愛されベータ

マロン

文字の大きさ
上 下
12 / 39

12 汐李サイド②

しおりを挟む
 結局僕は朔の検診について行けなかった。

 迎えに行ったら朔のお母さんに叱られた。
 両親ときちんと話し合うようにと。

 僕は朔の両親が大好きだ。2人の話は僕の心に素直に響く。

 朔のお母さんは怒ってた。僕の両親が朔を利用してお見合いを勧めさせたことに。

 そして朔のお母さんは一先ず小鳥遊家のことはまず小鳥遊家の家族できちんと納得いくように決めていくべきだと言った。

 僕はとりあえず家へ帰り、キャンセルされていなかったお見合いに行った。

 今回のお見合いはなかなかしつこかった。

 断っているのに、とにかくまた会って欲しいと食い下がる。冗談やめてよ、お見合い相手と再度会うなんて外堀埋められるのが目に見えてる。

 思わず「あなたと今後会うことはありません!」と言ってしまった。

 こう言うお見合いは政略結婚を含むから断るときも言葉を選ばないといけない。

 でも僕は限界だった。会社の仕事はちゃんとするから結婚とか番とかはもう放っておいてくれよ…。

 あぁ朔に会いたい。

 月曜日登校する車内で朔の首に顔を押しつけてスンスンと匂いを嗅ぐ。
 朔はベータなのに良い匂いがする。
 アルファやオメガのフェロモンは落ち着かないけど朔は嗅げば嗅ぐほど落ち着く匂い。

 夢中でスンスンしてるとくすぐったいみたいでいつも真っ赤な顔で「ヒャッ」ってかわいい声をだす。

 そんなかわいい声他で出さないでよ。というと
「こんなことするの汐李しかいないよ!」っていつもむくれる。

 かわいいなー朔は。本当にかわいい。閉じ込めたい。そんなことばっかり考えてたからむくれた後で悲しい顔をしていたことに気が付かなかった。

 お見合いを乱暴に断ってから両親は僕にお見合いの話をしなくなった。

 そのかわり仕事を任される量が増え僕はますます多忙になった。

 そんな中でも朔への思いはどんどん強くなり、仕事以外の時間の許す限り僕は朔から離れなかった。

 中学3年生の年末に差し掛かかっていたある日、学校から帰ると第一秘書の高山さんが慌ててやってきて急ぎの仕事が入ったからすぐに会社へ来てほしい言う。

 一応まだ中学生だから学校のある日は仕事は無いはずだった。

 だから珍しいなとは思ったんだ。実際仕事もそこまで慌てる内容ではなかったし。

 まさかそれが朔から僕を引き離すためだったとはその時は思いもよらなかった。

 両親がお見合いをすすめなくなったから油断していたのかもしれない。

 それが両親の作戦だったのだ。僕の意志を尊重したわけではなく、尊重した振りをして欺いた。

 高校の入学式の日、朔が僕の前から姿を消した。

 中等部から高等部に上がるだけだから特に変化もないねーなんて言って昨日別れたのに。
 次の日朔は居なくなってた。

 僕は半狂乱になって朔のお母さんに詰め寄った。

 おばさんは一先ず落ち着きなさいと僕をギュッと抱きしめてから椅子に座らせた。
 そしてお茶を淹れてくれた。
 お茶はとても美味しくて僕の心はだんだん落ち着いてきた。

 朔は全寮制の高校に進学したこと。

 それは僕の近くにこれからも居られるようにするために必要なこと。

 汐李にオメガとして幸せになってほしいと思っていること。

 汐李だけでなく汐李の家族も幸せになってほしいと思っていること。

 そこまで言っておばさんはため息をついた。
「汐李くんと朔が思い合ってるのは気付いてた。汐李くんからしてみたら朔との身分やバース性の差は些細なことで守り切れると思ったかもしれない。でも朔にしてみたらこれらの差はとてつもなく大きくて乗り越えるには沢山の代償がついてきてしまうと思って悩んだと思うのよ。」

 おばさんは朔がこれからも僕の近くにいるために離れたって言ってたけど恐らく朔はもう僕のところへ戻ってくるつもりはないのだと思った。

とても辛いが朔もよくよく考えて出した答えなんだろう。

とうてい受け入れられないが今はとりあえず朔の気持ちを受け入れる事にした。

 おばさんはうちの使用人をやめて、おじさんと田舎でペンションを始めるんだって。
 きっと僕の両親の身勝手さに呆れちゃったんだと思う。

「ごめんなさい」と謝ったらおばさんは困ったように笑って
「あなたが謝ることじゃない。汐李くんの幸せを祈っているわ。」
 と言って抱きしめてくれた。
 
 それからの高校生活はひたすら勉強と仕事に明け暮れた。

 しばらくして三枝もうちの高校にいないことに気がついた…けど朔のことしか考えていなかった僕にはどうでも良いことだった。

 朔は僕の全てだった。
 
 しばらくしてほとぼりが冷めたと思ったのか両親はまたお見合いを勧め始めた。

 そんな両親にもう僕は心を開かなくなった。

 両親と話すのは仕事のことのみで、第一秘書の高山さん経由で話す事も多く会話はほとんどなくなった。

 僕から朔を離せばなんとかなるとたかを括っていたようで随分狼狽えているようだが知ったことじゃない。

 結婚以外の最低限の義務だけは果たす事にきめた。

 仕事の面では誰にも文句は言わせないように頑張る!伴侶がいないから頼りないなんて言わせない!

 朔の隣に堂々と立てる男になって迎えに行くから!朔が誰かに取られちゃう前に急がないと!
 待っててね!朔!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

モブオメガはただの脇役でいたかった!

天災
BL
 モブオメガは脇役でいたかった!

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

処理中です...