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モーブル王都へ行く
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寒かった日が少しずつ緩んできて春が近いなーと思いながら領地の畑仕事を手伝っていたある日、我が家へ次兄が突然帰ってきた。
こんな時期に帰って来るなんて珍しいなぁなんてのんきにしてたら父が僕を呼びに来た。
言われるままに部屋へ行くとあわてた様子の次兄が立ち上がって言った。
「モーブル!すぐに王都へ一緒に行ってくれ。お前の助けが必要なんだ!」
「へ?何で?」
「王都で流行病が出て沢山の人が亡くなっているんだ。治療薬もなく困ってる。」
「神子がいるじゃん。」
「神子?アイツはダメだ!貴族しか治療しないんだ!」
どういうことかと聞いてみたら、何とミラは聖魔法を使って治療をすると魔力が減るから対価として魔力の補充を求めるそうで…。
魔力の補充を手っ取り早くしたい時は体液の交換、性交が一番速い。
だから治療の対価でミラは性交を求めるのだ。そして平民に魔力はないから性交しても魔力はもらえない。
だからミラは平民には見向きもしないというのだ。
「魔力なんて飯食って良く寝たら回復するじゃん。」と僕がぼやくと
「ミラは自分は神子で聖魔法は沢山の魔力を使うから食って寝るだけじゃ足りない!って言うんだ。」
と項垂れる次兄。
しかも疲れるからという理由で一日2~3人しか治療しないという。
そりゃ1人治療するたびにやってたら疲れるでしょうよ。違う病が発症しそうだよ。
王子や宰相息子に騎士団長息子ともやってんでしょ?でも足りないの?爛れてんなぁ神子。
そういえば前世で奥さんと漫画の話をしてた時「ミラは聖魔法使いだからどの魔法とも相性が良くてセックスで魔力をもらう時超気持ちいいんだよねー。そんでもって快楽に弱い子なんよねー。色んな魔力と試してみたくなっちゃう。」って言ってたことを思い出した。
これはミラのせいじゃなく作者である奥さんのせいだな。確かにお尻でいくのは気持ちいいもんねぇ、そこに魔力の相性ときたらさぁ、仕方ないと思い直す。
「でも僕の加護は隠した方が良いんでしょ?」
「それはそうなんだが、もうそんなことも言ってられない事態なんだよ。お前は俺の知り合いの病院でエリクサーを調合してくれ。そこの医者は口が固い信頼できる奴だから。」
流行病は王都で大分広まっているらしく一刻を争う事態らしい。
「モーブル、神子が使えないなら仕方がない。行ってやれ。」
と父に言われてすぐに出立の準備をした。
王都まで馬車で3日ほどかかる。
一日で僕が作れるエリクサーの数には限りがある。
沢山一気に作ることは難しい。
出立前から王都に着くまでにこっそりと作り置きをしながらの旅路だ。
エリクサーを作るのはそれなりに魔力を使うので馬車の中ではひたすら食っちゃ寝を繰り返す。
神子のように性交で魔力の補充はだいぶ嫌だな。
魔力の相性が合わない相手との性交はものすごく辛いらしいし。
その代わり相性が良いとものすごく良いらしいけど……。
一緒に馬車に乗っている次兄は通過する街々で食べ物を買い込んでは僕に食べさせる。
寝たり起きたり食べたりを繰り返しながら無事に王都に到着した。
すぐに次兄の友人の病院へ向かう。
一番重体の人から順にエリクサーを飲ませる。
みんなあっという間に回復していった。
医師はとりあえずみんなにはこの薬は明かさないで、何故か自然に治ったと免疫力が優ったということに無理矢理話をまとめていたけど大丈夫かな?知らんけど。
毎日毎日全力でエリクサー作ってたら僕の魔力の器が大きくなったみたいで気がついたら2倍量作れるようになっていた。
1回飲めば全回復するから毎日毎日少しずつだけど流行病は収束しているようだ。
今日は頼まれて街の孤児院へ行くことになった。
流行病ではなく、難病のためか山に捨てられてしまった子を保護していると言うのでその子の様子を見て治療できるならしてあげたいと思ったのだ。
孤児院に着くと隣接する教会の司祭様が出てきてくれて中を案内してもらう。
みんなの前でエリクサーを作るわけにはいかないからちゃんと数本持ってきた。
孤児院の一番奥にある部屋へ案内される。
1人の子供がベッドに横たわっていた。
顔色が悪く身体もガリガリで全く目に力がない。
僕はその子に近づき声をかけた。
「辛かったね。もう大丈夫だよ。僕が助けてあげるね。」
そうしてエリクサーを口へ流し込んだ。
でも飲み込む力もすでになくなりかけているようでうまく口に入らない。
僕は焦ってしまって思わず自分の口にエリクサーを含むとその子に口付けた。
咄嗟のことで何の躊躇いのないまま口移しで与える。
ゴクリと嚥下する音がした。
もう一口、もう一口と分量通りのエリクサーを飲み込ませることができた。
この子も魔力があるのか口付けると僕の魔力と馴染んでいるようなフワリとした感覚があったけどその時は気にする余裕もなかった。
すると彼はみるみる顔色が良くなった。
だが回復したばかりなのでもう少し安静にしていた方が良いとベッドに改めて横たえる。
一先ず司祭へ報告しようかとモーブルが立ち上がると、その子は咄嗟にモーブルの服の裾を掴んだ。
「もう少し一緒にいたい。」
先程まで濁っていた彼の瞳は生気が宿り金色に輝いている。
あれ?金色の瞳って漫画の話だと隣国の王族特有の色じゃなかったっけ?
