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とある研究員の軌跡

とある大学生が研究員になるまで(4)

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 エレベーターという閉鎖されている空間の中で、私の中に恐怖心が芽生えていた時に、唐突にチンッと音が鳴った。どうやらエレベーターが目的の場所まで辿り着いたようだった。それにより、エレベーターの扉がゆっくりと開かれた。
 エレベーターが開かれた先を見てみると、広めな廊下が左右に伸びており、エレベーターのちょうど目の前には大きめの扉が見えた。
 私がキョロキョロとエレベーターの先を見回していると、胡散臭そうな人が口を開いた。
「失礼。そういえば、名乗っていませんでしたね。私はニコライ。あなたと同じ研究員で、ここの案内役ですよ。まあ、今回だけなんですがね。私のことは『プロフェッサーニコライ』でも『ドクターニコライ』でも好きに呼んでください。『ニコライ教授』の方が馴染みやすかったら、その名でも結構です。まあ、一緒に作業をするかどうかは分かりませんがね」
 ニコライ教授はクククと笑いながら、私より先にエレベーターを降りた。私も置いていかれないように慌ててエレベーターを降りて、ニコライ教授の後ろについていく。
「黒服のあなたたちはもう持ち場に戻って大丈夫ですよ。ここまで新人を送っていただきありがとうございます」
 ニコライ教授がそう言うと、黒服達はエレベーターを降りて、ニコライ教授に礼を言った後に右側を目指してどこかに去っていった。その時に私は黒服達の行く末を見ていたけど、ふとニコライ教授に目を戻そうとしたら、既にニコライ教授が左側の廊下を少し進んだ先にある扉の前で私を見ながら待っていた。
 私はそんな遠くに行っていたことに気付かなかったので、駆け足でニコライ教授のところまで向かった。
「あなた、物珍しいのは分かりますがキョロキョロし過ぎですね。そんなことじゃあ、この場所を出たとしてもやっていけませんよ。と言っても、出ることは出来ないかもしれないですけどね」
 ニコライ教授がまたクククと笑い出す。ニコライ教授の意味深な笑いや、この異様な作りをしている施設の設計から考えるに、やはりこの研究所は大学で説明があったように一般の人とは絶対に関わることはない施設なんだなと思ってしまった。
「あの、ニコライ教授。私はここの研究員として働くということはもちろんのこと、ここがどのような場所であるかはお聞きしています。ですが、ここの研究所の外は何があっても出ることは出来ないのでしょうか。さすがに買い物をしたり、実家に帰ったりはしたいのですが……」
 ニコライ教授はドアノブを捻って扉を開ける。扉を大きく開けた時にニコライ教授は私の方へと振り向いた。振り向いたその顔は妙に笑っており、しかしその中にはまるで可哀そうなものを見ているかのような雰囲気を感じた。
「あなたはどこまで話しを聞きましたか? まさか、それだけではないでしょうね?」
「いえ、他には特殊な動物実験や観察、他には化学製品の開発を行っていることや、治安維持のために活動をしているというお話しもお聞きしています。例えば、動物保護や具体的なものだと危険組織を撲滅するために催眠作用があるガス兵器の開発を行っている、と言ったところでしょうか」
「フゥ~ン。やはりそうですか……」
 ニコライ教授が不敵な笑みを浮かべて、扉の先に向き直って歩き出す。私もニコライ教授に続いて扉の先へと進む。その先は長い廊下があり、あの円状の空間から出てくる景色には思えず呆気にとられてしまった。
「すみませんねぇ。どうやら、あなたに説明した職員はよほど部外者に聞かれることを恐れていたみたいですね。これではちゃんとした説明など出来るわけがない。これからのあなたの顔を見るのが楽しみになりましたよ。案内役を買って出て良かった」
 クククと笑う声と二人の靴音が廊下に鳴り響く。この一連の流れから、私はニコライ教授のことが苦手になった。あの人は普通の人ではない。何か別の存在なんじゃないかと思うようになっていた。
 その先からは記憶が途切れ途切れになっている。いや、正確に言えば、突拍子のないことが立て続けに耳に入り、目に入り、鼻に入りと五感の全てに情報を塗り込まれていった感覚で、その量があまりにも多過ぎて、脳がパンクを引き起こしてしまった。
 今となっては仕方ないことだと感じられる。なんせ、未確認生物を確保し、表の世界から隠ぺいすることがこの研究所、『曙光研究所』の本当の目的なんて、大学生の時の私には知れるはずもなかった。

 ここまでが私、有田 真麻(アリタ マアサ)が『曙光研究所』に所属するまでのお話し。
 これからが私が今を生きている物語の始まり。私の奇妙な場所での、研究員としての生活が幕を開けた。
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