秘密の関係

椎奈風音

文字の大きさ
上 下
10 / 68
入学式は大波乱!

第三話

しおりを挟む
「どうしたの?塔哉?」
「暁ちゃん!」
 声がした方を振り向くと、暁ちゃんが立っていた。
「兄貴達と一緒じゃなかったの?」
 不思議そうな顔で尋ねられ、僕は今までのいきさつを話した。
 すると、暁ちゃんは深いため息を吐いた。

「本当に兄貴達は頼りにならないなぁ。塔哉のこと任せるんじゃなかったよ」
「別に兄ちゃん達が悪いんじゃなくて、僕がぼぉ~としてたから……」
「塔哉、お前は本当にいい子だな!!」
 僕が言い終わらないうちに、暁ちゃんががばっと抱きついてきた。

「ちょっと……。暁ちゃん!」
 僕は必死で暁ちゃんの腕を振りほどこうとしたが、見た目より力があるのかびくともしない。
 どうしようもないので、しばらく暁ちゃんの腕の中にいることにした。
 でも、こんな人目のある所で、男同士で抱き合ってるのって、傍から見たら変だよね……?

「暁ちゃん!離れてよ。…僕、恥ずかしいよ」
 周りの人の興味深げな視線が、気になって仕方ない。
「大丈夫!誰も見てないって」
 暁ちゃんは、全然離してくれる素振りを見せない。

 それにしても……、こんなに注目されているのに、「見られてない」って、暁ちゃんって意外に神経図太いのかな?

「まぁ、冗談はさておき……」
 暁ちゃんは、今まで僕に抱き付いていたのが嘘みたいにあっさり離れた。
「はぁ?」
(今のって、冗談だったの?)
 今までの僕の苦労はなんだったんだ!!
 暁ちゃん、イタズラがすぎるよ!

「暁ちゃん!いくら僕でも怒るよ!」
 僕は暁ちゃんを軽く睨んだ。
「ごめんね?あんまり塔哉が可愛いから、からかいたくなったんだ」
 暁ちゃんがにこっと極上な笑みを浮かべて僕を見た。

「暁ちゃん……」
 昔から僕はこの笑顔を見てしまうと、本気で怒れなくなってしまう。
(仕方ないなぁ)
 なんか上手く乗せられた気がしなくもないけど……。

「そろそろ体育館に行こうか」
 暁ちゃんが僕を促した。
 僕は暁ちゃんと並んで歩き出した。

「塔哉、正門から入ってきたんだろ?よくこんな所まで来たなぁ」
「もしかして、体育館とは正反対?」
 不安に思って聞いてみると、暁ちゃんは苦笑しながら頷いた。
(やっぱり僕って、救いようのない方向音痴なんだ……)
 僕はため息を吐くことしかできなかった。
しおりを挟む

処理中です...