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俺の兄上はヤバいブラコンでした。

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「ナーイトッ♪ お兄ちゃんが来たよ~っ」
「……兄上……。今日もまたいらっしゃったんですか……」

 思わずため息をついてしまうのは致し方無い。

「…………って、ナイト! 何でまだ寝てないの、ダメでしょ!」
「寝るって……。まだ夜の10時だからですけど?」

 俺は部屋にあるカウチソファーに気だるげに横になって対して面白くもない本を読んでいた。この世界ははっきり言って娯楽が無さすぎる。読みかけの本もラノベやら推理小説ならどんなに楽しいだろうか。だが実際は難しく書かれただけのしょうもない伝記だった。

「夜の10時なら子供は寝る時間だろうっ!?」
「……これでもつい最近ですが、16の舞踏会は終えましたよ? 兄上は覚えておりませんか?」
「覚えてるよ! ナイトの事ならなんだって! それに本当のデビュタントはそれよりも前なのもちゃんと覚えてる……。16は大人の仲間入りなだけで、大人じゃないんだから! 寝なさい」

 そう言われたので本に栞を挟むとテーブルにそっと置いた。では聞きたい。貴方は寝ているかもしれない人物の部屋になにしに来た? まぁ、嫌な予感と面倒くさいのもあって聞かないけどね……。

「では言われた通り私はそろそろ寝るので兄上も白亜宮へ戻り、明日のためにもゆっくりお休みなさいませ」

 笑顔で手を振るとなぜかショックを受けたような顔をする。

「…………あぁ、顔を見せに来てくれただけですものね……。兄上は昼も夜も忙しくてらっしゃるのに申し訳ないので毎日来てくださらなくても大丈夫ですよ?」

 部屋から兄上を追い出すとまたカウチソファーに横になって本を開いた。

 ダンダンダンダンッ! ダンダンダンダンッ!

 あー、マジでうるせぇな! 小さい時から毎日毎日マジでなんなのっ!? しかもドア叩きすぎ! 壊れたらどうしてくれんの? しかも叩き方がなんかの怪談話みたいになってるじゃないか!

 だがしかしこれはかれこれ13か14年ほど続く毎夜の恒例行事である。兄上が拗ねたら拗ねたで面倒だけど、ご機嫌はご機嫌でかなりウザいと思われる。今年で22歳になる兄上はいったい何がしたいのか……。俺は子供でそっちは歴とした大人なんだろ? 大人の対応しやがれ! ……え? もしかして兄上を隣の白亜宮まで送ればいいの? それはそれで面倒なんだけどな……。お茶を飲もうとか言って帰るの遅くなりそうだし……。
 自分が今いる場所は王城の中にある石緑宮という場所。現在の俺の住まいな訳なのだが、1番上のバカが赤金宮。2番目のアホが紺青宮。現在、ドアを壊しそうな勢いで叩いている3番目のブラコンは白亜宮。
 一応この国の習わしとして子供と言えど国王と同じ場所に住むなんて事はない。物心ついたら母親から強制的に離される。まぁ、母親はなにもしないけどな。したらいけないのかもしれないけども……。
 一緒に住まないのは疫病や流行り病の観点からなのだろう。同じ所に住んで1人が流行り病にかかったが故に王族が全滅。そんなことのないようになのだろうけれども……。
 王子1人ずつ住まいである宮が与えられるのだが、当然の産まれた男全員にと言うわけではない。つまりは王族カラーを持って生まれ、国王に認知された者だけが王子と名乗り、宮を持てるらしい。俺は正直に言えば住まいなんて要らないけども──。ただ、この国には昔10人の王子がいたらしいので色々合わせて12色の宮がある。もし王族失格した者が王族カラーを持っていたら足りないんじゃね?
 現在使用しているのは前国王と元王妃が住む唐金宮。国王の弟。つまりは王弟が住む銀翼宮。兄達の宮……。
 んで、なんかもう面倒だったからなのか良くわからないが宮は早い者勝ちらしい。俺の時は残りの7つの中から好きなのを選べと言われたので城から一番遠いけど日当たりと庭の広さや植物の多さ、静さで選びました。特にバカからは一番離れてるのはありがたい。こんな殺伐とした王宮には癒しは絶対に大事! 馬鹿と阿呆と腹黒と男色家に囲まれてるからマジで植物に癒されるわぁ~……。庭師に花をもう少し植えさせた方がいいかなぁ……。

 もしかして隣の宮に住んでいる兄上も同じ感じというか気持ちだったのかな? いや、白い色味が好きなのかもしれないし──。うーん、まぁ、気持ちが俺と同じだろうが違かろうが別にどうでもいいか……。そう思いながら今もなお叩かれ続けているドアを俺は呆れつつもじっと見つめた。
 大体何で毎夜毎夜やって来るんだ? 暇なの? 兄上達は体が大きいから見上げるの嫌なんだよね。190センチとかどんだけ~。これでも俺は160センチのまだまだ、成長期だけどさ……。兄達みたいな190センチはさすがに要らないや。前の身長の182センチくらいで平気!

 ルーを見つめるのに背が高すぎると首が疲れるし──。

 そんなことを思いながら喚くドアを見つめている。煩いなぁ……。てかなんで護衛のやつも侍女達も止めねぇの? ここの主人は一応俺だよ?
ま、次期国王に下手に手を出せないか……。あとが怖いもんなぁ……。

「仕方ないか……」

 面倒だが、本気で面倒だが! ドアを開けると何故だか必死の顔をした兄上がいて勢い良く俺に覆い被さるように中に入ってきた。俺に抱きつくくらいに勢い余るってマジでどんだけ~っ! てか、そんなに勢い良く叩かなくてもいいだろうに……。

「ナイトォ~……」
「……はぁ……。兄上、白亜宮の入口まで送りますから、今日はもう帰りましょ?」
「今日はヤダ」

 ぎゅーっと抱き締められてどうしたものかと考えてしまう。苦しいから少し力を緩めて欲しいなぁ……。てか早く帰って欲しい。

 兄上と一緒には寝ないぞ? 泊めたりもしねぇぞ!

