迷子の正体は高位魔族！？不遇だった私が触手に捕らわれ、強引すぎる求婚で幸せにされちゃいます

後日談

１２．忍び寄る者

「で、ブレインの旦那。いつまでこんな面倒な作業を続けるんですかい？」


　酒場での密談から数日後。


　グレッグとゲスラーは、ひたすらとある調査に勤しんでいた。

　既に疲れと不満を見せている彼らとは対照的に、指示を出した本人はとても満足気だ。

「ふむ、まあそろそろ良いでしょう。充分な情報は得られましたし、こんなところですかね」

　彼は宿屋の机で書き物をしていた手を止め、顔を上げた。

「新たな行方不明者の捜索に、前回の犠牲者が出てからの期間と遺体の発見地点の照合、可能な範囲でのこの森の地形の把握……何より、最も重要な奴の食事周期──つまりどの程度の間隔を開けて食事を行うのか──も、ほぼ把握できました」

　グレッグがおどけたように肩を竦める。

「俺らには難しいことは分かりやせんが、アンタの思い通りに進んでるなら何よりでさあ」

　ブレインは勿体ぶった手つきで眼鏡のブリッジをクイッと押し上げた。

「順調も順調ですよ。例の屋敷の追加調査で必要な裏取りもできましたし、これであの化け物に有効な手を打つことができるでしょう。……というわけで、準備ができ次第、いよいよあの森の最深部に踏み込みますよ」
「お、ようやく思いっきり暴れられるってわけか。ったく、待ちくたびれたぜ」

　今度はゲスラーが嬉しそうに、丸太のような太い腕をグルグルと回してみせる。

　それに微笑を返しながら、ブレインは何かを思い付いたようにポンと手を叩いた。

「ああそうだ、準備といえば。もう一度あの森に入って調達しておくべきものがあります。原形を失う前に確保して持って行きたいので」
「？　一体何です、そりゃ？」
「なに、多少ことをスムーズに運ぶためのもので、大した品ではありませんよ。……まあ、少々重量はかさみますが。探せばもう一つくらい新しいのがあるでしょう」

　ブレインはいたって軽い調子で、その「調達しておくべきもの」の内容を彼らに告げた。

「……正気ですかい」
「んなもん、一体どうすんで……？」


　珍しく驚きを滲ませるグレッグに、うげっ、という反応を返すゲスラー。


「使い道ですか？　それは──」


　お前たちにとっては余興のようなものでしょう、ブレインは端的な説明の最後にそう言い添えた。


「グフッ……なるほど」
「まあまあ愉しめそうだ」


　すると、二人揃って底意地の悪い顔を露にし、唇を歪ませ下品に笑ったのだった。



　＊ ＊ ＊ ＊



──数日後。


「さあ、この先の区画で間違いありません。おぞましい魔力の匂いがプンプンしますよ」

　三人は、とうとう魔性の森の最深部へ到達した。

「事前の準備は万全ですが……ここから先は奴の縄張りテリトリー。気を引き締めていきましょう。分かっていますね？　打ち合わせ通り、我々がまず狙うのは、奴自身ではなく──」