Voice

椎奈風音

文字の大きさ
上 下
8 / 21
旋律

第三話

しおりを挟む
「そういえば、藤堂って『ヴォイス』が好きなの?」
 たまたま帰り道が同じだったため、一緒に帰りながら、さっき気になったことを訊いてみる。
「ああ。初めて聞いた時はマジで鳥肌がたったよ」
「そんなもん?」
 確かに綺麗な音色だとは思うけど、それ以上の感情は湧かない。

「正直、凄いと思ったよ。なんか切なくて泣きたくなる感じ。一度あの『音』を聞いてしまったら、他の物じゃ代わりにならないよ」
 その感覚ならなんとなくわかる。
 俺にとってそれはあのCMの声だ。
 たった一言で、俺を捕らえて離さない……。
 代わりなんか考えられないくらい強烈に惹かれている。

 (会いたい……)

 あの声の主に。
 ……でも。

「藤堂は会いたいと思う?『ヴォイス』を作った人に」
 同じようにCMという実体のない物に惚れ込んでる藤堂に、訊いてみる。
「そうだな。会ってみたい。俺は『ソウ』が作る音に惚れてるから、きっと本人に会ったらもっと惚れてしまうと思う」
「顔も性格もわからないのに?」
「確かにそうだけど、『ソウ』が作った作品は『ソウ』の一部だろ?だから本人に会ったら、絶対俺は惹かれると思うよ」

 自分と藤堂は似ている。
 俺も顔も性格もわからない声の主に会ったら、好きになってしまうかもしれない……。


「あ、ここ俺の家」
 住宅街の中にある高層マンションの前で藤堂は立ち止まった。
(えっ?ここ?)
 そこは俺の家の真向かいのマンションだった。
「ここに引っ越して来たのか?」
「ああ。最上階に住んでる」

(マジかよ!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

失声の歌

涼雅
BL
……声が出ない それは唐突に俺を襲った いつもは当たり前にできたこと それが急にできなくなった 暗闇に突き落とされて、目の前なんて見えなくなった うるさい喧騒の中でひとつだけ、綺麗な音が聴こえるまでは

処理中です...