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とある研究員の軌跡
とある新米研究員が今日という日をなんとか終えるまで(1)
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面談室から真鍋さんと共に研究室に戻り、研究室の周りを見てみる。特に異常は無さそうで、黙々と研究を進めているようだ。笹部さんに関しても、私が出る前に言った作業は終わっているのか、残っている研究を進めている途中のようだった。
ついでにあの子の様子も見てみる。見たところ、私が出る前と変わらず丸まって眠っているようだ。でも、心なしか私がいなくなってから寂しそうにしているように見えた。
「リーダー、ようやく戻りましたか」
あの子のことを見ていて気付かなかったが、笹部さんが私のところまで近づいていた。
「笹部さん、お疲れ様です。バイタ……」
「バイタル値のフラグ化の件ですよね。そんなの早く終わりましたよ。時間が空くのは勿体ないので残っている研究を進めていましたが、待っていた身としては来るのが遅すぎるように感じて仕方なかったですよ」
そういうと笹部さんは紙束を私に手渡した。中身を確認すると、バイタル値の変化の模様を示したグラフだということが分かった。
「ありがとうございます。……う~ん、見る限りだとやっぱり結構振れ幅が大きいですね」
「まあ、そうでしょうね。愛情を注げばそうもなるんじゃないですかね」
笹部さんは冷たくそう言った。なんとも興味はないと言わんばかりに聞こえる。
「なら、これは一般の生物と何ら変わらない反応と見ていいかもしれないですね。笹部さんから見て、何か気になった点はありませんか?」
「いえ、特にはないですね。血圧の高まり方は見ての通り、最初に出会った警戒心の高まりで一気に上がり、リーダーがハグした時にはさらに上がりだして、段々と安心感を得て降下した……、と言ったところでしょうか。まあ、強いて言うならば、人間とそんな大差ないかもしれないってところですかね。雪男を捕まえても同じ反応になるかもしれませんよ。もしこちらで収容されることがあれば一度試してみては?」
嫌味を含めながら鼻で笑っていた。その態度に少しばかり怒りが湧いてきた。
「あの、笹部さん。何か私に言うことがあれば言ってみてはどうですか。私は出来が良くないかもしれませんが、それでも今はリーダーです。チームの話を聞くのもリーダーの努めですから、言いたいことがあれば私は受け止めます」
笹部さんは私のことを白けた目で見ながら言った。
「……では言わせてもらいます。正直、リーダーのやり方は強引過ぎます。研究者はマッドになるべきだと思っているんですか? 今回の実験で成功して得られた結果は確かに少なくとも糧には出来るものであったでしょう。しかし、こんな微妙な成果で満足されては困ります。こちらが担当した作業なんて簡単でしたし、そこから生物学的な知識や資料を見るまでもありませんでした。強いて得たとすれば我々人間と変わらない反応を持っていることだけ。そこに大きな発展なんてない。それなのにあなたは……」
「ちょちょっ! 一回落ち着きましょうよ、笹部さん! 聞いた話だと、有田さんは初のリーダーらしいですよ? それなら初めてにしては上出来ではないですかねぇ?」
真鍋さんが現状の悪い空気に耐えられなかったのか、慌てて私と笹部さんの間に割って入った。正直助かるけど、そんなんじゃあ……。
「真鍋さん、あなたはリーダーの肩を持つということですね?」
「えぇと……。はい、そうです。確かに割り振りは下手ですし、実験を考えるのも下手くそです。でも、何か大きなものを得ようとする野心を持っていることは良いことだと私は思います。今回はそこまで大きい成果ではないと、笹部さんは今まで他の未確認生物の研究を見ていたからそう感じただけかもしれないですが、今回のはこれで正しかったと思います!」
サラッと私の悪口が入っていたけど、私は気にせず笹部さんの目を見る。
