上 下
101 / 134
役に立ちたいのじゃ!

しおりを挟む

「……フローライト様」
「ん?」
「前から思ってたんですけど、リアちゃんはなんで単独行動なんですかね? 普通、子息子女のマナーと言うか、侍従や侍女を連れて歩くのは当たり前でしょう? 執事のあの人が知らないはずないでしょ?」

 アランは貴族として当たり前の事を質問するとフローライトはため息をついた。

「ほら、何も出来ない時期が人より長かったでしょ? その反動なのか一人で出来ることに嬉しさを感じたらしくてね……。それに教育係兼お目付け役とお目付け役兼護衛がとある理由で結婚したから側に居ないことで更に助長しちゃったみたいで……。執事がすぐにどこか行っちゃうからって侍女を付けたんだけど魔物を狩りに行くのに足手まといとか言って置いていくらしいんだよ。その子もね? 王都ならかなり強いと思うんだけど、リアちゃんよりはかなり弱いからね……。仕方ないから執事が魔物を狩るときは教育係を嫌でも連れていけって長時間叱りに叱って、それを聞いたルノーが仕事の合間に遊んでくれてるよ?」
「……つまりは一人でなんでも出来る……いやいや! 無理でしょ? 普通はしないけど野営とかさ……。料理だって……」
「それがねぇ、リアちゃんは料理スキル持ってるから料理も出来るんだよね。アラン。誰にも言わないでね? リアちゃんはなぜか生まれつき変な称号をもらっててね? 神様に……」

 そう言うとなんとも言えない顔でフローライトは書類とにらめっこ中のクリスタリアを見ていた。そして大きなため息をひとつ吐き出すとクリスタリアから天井に視線を移してそっと見つめた。

「神からなんて名誉なことなのに変な称号……ですか……」
「うん。だって『創造神の憐れみ』って変な称号じゃない? 鑑定したらさ、長命種なのに閏日に生まれて可哀想。将来苦しまないように一人でなんでも出来るようにと憐れんだ結果ーーとか出たんだもの」
「憐れみ……。あー、でも……まぁ、変ーーですかね……。つまり一人で生きていくことになるかもしれないから色々授かったと? それにしたってリアちゃんが優秀すぎるんですけど」
「うん……。この子供の姿でも領主歴は俺の王歴と同じだからね……。この能力は後天性だと思うよ?」

 2人は再提出の書類を自らの足で持っていくのは時間が惜しいと言う理由で造り出した土魔法のゴーレムに溜まった不備の山を預けているクリスタリアを見つめている。

「良いか? これは騎士団へ持っていくものじゃ。き、し、だ、ん! じゃからな? この箱を手渡されたらこの部屋に戻ってくるのじゃぞ?」

 ゆっくりと何度か頷いたゴーレムにはチュニックを着せてあり、前後に『王様からの御使い中。触ったら敵と見なされるので殺られたくなければ触るべからず!』の文字が書かれている。今のところ見習いの騎士が遊び半分で触り、回し蹴りのあげく吹き飛んで壁に激突。現在数人が医務室送りにされている。そんな真実でしかない噂話が広がり今やお使いゴーレムが真ん中を歩いていれば女官も侍従も騎士も全ての者が壁にピッタリと貼り付いて通りすぎるまで大人しくしているらしい。その騎士の姿は情けなさすぎる。

 ゴーレムに御使いを頼むとそのままクリスタリアはフローライトの確認を要するものを持って側にやって来た。

「父上、一応計算は合っておるので使われている物等の確認をお願いなのじゃ。妾は王都の予算がよくわからないのでな……」
「あ、うん。ありがとう」

 その後は自分の席に戻って黙々と算盤で作業を始めた。

「書類の山がかなり無くなったね……。ねぇ、ジェイル君もそれなりに作業が早いけど、残りのはなんであんな風になったの?」
「…………俺が王の業務に追われ、見てないのを良いことに教育係や使用人が甘やかしたからだろうな」
「……なるほど」

 2人はクリスタリアに渡された書類を見て絶句した。

「「………………リアちゃん、ゴーレム2体造って!」」
「……ん? …………わかったのじゃ!」

 すんなりと作り上げたクリスタリアは2人に岩で出来たような腕輪を渡した。

「この腕輪がゴーレムに指示をできる制御装置じゃから無くさないで欲しいのじゃ。あと岩に見えるけど金属じゃから壊れることはないと思う。それと操る側の能力がリンクするようになっとるのでの? 父上は特に魔法を使うなら気を付けて欲しいのじゃ」
「「…………それって最終兵器なんじゃ……」」

 なんの事かよくわからず首をかしげていると2人は顔を青くしていた。

((そりゃ、吹き飛ばされた騎士は当然だけど医務室送りになるよね! だってリアちゃんのコピーだもの!!))

 しかも大人の背丈なので本人よりも強いかもしれない疑惑のあるゴーレムが今現在騎士団へ御使いに出掛けている。思わず2人が心の中で騎士団が全滅してませんように……と願ってしまったのは仕方ないことなのかもしれない。

「じゃあ、妾はまだ計算するものがあるから失礼するのじゃ」

 席で黙々と算盤をパチパチしている姿に何とも小さな体で頼もしさしかないクリスタリアに感激する男2人はとりあえずゴーレムを連れて書類と共に出ていった。

「…………ふぅむ、やはりあの書類は着服していたかの……」

 そんな書類をあげてくるのだ。常習だろう。

 あの山はクリスタリアが見ても着服。横領。そんな物ばかりが書かれているものであの2人の般若のような顔を思えばゴーレムなんて可愛いお仕置きである。

「花代、酒代、色んな物があったみたいじゃが、詰めが甘いのぉ……。パーティにしては量が少なすぎ。日常的なものなら王族の給料から引いた形になるじゃろうに……。アホかの……」

 クリスタリアは計算をやめてクスクス笑いながら隣にある資料室へ歩き出した。山積みの書類よりも昔の書類を漁った方が2人も喜ぶだろう。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

処理中です...