違ったかな?
だけどそんな王族の子供がこんな小さな孤児院にいるわけがないから違ったかもしれん。
まぁ僕も今日は何も用事はないし、強いて言うなら孤児院の子供たちと遊びたかったかな?くらいだし。
というわけで僕はこの子が眠りにつくまで手を繋いでいたんだ。
しばらくして外が何やら騒がしくて目が覚めた。どうやら僕も一緒に寝ちゃってたみたい。
司祭様たちが「神子様お待ちください!殿下もどうかお待ちください!」と叫んでいる。
バタバタと音がしたかと思ったらバンっとこの部屋のドアが勢いよく開いた。
「あっ!やっぱりここにいた!この子でしょ?病気で瀕死の状態の子!僕が治してあげるよ!」
とピンク色の髪色をした可愛い系のやつが入ってきた。
ミラだ。会ったことはないけど前世の漫画で覚えてる。
その横に立っている金髪の美丈夫は王子だな。
ミラは身体中から光が漏れて発光しているように見える。
これは魔力が溢れてる証拠なんだ。魔力を摂取しすぎて過剰になるとからだから魔力が漏れ出てくる。ミラは聖魔法使いだから光が溢れてくるんだろう。
もちろんそんなことはこの世界では僕以外誰も知らない。
前世で奥さんと「性交で魔力補充し過ぎたら、身体から勝手に漏れ出て発光するんだよ。漏れ出た魔力はミラの身体が光るだけで何の役にも立たない感じで。ビタミンC摂りすぎたらオシッコ黄色くなるのと同じ感じ。」なんて会話した記憶が残っている。
僕からしたらセックスし過ぎて魔力過剰なんだよ。やり過ぎだよって思うけど、みんなはそんな設定知らないから、「さすが聖魔法使い!後光が差してる!」って崇めてるんだよね。
そんなビカビカ光ったミラのせいで僕は目覚めたけど彼はまだ眠ったままだ。体力がまだ追いついてないからだろう。
ミラはずかずかと僕たちに近づくと男の子の顔を見た。
「あれ?病気じゃないじゃん。顔色良いもの。瀕死の子はどこ?」
とキョロキョロする。
まずい僕のエリクサーがバレたら大変だ。
「恐れ入ります。この子は風邪をひいて寝込んでいただけでこの通り熱も先程下がったところで今は寝ております。瀕死の子供はここにはおりません。」
と僕はドキドキしながら頭を下げて礼の姿勢を取った。
「そうなの?王様からの命令で来たんだけどデマ情報だったのかなぁ。」
と不貞腐れている。
聞いたところによると最近の神子の評判がとても悪くて平民はもちろん一部の貴族からもやたらと肉体関係を求められると嫌われ始めているので孤児院で難病に苦しんでいる子を助けて評判を上げてこいと言われたみたい。
魔力の補充は王子がするってことで……。
いくらなんでも本当に爛れすぎじゃないの?神子。知らんけど。
ひとしきり騒いで(病人寝てるんですけどね)神子と王子は部屋を出ていった。
それにしてもここまで王子一言も喋らなかったよ。存在感なさ過ぎじゃね?
