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俺は見た! 2

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 夜の9時くらいかな、突然キャーって言う甲高い女性とギャーって言う男の悲鳴が聞こえたんだよ、悲鳴がさ! 殿下も何事かと部屋から慌てて出てきたよ? あの悲鳴じゃ気になるものね。
 んで鉢合わせることになった現場はマリウス様の部屋の前の廊下。
 顔はボッコボコで鼻血を出して気を失っている騎士らしき人物達………………の墓が綺麗に陳列されていた。それはそれは誰もが見覚えのある墓で、皆は首にぶら下げたプレートを見つめていた。そのプレートには『私は実力を見誤り、マリウス様を脅して複数人で慰み者にしようとしました』とえげつない言葉が綴られていた。
 プレートを見つめていた人から騎士達に向けられる目は何処と無く冷たい。まぁ、マリウス様は質の悪い人に目を付けられて囲われたってガルシアだけではなくランドルフでも常識になっているからと思われる。
 殿下なんてそれを見た瞬間、真っ青な顔をして慌てたようにドアをノックしていた。ドアがゆっくりと開かれると中にはルカとヤトがいて、ルカがマリウス様の手にヒールをかけていた。どうやら彼等を思いきり殴ったせいで手の皮が擦りきれたのか赤くなっていたようだ。

 所でヤト、何があったんだ? ルカがマリウス様になついたのかベタベタしてるんだが? 父様がジェラシーを感じているようだ。どうにかしてくれ!

 翌日の朝、殿下達を無視してアンディの父母、俺と父様、召喚されたらしきルカとヤトの家族。マリウス様。マサカルド関連で話があると呼び出されたので一同がルカとヤトに与えている部屋に集まった──が、何故かルカがマリウス様に子猫みたいなパンチをしている。あえて音を付けてやるとしたら『へにょんっ』と言ったところか……。キレと言うものが一切ない。強いて言えば子猫の方がキレがありそうだ。……こう、腰を少し落としてシュッと! シュッ……ってルカ、お願いします。もうマリウス様にジャレるのやめてください。父様がジェラシーを感じているようです。笑顔で見守ってるけど獰猛な目で「マリウス、いいなぁ~」じゃねぇわ!
 
 とりあえずヤトがルカとマリウス様を無視して──ってお前の弟と今世の母だろうがよ! まぁ、それはそれは見事なスルーで、アンディもシエロ様も苦笑いをしていた。うん、親子! ヤトが説明をし、前世での姉らしき子が話に肉付けをしていた。

 では、用意もあるから一週間くらい後で決行しまーす!

 ルカの一言で場は『は?』となったのは否めない。アイツ、本気で天然なの?

「そうだ! 誰か~っ! ルーちゃんに似合いそうなコートをお持ちの方いませんか~っ!」
「あるよっ!」

 質問したのは姉と言うアイルさん。即答したのはシエロ様。確かにあのルカの着せ替えタイムで昔の服を引っ張り出したわりにはガン無視されてたものなぁ~……。強いて言えば、今の流行に合ってるんだけどね……。ほら、流行って別の物に移り、別の物に移り……と回り回って戻ってくるから……。
 父様はとうとう我慢できなくなったのかマリウス様からルカを取り上げて抱っこしていた。しかもどことなく癒されてそうな優しげな表情をしていた。おっかしいなぁ~。俺、ルカの年で父様にそんなことをしてもらった記憶なんて一切ないんですけど?
 とりあえずヤトを捕まえて、改めてざっくりコレからの事を聞くとマサカルドが取り付くべき人物を捕まえるために第三王子とマリウス様を離すことになった。まず、第三王子とお付きの人全てをこのアンディの家に滞在させ、マリウス様は予定通りガルシアへ帰る。
 アンディの家にはルカの両親……てか、あちらも17歳らしいのだが中身(精神年齢)はかなりいいお年。俺のお祖父様くらいかな? その二人が残ることになっており、マリウス様に同行するのはヤトと姉のアイル。こちらも体は17歳で中身は俺より年上だ。もちろんヤトも俺よりも年上。残ったルカはと言うと父様と一緒にハイネ様のもとへ行く事が決定していた。父様は内部を確認するためにハイネ様の仕事の手伝いを、ルカは変装して名前をリュウと名乗りグレンの侍従もしくは従者として潜入するそうだ。

 おい、コラ! 父様、嬉しいからってニコニコすんな!

 そして決行の日。冒頭に戻るわけなんだが、ルカ以外の家族は絶対に王子達が邪魔しに来るに違いないと予想して行動を起こした。俺達は早朝のまだ暗い時間に出発するルカと父様の見送りをするのだが、その前に拘束してしまえと何やら不穏だったので俺と父様は天井裏から見守ることにした。まぁ、殺しはしないだろうけど──。

 天井下から聞こえてくる野太い男の悲鳴。

「おぉ、なんの魔法だろう? 土属性ではありそうだけど──」

 父様の潜めた声に俺もじっと見つめていたがなかなかの光景が広がっていた。殿下、アレックス様、その他に騎士達一人一人が土と言うか泥みたいな粘土? みたいな手に拘束と言うか握られるようにされていた。もう一人居ないと言われそうだからあえて言うけども、魔法師団長は今、愛しのジェラールをもう絶対に離すまいと亀の甲羅のように背中に抱きついている。突き放すとか、説得するとか様々なことを試したが無理だったっぽく、色々と諦めたらしいジェラールがガルシアに彼を持って帰るそうだ。──強く生きろよ……なんて思ったのは間違いではないと思いたい。
 話を戻すと、魔法の手達に殿下達を捕まえさせた本人達は優雅にティータイムしていて心の内で何を思っているのかはよくわからん。殿下とアレックス様は騒ぐのはみっともないと冷静に大人しくしているため、手は握るような形ではなくこう、中指をまっすぐ立てた喧嘩を売るかのような形で拘束されている。
 親指と小指で腰を、人差し指と薬指で肩を……。体としては動けないが手足は比較的自由そうだ。逆に安定して座れて良いかもしれない。子供の椅子に持ってこいなのでは……。

 あれ? あの形って馬車乗るときの子供に良いんじゃね?

 おっと、殿下が諦めた顔をして「茶を私にも頂けないだろうか……」と下手に催促すると出されたお茶を静かに飲み、生気のない目で騎士達を見つめていた。あの騎士達は先日、マリウス様を襲った輩たちで、今は二人一組で泥の手二体に遊ばれている。
 説明するならば騎士が交互に上へ放り投げられては落ちてきたところを見事にキャッチして隣の手に投げつけ──を繰り返している。
 夫婦は和やかに「お手玉上手だねぇ~」と褒めている。手達はご主人様に褒められたことで俄然やる気になったのか、魔法で作られた手達はスピードをあげ、騎士がずっと交互に宙を舞う。

「ぶふっ! 面白いものを見せてもらったし、そろそろ行こうか……」
「ですね……」

 俺、あの家族に逆らうのやめよう……。何されるかわからないし、あのお手玉? は、さすがにやられる想像をしたら思いの外怖かった。



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