Waning Moon

椎奈風音

文字の大きさ
上 下
2 / 3
Waning Moon

第一話

しおりを挟む
「なぁ、柚月ゆづきもやろうぜ。絶対面白いって!!」
 中学の時から同じクラスの悪友が、見ろとばかりにスマホの画面を押し付けてくる。
 俺は嫌々、スマホの画面を見た。
 何かのゲームが起動されているらしく、画面には一面緑色の草原が映し出されている。

「……俺、あんまりゲームに興味がないんだけど」
 俺は押しつけられたスマホを本来の持ち主に返した。
「そんなこと言わずにさ~。ちょっと登録するだけでいいからさ」
「はぁ?絶対に嫌だ」
 俺には何故そんなに熱心に勧めてくるのかわからずに、あっさり断った。

「柚月~。そう言わずにさ~。ここは一つ人助けだと思って」
「人助け?」
「そう。友達を紹介すると貰えるアイテムが、マジで激レアでどうしても欲しいんだ。クラスの奴らもみんなこのゲームやってるから、誘えるのって柚月くらいしかいないし」
(そういうことかよ)
 
「なぁ、頼むよ。柚月~」
 尚も諦めない悪友に、ため息をつきたくなる。
(まるで、スッポンみたいな男だな)
 一度噛み付いたら、絶対に離さないだけにタチが悪い。

「絶対に面白いのは保証するからさ。現にクラスの奴らもほどんどやってるし」
 確かに悪友の言う通り、今クラスでは『Waning Moon』というスマホゲームが流行っている。
 ゲームに興味がない俺は、そのゲームがRPGということしか知らない。
 今まで悪友から嫌というほどゲームの内容を聞かされてきたが、聞く気のなかった俺は全くと言っていいほど内容を覚えていない。

「だからって、それがゲームをやる理由にはならないだろ?」
「…………」
 悪友は観念したのか、黙り込んだ。
 俺は毎回繰り返される不毛な会話にうんざりしながら、これ以上付き合っていられないとばかりに、帰り支度を始めた。

「……ん?」
 制服のズボンのポケットに入れていたスマホが急に震えた。
 画面には新着メールが一件。
 開くと……。


「はは……」


 思わず乾いた笑いが漏れる。
 転んでもただでは起きないと思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。

「大概しつこいな、お前」
「俺の情熱、わかってくれた?」
 ……嫌というほどな。
 心の中で突っ込んで、改めてスマホを見る。

 メールの送信者は、もちろん目の前の悪友。
 本文には『登録よろしく』という言葉の後に、どこかのサイトのURLが載っている。
 妙に静かだと思っていたら、これを打っていたのか……。
(とうとう実力行使に出てきたか……)
 その無駄な情熱を他の所で使えと言ってやりたい。

「……ということで柚月。お膳立てもしたことだし、登録よろしく」
 押し売りみたいなことをしておきながら、よく言うと思う。
「もし今日中に登録しない場合は……」
「登録しない場合は……?」
 変な所で言葉を切った悪友に、嫌な予感がする。
 俺の視線に気付いた悪友が、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「もし俺の言う通りにしなかったら……」
「しなかったら……?」

「お前が登録するまで、メールを送り続けてやる」

(マジか!?)
 それは迷惑メールよりタチが悪いぞ!?
 いっそのこと受信拒否にでもしてやろうかと思った矢先に、悪友が先手を打ってくる。
「ちなみに受信拒否や着信拒否をした場合は、お前の家にかけるからな」

 流石、中学の時からの付き合いだ。
 やることに抜かりがない。
 コイツはうちの番号も知っているし、家族と住んでいるから居留守も使えない。
 俺はため息をついて、渋々サイトを開くことにした。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる

帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中 都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した 「…母さん…父さ、ん……」 どうか 生まれてきてしまった僕を 許して 死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、 見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。 これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、 転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

ヴェリテ〜賢竜帝様の番は過ちを犯し廃嫡されて幽閉されている元王太子で壊れていました

ひよこ麺
BL
賢王と慕われる竜帝がいた。彼が統治してからの500年の長きに渡りポラリス帝国は繁栄を極めた。そんな素晴らしい竜帝にもひとつだけ問題があった。 彼は妃を迎えていなかった。竜人である竜帝には必ず魂の伴侶である番が存在し、歴代の竜帝も全て番と妻として迎えていた。 長命である竜人であるがゆえにそこまで問題視されてはいなかったが、それでも500年もの長い間、竜帝の番が見つからないのは帝国でも異例な事態だった。 その原因を探るために、数多手を尽くしてきたが、番の行方はようとしてしれなかった。 ある日、ひとりの男が竜帝の元を訪れた。彼は目深にローブを被り、自らを『不死の魔術師』と名乗るとひとつの予言を竜帝に与えた。 『貴方の番は、この1000年不幸な運命に翻弄され続けている。それは全て邪悪なものがその魂を虐げて真実を覆い隠しているからだ。番を見つけたければ、今まで目を背けていた者達を探るべきだ。暗い闇の底で貴方の番は今も苦しみ続けているだろう』 それから、ほどなくして竜帝は偶然にも番を見つけることができたが、番はその愚かな行いにより、自身の国を帝国の属国に堕とす要因を作った今は廃嫡されて幽閉されて心を壊してしまった元王太子だった。 何故、彼は愚かなことをしたのか、何故、彼は壊れてしまったのか。 ただ、ひたすらに母国の言葉で『ヴェリテ(真実)』と呟き続ける番を腕に抱きしめて、竜帝はその謎を解き明かすことを誓う。それが恐ろしい陰謀へつながるとことを知らぬままに……。 ※話の性質上、残酷な描写がございます。また、唐突にシリアスとギャグが混ざります。作者が基本的にギャグ脳なのでご留意ください。ざまぁ主体ではありませんが、物語の性質上、ざまぁ描写があります。また、NLの描写(性行為などはありませんが、元王太子は元々女性が好きです)が苦手という方はご注意ください。CPは固定で割と早めに性的なシーンは出す予定です、その要素がある回は『※』が付きます。 5/25 追記 5万文字予定が気づいたらもうすぐ10万字に……ということで短編⇒長編に変更しました。

僕と愛しい獣人と、やさしい世界の物語

日村透
BL
ゲーム世界を現実のように遊ぶことが一般的になった時代、 僕はとある事情から配信停止中のゲームを調査することになった。 その世界の住民はすべて、獣の耳と尾を持つ獣人。 しかし依頼してきたこの担当者、なんか信用ならないな…… と思いつつ、多くの異変が発生中の世界にダイブ。 小型の兎族レンとして活動するうちに、なんと狼族の男に惚れられてしまい、 しかも自分まで好きになってしまってどうしたらいいんだ。 思い悩む僕だったが、現実世界に戻った時、指には彼からもらった誓いの指輪が輝いていた。

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり… 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

処理中です...