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俺の兄さん
しおりを挟む「ルー、お休み。今日は久し振りに馬車で移動だったし疲れたろ?」
久し振りに大きな風呂にのびのびと入ったからなのかルカの瞳は微睡み、瞼が重そうだった。頭をそっと撫でながら額にチュッと軽くキスをしてそのまま寝付かせた。もともと人付き合いが好きではないルカは初対面の人が多く占めるこの場所で、内心かなり疲れている。いや、疲れきっていた。アンドレアさんに付いてきた騎士たちは元は第四騎士団所属だった人もいて嬉しそうではあったが、割合としては初めて見る人の方が多かっただろう。所々愛想笑いをしている姿をよく見かけた。まぁ、明日には警戒と言うか苦手というか……。そういった負の意識というべきものは少し溶け、数日後にはそれなりには仲良くなるのだろうけれど……。そっとルカを抱き締めながらユウ・ゲンに声をかけた。
なぁ、ユウ・ゲン。俺は直接会ったことはないんだが、ここの領地の前領主夫妻がなんだか様子がおかしいというか確実に変じゃないか? もしかしてルカがストーリーを変えた弊害かなにかなのか?
そう質問をすると相手はいつになく困ったような雰囲気だった。
【それに関してはよくわからないのヨン……。兄者達が調べてるところなのヨン? ユウ達はよくわからないのヨン……。とりあえずわかったら教えるのヨン】
兄者……。あぁ、ルカをサポートしてくれているんだったか──。えーっと、ユウ・ゲンの兄がム・ゲンで、フ・クシャの兄がフ・クセイだっけ? それにしても似てるようで似てない名前だなぁ……。そう思いながらユウ・ゲンにスマホを出してもらうと起動させた。
【アンディの家には無事着きましたか? なかなか風情のある街並みですから、散歩するのも楽しいはずですよ? 唯一の港町ですしね……】
兄さんからメールが届いていたので、ポチポチとルカを起こさないように返事を書いた。俺のスマホは完全に日本語入力だが、兄さんに渡したものはこの国の言語。英語のような、フランス語のような。イタリア語のような欧州をすべて掛け合わせたような言語で書くので入力が大変そうだ。俺がパパッと即答で返事するから兄さんは不思議そうな顔をしてたな……。入力が日本語。確認してないからわからないが、俺の目には画面表記も日本語。勝手に翻訳してくれるらしい。ありがとう! そう声を大にして言いたいくらいだ。ちなみに電池は握っている手から魔力充電されてるっぽい。とりあえず毎日やり取りの始めに相手に聞くのは「変わったことはなかったか……」これに尽きる。もし何かあったとしたら……。考えたくもない。
特に兄さんに何かあったら俺もルカもあの邸へヒイロとミドリを手に乗り込むのは間違いないだろう。兄さんは既に俺のなかではルカを取り合うような恋敵と言うよりも、どちらかと言えば精神年齢としては弟なのだがそんなのは関係ない自慢の兄であり、尚且つ理解者であり、気のおけない話もできる親友や相棒的な位置にいる。ルカも離れてから自己嫌悪なのかよくわからないがかなり落ち込むほどには兄さんの事が好きで、そして少し依存していた部分があるから離れると不安なのだろう。そんなことを思っている間に届いた返事は「いつもどおり変わらずです。そちらは?」と返事が来たので移動で疲れてルカが寝ている事を伝えた。
【そろそろ冬なのであの布団が恋しいですね……】
と言われて羊毛の掛け布団を思い出した。この世界では革命とも言える代物なのは確かだ。俺は布団をお届けしたい気持ちでいっぱいなのだが、彼には俺やルカのように布団を隠す術を持たないのだから仕方がない。……あ、魔法の壁の中に収納すれば良いのか……って思い付いたものの、すでに手渡せない状況下──。なので土魔法で壁を作ることを教えたので屈指してほしい。ゼノさんの実家で俺がルカに嫌な予感がすると言った日からさらに魔法の改良に努めた。特に兄さんが孤立した場合、水分は確保しているが熱源がない。なので俺が試しに温かみのある土の板を作り出した。それを少ない土魔法適正のルカができるかを実験。そんなことを繰り返して、兄さんも温度は低めだが何とか出来るようになった。それをベッドの毛布の中に入れるか、寝るときの壁の内側にするかして今は乗りきって……と伝えると「わかっています」と返事が来た。どうやら既にそうやって居ると推測される。そんな話をしてから兄さんに祖父母さんはどういう人だったのか聞いてみたが、民の事を一番に思い、優しくも厳しく、厳しくも暖かい。そんな人だったと言われた。
現状と真逆じゃねぇか! そんな言葉が頭に浮かぶ。
そうか、そうだよな。だからこそ、この現状にパパさんもママさんも兄さんも……。果ては側近であり、使用人であるヨハンやローラ達でさえもこの事が理解できず、困惑しているのだ。そして使用人すべてを含むが、王都側と領地側で完全な亀裂を生み出し、ヨハンやローラたちは言われたことのみを遂行する人形へ。ルカや俺が便利にしたところで領地側の人間に得になるようなことは一切しないと言うある種のボイコット。彼らを守るのに兄さん自ら指示したように見せかける為に部屋に引きこもり中。
ほんとに国を作る手前の領地なのだろうか……。
俺は柄にもなく心配してしまうのは仕方ないと思われる。出来れば何事もなく兄さんの祖父母が元に戻ると良いのにな──。
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