 本来なら腕をほどいて追い出すのが正解なのだろうけども、口で言っても無駄だったしなぁ……。しかも今は苦しさからは解放されたものの、兄上に片手で俺の両腕を拘束されているし、もう片方で頭を固定されている。マジでなにがしたいのかわからん。

「兄上、何がしたいのか良くわからないのですが……」
「ナイト、お前は本気でこの宮から、城から、国から出ていくつもりなの? そうしたら私とは兄弟じゃなくなるし、もうずっと会えなくなるんだよ?」
「兄上と会えなくなるのは少し寂しいですが、それ以外の兄達に会わなくて済むと言う魅力の方が断然高いですね」

 それにしてもここ最近は特にスキンシップ多いんだよね、この兄は……。…………あれっ!? まさかとは思うけど兄上は俺を襲うつもりなのだろうか……。俺も弟の瑠架。いや、ルカが好きと言うか愛してるからブラコンと言う仲間意識はあるけども、貞操の危機と言うか諸々含めて襲われるのはお断り。本気まじで勘弁だわ。

「ナイト、ナイト……。好き……」
「ちょ、あ……。兄上、同意なくキスするのやめてくれませんか? あと寒いので服を脱がせようとしないで下さいませんかね──」

 別にキスくらいされたってどうってことないけど……。でもするのとされるのって心情的に別だよね、やっぱりさ──。俺は断然されるよりもキスする派。てか、殴って良いの? この人を……。

「ナイトが考え直すまでやめない! なんなら今から私のものにする!!」
「うーん、父上が母上にしてるようなことは一切お断りですよ。それでもすると言うのなら、兄上は今日からこの宮には出入りは禁止。出禁ですね」

 城を出るまでは極力大人しくしていたかったが仕方ない。拘束をサッと解いて逆に兄上を壁に押さえつけるとベルで侍女を呼んだ。

「殿下、このような時間に如何なさ…………。コホン、如何なさいましたか?」

 あぁ、俺の服に目がいってる。確かに兄上にボタンを外されて上半身が露出してるものな……。てかこんな時間にって兄上が来てるの知ってるだろうが! と怒りが涌くが我慢する。
 ……あ、そうか! 成程ねぇ~……。兄上が毎日毎日来るから幼い頃は我慢して起きてたけど、寝てたら俺は兄上に抱かれ──と言うか襲われてたのかな? まぁ、寝ていたとしたら土の壁を作って寝てるからまず襲うのは無理だと思うけどね……。

「リズ、兄上が白亜宮へお帰りです。少し多目に護衛をつけて安全に白亜宮へお送りしてもらえますか? あと、兄上はしばらく石緑宮には立入禁止というか出入りは禁止です。この部屋は絶対に出禁です」
「畏まりました」

 彼女はそう言うと直ぐに人を呼び、護衛を呼び、兄上を追い出すように笑顔で当たり障りなく、でも強制的に連れていった。それにしても久しぶりに合気道の技をやったけどなかなか有効だったな……と思いながら脱がされそうになった服を元に戻すとリズが部屋に戻ってきた。

「ナイト様、宜しかったのですか? シルヴェール様はナイト様を愛してらっしゃいますのに……」
「私に割いている時間を婚約者の方に使えばいいと物心がついた頃から思っているけど? 王族が1人の人間に愛? 必要ですか? それは……」

 王族は……。この国の王となるのならば国を一番に愛さねばいけないだろう?それができない俺は王族失格とも言えるけどな……。

「……確かにそうですが……。一緒に過ごせる残りの時間は少ないのですからそれを自ら無くすようなことは……」
「リズ、お前は私が兄上を抱くか抱かれるか今すぐに選択しろと言いたいのかな? 今判明したけど兄上の愛とはソレだろう?」

 ニッコリと静かにそういうと彼女はブンッブンッと思いきり首を横に振った。

「つまり、先程のはソレでございましたか……。出禁で正解でございます。全力で阻止させていただきます!」

 彼女は元は俺の母と言う男についてきた侍女の一人で、乳母と共に信頼できる人間の一人だった。

「リズ、私がココを出ていくときはお前はどうするつもりなのかな?」
「見届けた後に仲間と先ずはこの城をお暇させていただき、王都にあるタウンハウスへ行きます。その後は領地へ移動ですかね……」
「たしか領地はランドルフ領地の隣にある辺境伯のガルシア領だったよね……」
「えぇ……。たぶんここにいる殿下の乳母様を含め侍女と騎士の半分以上はガルシア出身でございますから共に領地へ引き上げるかと──。では殿下、夜も更けて参りましたのでそろそろ床にお着きくださいませ」

 俺としては彼らは強いので生きられると思うが、春になって活発になる時期にモンスターと遭遇したとして、怪我なく生き残れるのだろうか……。では、モンスターではなくこの城からの刺客だったら……? 彼らは生き残れるの?

 …………ランドルフ伯に相談した方がいいかもしれないな──。

「そうだね。リズ、お休み。今日は皆に迷惑かけたね。ありがとうと伝えてくれるかな」

 ルカ以外の大事なものは作らないようにしていたのに、16年という年月で出来上がった情と言う感情が付く者を作ってしまった。

 どうするのが正解なのだろう──。

 ドアが閉まると思わずため息をついたのは致し方無いと思う。




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