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28.追い詰める

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「なっ……!そんっ……!」
「まさか、製品ごとに個体識別が可能だとは思っていらっしゃらなかったでしょう?
我が領の知名度の高いブランド品を使うことで、よりわたくしの関与を印象付けられると考えたのでしょうけれど。どうやら詰めが甘かったようですわね。」
「馬鹿な!そんな、そんな筈はない!」
「ええ。あなたはご自身が手を汚すのを忌避して使用人を遣いにやっている程ですから、当然伯爵家や貴方の名を出さず買い付けてくるよう言い含めておられたことでしょうね。」

  信じられないとでもいうように目を剥いて愕然とするフラン様を見て、わたくしはようやく溜飲が下がる思いでした。

「ですが……。恐らくあなたは、いかにもプライドの高い貴族が好みそうな、いっとう高品質で豪奢なものを購入するようお言いつけになったのでは?
それはもう、あなたたちが殿下に吹き込んだ『浪費家のキャスリン・アクミナータ』が好みそうなものを。
ただ残念ながら、使用人個人の名義ではそのグレードの製品は買えないのですよ。
あなたに遣わされた使用人は、店頭でそれを知ってさぞ困り果てたのでしょう。
仕方なく伯爵令息の名と紋章入りの所持品を提示し、購入したようですわ。もちろんあなたには内密に。
もし『お使い』を果たせなければ、そして言いつけを破って主人の名を出したことを知られれば、どのようなお咎めを受けると思ったのか……。
普段からの、あなた方の使用人に対する扱いも分かろうというものです。
だから申し上げたのですわ。詰めが甘い、と。」

  残念でしたわね?と、わたくしはこれまでの鬱憤を晴らすように満面の笑みで言って差し上げました。

  それに対して怒るよりも先に顔を青くして急に大人しくなられたということは、彼もとうとう理解なさったのでしょう。

  こうしてご自分に容疑が向いているということは。

  わたくしが一度も目にした筈のない、件のナイフ。
  それと一致するナンバーが記録された帳面を、わたくしがピンポイントで証拠品として持ち込んでいるということは。

 
  黒幕を気取っていた彼の動向は既にこちらに筒抜けであり、おそらく全ての企みが露見しているであろうということに。

(とはいえもう少し粘りようはあるでしょうに、意外と打たれ弱いんですのね。)

「そんなもの!お前たちアクミナータ家の領内で商いをする店だ、命令すれば帳面の偽造など簡単であろう!」

  先ほどまでおろおろなさっていた殿下が割って入ってきましたが、わたくしが反応するより早く、ブルーノ卿がキッパリと切り捨ててくださいました。

「ヨシフ・ゴーンは高位貴族のみならず、王宮にも納品しているという名店。いかに領主一族といえど、不正の強要はハイリスクが過ぎるかと。
それに……、フラン様のここ最近の動向はこちら側で監視していますから、彼が使用人を介してナイフを購入したことについても把握済みです。捏造というのは通りませんよ。……手の込んだことをしすぎましたね。」

「えっ。」

 
  予想外の事実を聞いたわたくしは、弾かれるようにブルーノ卿を見上げました。

  彼の発言が事実であればこちらの圧倒的優位が確定いたしますが、 それが意味するところはつまり。

(王宮も、フラン様の企みに気づいていたということ……?)
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