「笹部さん、恥ずかしい話ですが、私はまだ新米の状態でリーダーに選ばれました。言い訳のように聞こえますが、リーダーとしての心得もまだ確立していません。ですが、皆さんとやっていこうと、皆さんを信用しようという気持ちは持ち合わせているつもりです。だから、今回の件で何か気に食わない部分があったのでしたら謝ります。すみませんでした」
私は笹部さんに頭を下げた。頭を下げる必要なんてもしかしたらなかったかもしれないが、それでも今後もチームとしてやっていくという覚悟を見せるために、そして闇雲にリーダーの業務を務めていたことについて、私はどんな形であれ謝罪したかった。それが今この瞬間だと私は思った。
「頭を上げてください。そんなことをされても迷惑です」
笹部さんから冷たい声が聞こえ、私は頭を上げた。笹部さんの顔は明らかに呆れた様子だった。
「別に謝罪などは要りません。必要なのはリーダーとしての心構えです。あれでリーダーをやっていますという雰囲気を出しているのは見ていてイライラしてきますので」
笹部さんはそう言い放つと私から背を向けて、自身の持ち場に戻っていった。
「笹部さん、多分リーダーの実験が上手くいったのがきっかけで怒りたくなったと思いますよ。リーダーのあの実験のことは無謀で馬鹿馬鹿しいと思っていたように感じましたし、それが成功して調子乗ったと思えばイライラしちゃう気持ちも分からなくはないですね。後は研究の割り振りも正直ぬるいのが多かったから我慢の限界が来たって感じだと思いますよ」
隣にいた真鍋さんがこっそりと私に色々と笹部さんの心境を教えてくれた。しかし、その話しを聞いていて、なんだか少し私のことを貶しているのではないかと感じてしまった。
「やっぱりこんなポッと出のリーダーはダメですよね……。何をやるべきかの指示も未だに理知的には感じないですし、研究の内容が的を射ているものかどうかも分からないですし……。さらにはリーダーなのに皆さんのことをあまり信頼していないように見られているのは致命的ですよね……」
「有田さん、そう落ち込まないでくださいよ。正直、上層部は何を考えて有田さんをリーダーに仕立て上げたかは分からないですが、頑張っていることは伝わっていますから。ね? だから、元気出していきましょうよ」
やっぱり言葉に毒を感じる。さっきまであの子のために説得しようと考えていた自分がいなくなってしまっていた。こんなんでやっていけるのだろうか。私はフラフラと歩き、真鍋さんに支えられながら、大型テーブルまで足を進めた。
ついでにあの子の様子も見てみる。見たところ、私が出る前と変わらず丸まって眠っているようだ。でも、心なしか私がいなくなってから寂しそうにしているように見えた。
「リーダー、ようやく戻りましたか」
あの子のことを見ていて気付かなかったが、笹部さんが私のところまで近づいていた。
「笹部さん、お疲れ様です。バイタ……」
「バイタル値のフラグ化の件ですよね。そんなの早く終わりましたよ。時間が空くのは勿体ないので残っている研究を進めていましたが、待っていた身としては来るのが遅すぎるように感じて仕方なかったですよ」
そういうと笹部さんは紙束を私に手渡した。中身を確認すると、バイタル値の変化の模様を示したグラフだということが分かった。
「ありがとうございます。……う~ん、見る限りだとやっぱり結構振れ幅が大きいですね」
「まあ、そうでしょうね。愛情を注げばそうもなるんじゃないですかね」
笹部さんは冷たくそう言った。なんとも興味はないと言わんばかりに聞こえる。
「なら、これは一般の生物と何ら変わらない反応と見ていいかもしれないですね。笹部さんから見て、何か気になった点はありませんか?」
「いえ、特にはないですね。血圧の高まり方は見ての通り、最初に出会った警戒心の高まりで一気に上がり、リーダーがハグした時にはさらに上がりだして、段々と安心感を得て降下した……、と言ったところでしょうか。まあ、強いて言うならば、人間とそんな大差ないかもしれないってところですかね。雪男を捕まえても同じ反応になるかもしれませんよ。もしこちらで収容されることがあれば一度試してみては?」
嫌味を含めながら鼻で笑っていた。その態度に少しばかり怒りが湧いてきた。
「あの、笹部さん。何か私に言うことがあれば言ってみてはどうですか。私は出来が良くないかもしれませんが、それでも今はリーダーです。チームの話を聞くのもリーダーの努めですから、言いたいことがあれば私は受け止めます」