(バレずに済んだ……)とホッとしたところで男の子が目を覚ました。
金色の瞳と目が合った。
綺麗な瞳だな……と思わず見惚れていると、男の子が口を開いた。
「お兄さんの名前教えて?」
「僕の名前はモーブル・テスカ、モーブルって呼んでくれたらいいよ。君の名前も教えてくれる?」
「…………カリタス」
どうやら奴隷商人か何かに連れ去られて運ばれる途中で病に侵されていることがわかりここの近くの森の中に打ち捨てられていたところを見つけられてこの孤児院に運ばれてきたそうだ。
歳を聞くと手のひらをパーにして見せる。
5歳か……。
本人もよくわからないまま連れ去られてしまいどこから来たのかとか親はどうなったのかとかは分からずじまい。
隣国に聞こうにも国交があまりないらしくて問い合わせることも難しいという。
時刻も遅くなってきたので僕はお世話になっている病院へ帰ることにした。
絶対にまた来てとカリタスに念を押されて近いうちにまた来ることを約束して帰った。
自室へ戻ってから唐突に思い出した。
カリタスって隣国の第3王子だ!確かこっちの学園に留学してきて金色の瞳と見た目の良さでミラに気に入られて、猛烈にアプローチされて普通はすぐにミラに靡くのにカリタスはなかなか靡かなくてミラが躍起になっててそれを見た周りの王子たちがヤキモキして色々あってその後突然カリタスが難病に冒されてミラに治療されるんじゃなかったっけ?
あぁ違うな治療を頼もうとカリタスの側近が言い出したところを読んだまででその後僕は事故で死んじゃったんだ。
だからミラが治療したかもわからないけど……ただ現状ではカリタスは5歳児で留学生ではないし隣国の王子かどうか明らかにされていない。
僕が読んでた奥さんの<聖なる神子は白薔薇と共に>とは全然話が違ってきてる。
わけがわからないけど僕は所詮モブのモーブル・テスカだから話に関わることはないし関わったら面倒なことになるに決まっているからなるべく主要人物とは関わりたくない。なんでこんなチートみたいな加護があるのかもわからない。
そんな気持ちがあったから王都での流行病が落ち着いたら男爵領へ帰ろうと思っている。
次兄の友人の病院で1年ほど過ごしエリクサーがそこまで必要ではなくなったタイミングで男爵領へ帰ることになった。
流行病がなかなか減らなくて最終的には大盤振る舞いでばら撒きまくったけどエリクサーのことも僕のこともバレてない。
なんでだ?と不思議に思うけど……まぁいっか。
あれから孤児院へは時々顔を出していてカリタスもすっかり元気になって孤児院の子達と仲良く走り回れるようになっていた。
身体もこの1年でぐんぐん大きくなっていて6歳児とは思えないほどだ。
周りの子供達のお世話も司祭様たちのお手伝いも積極的にしているようだ。
司祭様の話だと頭も良いらしくて難しい本もスラスラと読み解き周りの子供達にわかりやすく教えることもあるのだとか。
さすが身元は明かされてないけど隣国の王子なだけあるな。
そんなにしっかり者のカリタスだけど僕が孤児院へ行くと一目散にやってきて僕にぺったりくっついて離れない。
僕が他の子と話すもの嫌がるし独占したがるのだ。
普段全くそんなそぶりもないのに僕にだけこれだけ甘える様子を見て周りの人たちは普段頑張っていて命を助けてくれた僕には甘えることができるのであろうと温かい目で見守ってくれていたようだ。
男爵領へ戻る前に孤児院へ挨拶に行ってカリタスにお別れのお話をしたんだ。
カリタスは取り乱すことはなかったけれどポロポロと涙をこぼし僕に抱きついてきた。
「10年後に迎えに行くから待ってて」
と耳元で囁いてくる。
えっ?声変わりもまだなのにこんな色っぽい声出るの?何で?
