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キュッキュパッド先生
しおりを挟む働かざるもの食うべからず。ご飯をいただいている以上、何かせねば!
「うーん、荷物では決してないのですが……。では、そうですね……。あぁ、ならばこの時計が赤になる頃に戻ってきますから、皆の昼のご飯を作ってくれますか?」
「うん、わかった! ……あ、えっと、わかりました」
やばーい、気を抜いて素で答えちゃったよ──。でも、お仕事をもらえました~! やったね! 材料は何があるんだろな~! オラ、わっくわくしてきたぞ! ──なんて思いましたよ? お仕事もらえました~! やったね! 材料は何があるんだろな~! とも思いましたよ。ヒモだの愛人枠は嫌だもの。俺は俺のできる範囲で頑張ることにした。それに料理となるとキャンプの時とそんなに変わらないだろう……。鍋と水と具材があれば何とかなるさ! えぇ、えぇ、皆まで言うな。実に安易な考えですよ。
団長さん達が出発してから待機する人が少ないこともあり野営地はとても静かで、鳥の声がよく聞こえる。さて、ざっと見積もって帰ってくるまで約五時間。調理というか、ここの設備に慣れていないから戻ってくる予定二時間前くらいを目安にそれまでは自由時間! よし、探索だ!
◆
ゼノさんに手伝ってもらったヒハツは俺が作った簡易コンロで空炒りで真っ黒にした後、現在木で出来ているスープ皿で棒と共に擦り潰している。理科の実験で使う乳鉢や料理に使うすり鉢の代わりにはなるだろう。簡易コンロは薪にする前の丸太があったから斧で割らないようにヒビを入れて、その辺に落ちてる茶色の松の葉を多目に押し込んでから火をつけた。松って松ヤニが木にも葉にも松ぼっくりにも成分がちゃんとあって着火材がないときは便利。まぁ、松ぼっくりのてんこ盛りは火事の元だけどねってお父さんが言ってた!
それから少し落ち着いてから今日の昼に使う予定のものを見せてもらった。順番が変な感じがするけどヒハツを作り終えたかったから気にしない。材料は大麦、キノコ二種、なんかの脂身のついた肉、卵。
そんなときは教えて『キュッキュパッド』せんせー!
【良いですのヨ! その材料ならファイバーチャーハン。一手間加えてあんかけ卵とじスープをかけたファイバーチャーハンが出来ますのヨ】
おぉ! せんせー! すごーい! 脳内で拍手を送りました。届いているのかは不明ですが──。
【もっと褒めるが良いのですのヨ!】
とりあえず少し褒めておきます。
さて、音声でのレシピを確認するとまずは大麦を茹でる。茹で汁はスープに使うので取っておくんだってさ……。茹でても栄養は損なわないらしいけどデンプンがね? ゆで汁に溶け出してとろみになるらしい。確かに朝御飯もトロトロしてた。
あ、この世界ってもしかして油もないのか……。じゃあ、茹でる前にラードから作ろう。うん、確か肉の脂身を少しの水から煮立たせて水分を飛ばすとラードになるって前にテレビでやってたな……。
【挽き肉とは言わないけれど細かくすると良いのですのヨ。出来上がったそぼろはスープにいれたら良いですのヨ?】
キュッキュパッド先生がいれば俺、勝てる! 侍従さん達は手持ちぶさただったらしく手伝ってくれた。うわぁ、めっちゃいい人達!! 俺、キュッキュパッド先生と絶対に美味しいものを作りますね! そして何でかゼノさんも肉を細かくするのを手伝ってくれた。もしかして暇だったのかなぁ……。挽き肉や薄切り肉は無理そうなので長さは適当で幅を一センチくらいの短冊切りにした。
「ルカ、今煮てるけどコレは何にするんだ?」
「ラードという油を作ってます」
アクを丁寧に取り続けたら怪我用の布巾を借りて水に濡らし、絞ってから容器に濾す。いやぁ、姉と一緒に豚挽き肉で以前やっておいて良かったわ……。お母さんがテレビで見てラードで揚げた豚カツが食べたいとか言った日にゃ、一致団結して散財しないように家族で頑張ったよね。ラードをいっぱい買ってこられたら泣く!
「ルカは本当に俺らの知らないものを知ってるよなぁ……」
「俺としては常識知らず状態なので思い出したいですけどね……」
嘘です。本当はこちらの常識はなにも知りません。常識知らずというか、本当に知らないので困ってます。
次は大麦を茹で、先生が取り出す時間を教えてくれた。どうやら先生はキッチンタイマー機能もあるらしい。別の鍋にザルを用意して大麦とゆで汁に分けた。茹で汁にはラードで出た素揚げの肉をいれ、塩と出来立てヒハツで味を整え、しばらく放置。大麦を茹でていた鍋にはラードをいれてから細かく切ったキノコを全て入れて炒める。そして茹でた大麦をいれて炒め合わせ、塩とヒハツで整える。味気ないがヒハツがちょっぴりスパイシー。酒と醤油が欲しいところだけど仕方ない。ん? あ、これはブランデーかな……。あるなら少し拝借して……。確か兄が日本酒切らしたときに自分の部屋から持ってきてやってた気がする。
「蒸留酒を料理に……?」
「あ、卵はどうするんだ? 余ってたよ?」
台に置き去りにされた卵を持ってきてくれた。
「コレはスープの仕上げに入れます。あ、そうだ! スープにもブランデーを少しいれておこう」
タパッと少しだけ入れてかき回した。そして溶き卵を温め直したスープに回しながら少しずつ流し入れ、煮立たせて完成させた。
「ゼノさん……。俺、初めて見る調理法ばかりなんですが……」
「言うな。俺も同じなんだから……」
そんな事を話しているとは露知らず、俺は味見に夢中だった。
「ルカ君。コレはどうやって食べるの?」
「えっと、麦をよそった上からスープをかけてお好みでこのヒハツを振り掛けて食べる感じですね!」
声をかけてきた彼は「ヒハツ?」と首をかしげていたが後は任せて休んでいて良いよ? と言ってくれた。よくよく侍従さん達を見たら使った鍋などにクリーンをかけて洗い物してくれていた。
良いなぁ、魔法……。
早く団長さん達、帰ってこないかなぁ~って言いながら焚き火に枝をいれるとゼノさんに頭をワシワシと撫でられた。
◆
その夜。
「ルカの料理技術は絶対におかしい!」
「そう言われてもね……。ねぇ、アンドレア? 私達は見てないしね」
「あ、あぁ……。まぁ、美味しかったから良いじゃねぇか……」
と話をする幹部を尻目に侍従の一人は慌てて離れたところにいるルカに向かって走った。ルカはと言えばシーズンが過ぎたとはいえ松茸を諦めきれずに近くの赤松のそばでキョロキョロしている。
「ルカ君! 作ってくれたラードが固まっちゃったんだけど!」
「あぁ、これは動物性の油なので冷えると固まるんですよ。でも使うときは匙かなにかで掬って火にかけた鍋に入れればすぐに溶けて炒め物とか万能な調味料になりますよ? 持ち運びも固まってれば楽ですし」
と、冷静にアドバイスまでしていた。実は夜ご飯に試しにと使って美味しかったのか侍従達のお気に入りの調味料になっているとは知らないルカだった。そして常に使うせいですぐに無くなり、数日後にはまた作る羽目になることをルカはまだ知らない……。
辞書る~っ! 松茸~っ! 松茸はどこなの~っ!!
【だから、シーズン終わったって言ってるでしょ!? それに今年は不作だったの! 諦めなさい!】
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