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閑話・今は昔……
グラグラするのじゃ
しおりを挟むとある晴れた日。
王都から遠く離れた辺境の地、アメジールはそれはそれは辺境らしくとても長閑な1日が明けていました。
「あれ? クリス? どうしたの? ご飯進んでないね。もしかしてお熱でた?」
「風邪でもひかれたのでしょうか……。たしか昨日はお風呂に入ってすぐに寝てしまったような……。もしかして湯で温まった体から出た汗で逆に体を冷やしてしまったのでしょうか……」
父親と母親が王様抽選会に最悪なことに当選し、この人族で言う5、6歳の見た目の小さな少女。クリスタリアは親について行くことはせずに領地に一人残って切り盛りしている。一人と言うよりも執事と教育係。そしてメイド兼護衛担当の女性騎士もいる。それ以外にもちゃんと着替えは出来るが髪を結うのは出来ないため細かいことをサポートしてくれるメイドも多数いるので一人ぼっちではない。ご飯はさすがに寂しいので教育係と護衛の彼女と一緒に食べている。男女なのは言わずもがな、父と母の代わりである。
「アール、セシリア様も……。妾、熱はないのじゃ」
教育係のルノアールことアールが妾の額に手を添えるまでもなく自らの額をコツン……と触れた。
「うん、いつもの通り低体温だね。逆に心配になるくらいのひんやり感だよ……」
「クリスタリア様。ではいかがなさいましたか? 誰かに虐められたのなら私が立ち直れないくらいに叩きのめしてきますよ?」
「……っ! お供します!」
何か言ってくるのは小さな子なのでそんな相手に立ち直れないくらい叩きのめす発言をする執事は相当大人げないと思われる。そしてお供すると言ったセシリア様も……。思わずクリスタリアはブンッブンッと首を横に振っていた。
「妾、誰にも苛められてなんかいないのじゃ。あのな? アール……。なんかその……。妾の犬歯が何だかグラグラするような気がするのじゃ」
不思議そうにいうとアールに「あーん」と言われたので口を大きく開けると4本ある犬歯を順に人差し指で動かすように触られた。
「あ、本当だね。でもまだ抜けないくらいしっかりしてるけれど上の1本が少しぐらついてるね……」
「それはそれは! 抜けたら是非ともお祝いしなくてはいけませんね」
グラグラの仕方で執事は完全に抜け落ちる日を計算し始めてからパーティの予定を組始めた。パーティと言っても身内でやる小規模なので細やかなものだが食材など集めたりやることは多い。
「妾、歯がダメージを受けるほどの固いものなんか食べてないのじゃ! ふみゅぅ……。大事にしてたのじゃ……。大事にしてたのじゃぁ~っ……」
お祝いモードの大人と違ってしょぼーんとしている彼女をルノアールはそっと抱き上げて宥めていた。
「クリス。あのね? 吸血鬼族の子供はね? 犬歯が1度だけ抜けて牙に生え変わるんだよ。犬歯が抜けるってことはお姉さんに近づいた証なんだよ?」
ちゃんと理解できるようにゆっくりと丁寧に教えるとクリスタリアはコテン……と首を倒して見つめていた。
「ふみゅぅ? 妾、お姉さん?」
「生え揃ったらね。幼児からお姉さんになる成長過程なんだよ。だから、抜けたらちゃんとお祝いしないとね……。4本生え変わったら大人に近づいた証として盛大にお祝いをするそうだよ?」
歯が4本生え変わったら妾、お姉さん!
歯が4本生え変わったら妾、お姉さん!!
心のなかでなにかが起きたらしく悲しみなんて消え去り、満面の笑みを浮かべてご飯を食べ始めたクリスタリアを皆は可愛いなぁ……と思いながら見守っていた。
数週間後。
「うわぁーん! リアちゃん、犬歯が1本抜けたらしくて勝手にお祝いしたとか報告だけ来た~っ!! 酷い! 酷すぎるっ!! 我が子の成長がぁ~っ!!」
王都にあるお城ではイケメンな王様が四つん這いになり、かなり嘆いていて仕事にならなかったそうな……。
END
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