出会った頃より大きくなったとはいえ見た目まだ完全に子供なのになんか発声から身のこなし方から大人の王子みたいでちょっとドキドキしちゃうんですけど……。
僕は考える間もなく身体が勝手に反応しコクコクと頷いていた。ええんかな?これで本当に。
でも10年後の話だし子供の言うことだし僕は本気にはしていなかった。
だって僕はモブ中のモブ、モーブル・テスカだからね。自分の立場は弁えてるつもり。
そう考えて僕は故郷である男爵領へ帰って行った。
こんな時期に帰って来るなんて珍しいなぁなんてのんきにしてたら父が僕を呼びに来た。
言われるままに部屋へ行くとあわてた様子の次兄が立ち上がって言った。
「モーブル!すぐに王都へ一緒に行ってくれ。お前の助けが必要なんだ!」
「へ?何で?」
「王都で流行病が出て沢山の人が亡くなっているんだ。治療薬もなく困ってる。」
「神子がいるじゃん。」
「神子?アイツはダメだ!貴族しか治療しないんだ!」
どういうことかと聞いてみたら、何とミラは聖魔法を使って治療をすると魔力が減るから対価として魔力の補充を求めるそうで…。
魔力の補充を手っ取り早くしたい時は体液の交換、性交が一番速い。
だから治療の対価でミラは性交を求めるのだ。そして平民に魔力はないから性交しても魔力はもらえない。
だからミラは平民には見向きもしないというのだ。
「魔力なんて飯食って良く寝たら回復するじゃん。」と僕がぼやくと
「ミラは自分は神子で聖魔法は沢山の魔力を使うから食って寝るだけじゃ足りない!って言うんだ。」
と項垂れる次兄。
しかも疲れるからという理由で一日2~3人しか治療しないという。
そりゃ1人治療するたびにやってたら疲れるでしょうよ。違う病が発症しそうだよ。
王子や宰相息子に騎士団長息子ともやってんでしょ?でも足りないの?爛れてんなぁ神子。
そういえば前世で奥さんと漫画の話をしてた時「ミラは聖魔法使いだからどの魔法とも相性が良くてセックスで魔力をもらう時超気持ちいいんだよねー。そんでもって快楽に弱い子なんよねー。色んな魔力と試してみたくなっちゃう。」って言ってたことを思い出した。
これはミラのせいじゃなく作者である奥さんのせいだな。確かにお尻でいくのは気持ちいいもんねぇ、そこに魔力の相性ときたらさぁ、仕方ないと思い直す。
「でも僕の加護は隠した方が良いんでしょ?」
「それはそうなんだが、もうそんなことも言ってられない事態なんだよ。お前は俺の知り合いの病院でエリクサーを調合してくれ。そこの医者は口が固い信頼できる奴だから。」
流行病は王都で大分広まっているらしく一刻を争う事態らしい。
「モーブル、神子が使えないなら仕方がない。行ってやれ。」
と父に言われてすぐに出立の準備をした。
王都まで馬車で3日ほどかかる。
一日で僕が作れるエリクサーの数には限りがある。
沢山一気に作ることは難しい。
出立前から王都に着くまでにこっそりと作り置きをしながらの旅路だ。
エリクサーを作るのはそれなりに魔力を使うので馬車の中ではひたすら食っちゃ寝を繰り返す。
神子のように性交で魔力の補充はだいぶ嫌だな。
魔力の相性が合わない相手との性交はものすごく辛いらしいし。
その代わり相性が良いとものすごく良いらしいけど……。
一緒に馬車に乗っている次兄は通過する街々で食べ物を買い込んでは僕に食べさせる。
寝たり起きたり食べたりを繰り返しながら無事に王都に到着した。
すぐに次兄の友人の病院へ向かう。
一番重体の人から順にエリクサーを飲ませる。
みんなあっという間に回復していった。
医師はとりあえずみんなにはこの薬は明かさないで、何故か自然に治ったと免疫力が優ったということに無理矢理話をまとめていたけど大丈夫かな?知らんけど。
毎日毎日全力でエリクサー作ってたら僕の魔力の器が大きくなったみたいで気がついたら2倍量作れるようになっていた。
1回飲めば全回復するから毎日毎日少しずつだけど流行病は収束しているようだ。
今日は頼まれて街の孤児院へ行くことになった。
流行病ではなく、難病のためか山に捨てられてしまった子を保護していると言うのでその子の様子を見て治療できるならしてあげたいと思ったのだ。
孤児院に着くと隣接する教会の司祭様が出てきてくれて中を案内してもらう。
みんなの前でエリクサーを作るわけにはいかないからちゃんと数本持ってきた。
孤児院の一番奥にある部屋へ案内される。
1人の子供がベッドに横たわっていた。
顔色が悪く身体もガリガリで全く目に力がない。
僕はその子に近づき声をかけた。
「辛かったね。もう大丈夫だよ。僕が助けてあげるね。」
そうしてエリクサーを口へ流し込んだ。
でも飲み込む力もすでになくなりかけているようでうまく口に入らない。
僕は焦ってしまって思わず自分の口にエリクサーを含むとその子に口付けた。
咄嗟のことで何の躊躇いのないまま口移しで与える。
ゴクリと嚥下する音がした。
もう一口、もう一口と分量通りのエリクサーを飲み込ませることができた。
この子も魔力があるのか口付けると僕の魔力と馴染んでいるようなフワリとした感覚があったけどその時は気にする余裕もなかった。
すると彼はみるみる顔色が良くなった。
だが回復したばかりなのでもう少し安静にしていた方が良いとベッドに改めて横たえる。
一先ず司祭へ報告しようかとモーブルが立ち上がると、その子は咄嗟にモーブルの服の裾を掴んだ。
「もう少し一緒にいたい。」
先程まで濁っていた彼の瞳は生気が宿り金色に輝いている。
あれ?金色の瞳って漫画の話だと隣国の王族特有の色じゃなかったっけ?