笹部さんは私のことを白けた目で見ながら言った。
「……では言わせてもらいます。正直、リーダーのやり方は強引過ぎます。研究者はマッドになるべきだと思っているんですか? 今回の実験で成功して得られた結果は確かに少なくとも糧には出来るものであったでしょう。しかし、こんな微妙な成果で満足されては困ります。こちらが担当した作業なんて簡単でしたし、そこから生物学的な知識や資料を見るまでもありませんでした。強いて得たとすれば我々人間と変わらない反応を持っていることだけ。そこに大きな発展なんてない。それなのにあなたは……」
「ちょちょっ! 一回落ち着きましょうよ、笹部さん! 聞いた話だと、有田さんは初のリーダーらしいですよ? それなら初めてにしては上出来ではないですかねぇ?」
真鍋さんが現状の悪い空気に耐えられなかったのか、慌てて私と笹部さんの間に割って入った。正直助かるけど、そんなんじゃあ……。
「真鍋さん、あなたはリーダーの肩を持つということですね?」
「えぇと……。はい、そうです。確かに割り振りは下手ですし、実験を考えるのも下手くそです。でも、何か大きなものを得ようとする野心を持っていることは良いことだと私は思います。今回はそこまで大きい成果ではないと、笹部さんは今まで他の未確認生物の研究を見ていたからそう感じただけかもしれないですが、今回のはこれで正しかったと思います!」
サラッと私の悪口が入っていたけど、私は気にせず笹部さんの目を見る。
「笹部さん、恥ずかしい話ですが、私はまだ新米の状態でリーダーに選ばれました。言い訳のように聞こえますが、リーダーとしての心得もまだ確立していません。ですが、皆さんとやっていこうと、皆さんを信用しようという気持ちは持ち合わせているつもりです。だから、今回の件で何か気に食わない部分があったのでしたら謝ります。すみませんでした」
私は笹部さんに頭を下げた。頭を下げる必要なんてもしかしたらなかったかもしれないが、それでも今後もチームとしてやっていくという覚悟を見せるために、そして闇雲にリーダーの業務を務めていたことについて、私はどんな形であれ謝罪したかった。それが今この瞬間だと私は思った。
「頭を上げてください。そんなことをされても迷惑です」
笹部さんから冷たい声が聞こえ、私は頭を上げた。笹部さんの顔は明らかに呆れた様子だった。
「別に謝罪などは要りません。必要なのはリーダーとしての心構えです。あれでリーダーをやっていますという雰囲気を出しているのは見ていてイライラしてきますので」
笹部さんはそう言い放つと私から背を向けて、自身の持ち場に戻っていった。
「笹部さん、多分リーダーの実験が上手くいったのがきっかけで怒りたくなったと思いますよ。リーダーのあの実験のことは無謀で馬鹿馬鹿しいと思っていたように感じましたし、それが成功して調子乗ったと思えばイライラしちゃう気持ちも分からなくはないですね。後は研究の割り振りも正直ぬるいのが多かったから我慢の限界が来たって感じだと思いますよ」
隣にいた真鍋さんがこっそりと私に色々と笹部さんの心境を教えてくれた。しかし、その話しを聞いていて、なんだか少し私のことを貶しているのではないかと感じてしまった。
「やっぱりこんなポッと出のリーダーはダメですよね……。何をやるべきかの指示も未だに理知的には感じないですし、研究の内容が的を射ているものかどうかも分からないですし……。さらにはリーダーなのに皆さんのことをあまり信頼していないように見られているのは致命的ですよね……」
「有田さん、そう落ち込まないでくださいよ。正直、上層部は何を考えて有田さんをリーダーに仕立て上げたかは分からないですが、頑張っていることは伝わっていますから。ね? だから、元気出していきましょうよ」
やっぱり言葉に毒を感じる。さっきまであの子のために説得しようと考えていた自分がいなくなってしまっていた。こんなんでやっていけるのだろうか。私はフラフラと歩き、真鍋さんに支えられながら、大型テーブルまで足を進めた。
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