立てホヤホヤの野菜果実水の素(ニンジンベース)を手渡した。

「これはなに味かな?」
「ほぼリンゴ」

 その言葉で父上は察したらしい。前もって母上用の野菜水を作っていると教えてあり、父上も試飲に参加していたりする。これは初期に作ったリンゴが多目の美味しいヤツである。
 無言で父上は並々注がれた回復役に素をいれるとたちまち色が変わった。透明度の強い青から不透明の濃い緑に……。これはこれで不味そうな色味である。

「リアちゃん……。これはこれで美味しくなさそうな色味なんだけど」
「う、うむ……。でも真っ青よりは幾分食欲は出そうな野菜色じゃし……。それに風邪とかの薬湯のヘドロみたいな色よりは美味しそうじゃと……」

 その言葉に父上もなんとか飲む気になったらしく2人は泣きそうな顔をして乾杯をして飲み始めた。魔力回復薬はハーブと言われる薬草を数種類を混ぜ合わせながら魔力を注ぎ作るらしい。なので草の味がする。特に青い色味はブルーマロウと言う花を使っているからだとか聞いたことがある。ただ単品として飲むと特徴もなにもない味だが風邪の薬湯にも使われる。こんな綺麗な青が入れば嫌でもヘドロ色になるのは無理ないと思う。

「「これはこれでなかなか……」」

 リンゴやニンジンのお陰で苦手とするハーブの味が薄まり、冷製の野菜スープを飲んでいるようである。とりあえずごくごくと飲み干し、用意された熱い紅茶を飲むと渋味を感じ父上も珍しく砂糖をいれていた。

「さてと、父上~っ! 妾、お出掛けしないといけないのでな? そろそろ帰るのじゃ!」
「え、お出掛けって何処に……」
「ん……? んーと、アメジールの一番標高の高い氷山の頂上じゃけど……」

 新年の挨拶と今月上旬の分を龍さんにお届けしなければならぬのじゃ。
 ここ最近、青い龍さんのお友達もやって来たから多目に届けてやらねば! この最近、赤だったり茶だったり黒やら白やら緑やら。カラフルな龍をよく目撃するから仕方ない。
 領民や冒険者達が襲われないようにするには龍の胃袋を掴まねば!

「え、山? しかも氷山? なんで」
「ん? なんでと言われても毎月2回くらいは行ってるのじゃけど……」

 お腹空かせてるかもしれないから妾、帰る! と転移したら父上と兄様もすぐについてきた。え、山? 寒いからダイレクトには行かんよ。厚着していかないと寒くて死ぬ……。魔法で何とかしたって寒いものは寒い。





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