違ったかな?
だけどそんな王族の子供がこんな小さな孤児院にいるわけがないから違ったかもしれん。
まぁ僕も今日は何も用事はないし、強いて言うなら孤児院の子供たちと遊びたかったかな?くらいだし。
というわけで僕はこの子が眠りにつくまで手を繋いでいたんだ。
しばらくして外が何やら騒がしくて目が覚めた。どうやら僕も一緒に寝ちゃってたみたい。
司祭様たちが「神子様お待ちください!殿下もどうかお待ちください!」と叫んでいる。
バタバタと音がしたかと思ったらバンっとこの部屋のドアが勢いよく開いた。
「あっ!やっぱりここにいた!この子でしょ?病気で瀕死の状態の子!僕が治してあげるよ!」
とピンク色の髪色をした可愛い系のやつが入ってきた。
ミラだ。会ったことはないけど前世の漫画で覚えてる。
その横に立っている金髪の美丈夫は王子だな。
ミラは身体中から光が漏れて発光しているように見える。
これは魔力が溢れてる証拠なんだ。魔力を摂取しすぎて過剰になるとからだから魔力が漏れ出てくる。ミラは聖魔法使いだから光が溢れてくるんだろう。
もちろんそんなことはこの世界では僕以外誰も知らない。
前世で奥さんと「性交で魔力補充し過ぎたら、身体から勝手に漏れ出て発光するんだよ。漏れ出た魔力はミラの身体が光るだけで何の役にも立たない感じで。ビタミンC摂りすぎたらオシッコ黄色くなるのと同じ感じ。」なんて会話した記憶が残っている。
僕からしたらセックスし過ぎて魔力過剰なんだよ。やり過ぎだよって思うけど、みんなはそんな設定知らないから、「さすが聖魔法使い!後光が差してる!」って崇めてるんだよね。
そんなビカビカ光ったミラのせいで僕は目覚めたけど彼はまだ眠ったままだ。体力がまだ追いついてないからだろう。
ミラはずかずかと僕たちに近づくと男の子の顔を見た。
「あれ?病気じゃないじゃん。顔色良いもの。瀕死の子はどこ?」
とキョロキョロする。
まずい僕のエリクサーがバレたら大変だ。
「恐れ入ります。この子は風邪をひいて寝込んでいただけでこの通り熱も先程下がったところで今は寝ております。瀕死の子供はここにはおりません。」
と僕はドキドキしながら頭を下げて礼の姿勢を取った。
「そうなの?王様からの命令で来たんだけどデマ情報だったのかなぁ。」
と不貞腐れている。
聞いたところによると最近の神子の評判がとても悪くて平民はもちろん一部の貴族からもやたらと肉体関係を求められると嫌われ始めているので孤児院で難病に苦しんでいる子を助けて評判を上げてこいと言われたみたい。
魔力の補充は王子がするってことで……。
いくらなんでも本当に爛れすぎじゃないの?神子。知らんけど。
ひとしきり騒いで(病人寝てるんですけどね)神子と王子は部屋を出ていった。
それにしてもここまで王子一言も喋らなかったよ。存在感なさ過ぎじゃね?
(バレずに済んだ……)とホッとしたところで男の子が目を覚ました。
金色の瞳と目が合った。
綺麗な瞳だな……と思わず見惚れていると、男の子が口を開いた。
「お兄さんの名前教えて?」
「僕の名前はモーブル・テスカ、モーブルって呼んでくれたらいいよ。君の名前も教えてくれる?」
「…………カリタス」
どうやら奴隷商人か何かに連れ去られて運ばれる途中で病に侵されていることがわかりここの近くの森の中に打ち捨てられていたところを見つけられてこの孤児院に運ばれてきたそうだ。
歳を聞くと手のひらをパーにして見せる。
5歳か……。
本人もよくわからないまま連れ去られてしまいどこから来たのかとか親はどうなったのかとかは分からずじまい。
隣国に聞こうにも国交があまりないらしくて問い合わせることも難しいという。
時刻も遅くなってきたので僕はお世話になっている病院へ帰ることにした。
絶対にまた来てとカリタスに念を押されて近いうちにまた来ることを約束して帰った。
自室へ戻ってから唐突に思い出した。
カリタスって隣国の第3王子だ!確かこっちの学園に留学してきて金色の瞳と見た目の良さでミラに気に入られて、猛烈にアプローチされて普通はすぐにミラに靡くのにカリタスはなかなか靡かなくてミラが躍起になっててそれを見た周りの王子たちがヤキモキして色々あってその後突然カリタスが難病に冒されてミラに治療されるんじゃなかったっけ?
あぁ違うな治療を頼もうとカリタスの側近が言い出したところを読んだまででその後僕は事故で死んじゃったんだ。
だからミラが治療したかもわからないけど……ただ現状ではカリタスは5歳児で留学生ではないし隣国の王子かどうか明らかにされていない。
僕が読んでた奥さんの<聖なる神子は白薔薇と共に>とは全然話が違ってきてる。
わけがわからないけど僕は所詮モブのモーブル・テスカだから話に関わることはないし関わったら面倒なことになるに決まっているからなるべく主要人物とは関わりたくない。なんでこんなチートみたいな加護があるのかもわからない。
そんな気持ちがあったから王都での流行病が落ち着いたら男爵領へ帰ろうと思っている。
次兄の友人の病院で1年ほど過ごしエリクサーがそこまで必要ではなくなったタイミングで男爵領へ帰ることになった。
流行病がなかなか減らなくて最終的には大盤振る舞いでばら撒きまくったけどエリクサーのことも僕のこともバレてない。
なんでだ?と不思議に思うけど……まぁいっか。
あれから孤児院へは時々顔を出していてカリタスもすっかり元気になって孤児院の子達と仲良く走り回れるようになっていた。
身体もこの1年でぐんぐん大きくなっていて6歳児とは思えないほどだ。
周りの子供達のお世話も司祭様たちのお手伝いも積極的にしているようだ。
司祭様の話だと頭も良いらしくて難しい本もスラスラと読み解き周りの子供達にわかりやすく教えることもあるのだとか。
さすが身元は明かされてないけど隣国の王子なだけあるな。
そんなにしっかり者のカリタスだけど僕が孤児院へ行くと一目散にやってきて僕にぺったりくっついて離れない。
僕が他の子と話すもの嫌がるし独占したがるのだ。
普段全くそんなそぶりもないのに僕にだけこれだけ甘える様子を見て周りの人たちは普段頑張っていて命を助けてくれた僕には甘えることができるのであろうと温かい目で見守ってくれていたようだ。
男爵領へ戻る前に孤児院へ挨拶に行ってカリタスにお別れのお話をしたんだ。
カリタスは取り乱すことはなかったけれどポロポロと涙をこぼし僕に抱きついてきた。
「10年後に迎えに行くから待ってて」
と耳元で囁いてくる。
えっ?声変わりもまだなのにこんな色っぽい声出るの?何で?
出会った頃より大きくなったとはいえ見た目まだ完全に子供なのになんか発声から身のこなし方から大人の王子みたいでちょっとドキドキしちゃうんですけど……。
僕は考える間もなく身体が勝手に反応しコクコクと頷いていた。ええんかな?これで本当に。
でも10年後の話だし子供の言うことだし僕は本気にはしていなかった。
だって僕はモブ中のモブ、モーブル・テスカだからね。自分の立場は弁えてるつもり。
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