サトリ女子と先読み男子

Hi-ライト

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告白しようと思ったら彼の心を読んでしまってこの先どうしたら…

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 心臓をバクバクさせながら、誰もいない体育館裏でただただ待つ。私の一世一代の大勝負、ここで頑張らねばいつ頑張るか。ひたすらにソワソワして落ち着かなくなっている。どうしよう。大丈夫かな。成功するかな。そんな考えが頭の中でぐるぐるしている。
 私、真中 実理(マナカ ミノリ)、本日放課後にて、同じクラスで、高校に入学した時からずっと大好きだった先田 昇(サキタ ノボル)君に「愛の告白」というものを伝えたいと思います!
突然のことでビックリしているかと思うけど、何故こんなことになったかを説明します。と言っても複雑なんてことはなく、高校入学の初日に、いきなり道に迷ってしまいまして、そんな中で優しく声をかけてくれて道を教えてもらったという、よく恋の落ち方であるあるな展開にはまってしまいました、はい。
 そんなことがあったので、一年間彼を陰ながら見ていて、段々と好きが高まっていき、ダメモトで「愛の告白」というステージへと誘うラブレターを彼の下駄箱に入れましたとさ。
 新しさが感じられない展開で多分見ている人はこの時点で飽きてしまうだろう。
 正直、私は何度か彼と顔を会わせたり、声をかけたりしていた。例えば、移動教室について伝えたり、宿題の提出をするように言ったり、委員長ムーヴでちょっと小言を挟んで心配したりと、私なりに頑張ってきたつもりでいる。
 彼の反応も悪くなさそうだったし、もしかしたら付き合える可能性があるんじゃないかと期待をしている。
 へ? 勝手に言ってるけど、先田君は私のことを本当は嫌っているかもしれないって?
それはまずあり得ない。断言出来る。だって彼は嫌な顔をしなかったし、私のことを悪くは言ってなかったし、どんな状況でも嫌うような素振りはなかった。
 何? 自意識過剰乙?
 残念ながら、自意識過剰ではないの。ここだけの話、私、相手の心を読めちゃうんです。
 正直これは私の親と昔からの幼なじみしか伝えていない。まさにトップシークレットなの。もちろん、周りにもそのことを隠している。気味悪がられたら居づらくなっちゃうし。
 この力のせいで嫌な声とかが無意識で聞こえちゃうことがあるから嫌だった。人の考えることが嫌で引きこもりになりそうな時もあった。正直、高校に入る前は心を閉ざしていた。だけど、先田君はそんな嫌な考えなんてなかった。純粋に考えて、悪いことは悪い、良いことは良いとちゃんと頭と口を揃えて言える人だった。私は今までに見たことがない人を見たということもあり、さらには優しさを兼ね備えていたのが大きく、彼に惹かれてしまったのだ。
 さて、自分語りはここまでにして、そろそろ心を落ち着けてシミュレーションしときましょう。
ずっと前から好きでした! 付き合ってください!
 やっぱり火の玉ストレートこそ至高よね。眼鏡も良いフレームで且つ可愛い感じのに変えたし、髪も良いシャンプーやリンスで洗って綺麗な黒髪ロングにしてるし、黒髪ロングは彼好みだったはず。これで勝負をかける!

「ごめん、待たせちゃったかな?」
 私が一人でモンモンと考え事をしていると、申し訳なさそうに一人の男子がやってきた。茶髪で少しトゲトゲした感じの髪型、整った顔立ち、部活動のテニスで鍛え上げたやや細マッチョな体、まさしく先田君がやってきた。
 さすがにこれは露骨に説明し過ぎた気がする。白けたらすみません。
 でも、私はみんなにそれとなく説明出来るほど余裕がない状況です。練習はしてきたけど、緊張してきた。


「いえ、全然待ってないですよ。あの、突然下駄箱に手紙なんて入れてすみませんでした。」
 少し申し訳なさそうにし、その中にこれからのことについての覚悟を混ぜて謝る。
 これからが私にとっての本当の戦いが始まる。


(あぁ、これはそこそこ待ってるなぁ。どうしよう、俺が悪いことをしちゃったわけだし、もう少し謝らないといけないような気がするなぁ。)


何故に!? 別にそこまで怒ってるわけでもなし、そんなことしなくてもいいよ! 逆にあんな「放課後来てください」みたいな直球ストレートな手紙を読んでここまで来てくれたことが嬉しすぎるくらいだよ! どうしよう、心の声が聞こえちゃったけど、この状況で告白するのは少し厳しいかなぁって。


(よし、謝り足りないから謝ろう。)


決断が早いよ、先田君!?
私ってそんなに怒っているように見える!?


「やっぱり、結構待たせちゃったよね。ごめん。言い訳はしないよ。待たせるのはよくなかった。ごめんな。」


 わぁぁぁぁ! 謝っちゃったよ!
なんで謝っちゃうの!?
別に怒ってもないし、時間がもったいないとかも思ってないのに!
ちょっと気まずくなるじゃん!


「き、気にしないでください! そんなに長く待ってたわけじゃないので! 5分しか経ってないから!」


(これは気を遣ってるな。でもどうだ? なんか告白っぽいけど……。いや、これは告白だろう。この状況で告白はしづらいだろうな。なんか告白しやすそうな流れを作っておこうか。長く待たせちゃったし、それぐらいはしとかないと。)


いやいや! それは違うよ先田君! 
確かに少し雰囲気とか悪くなったけど、そんなことはしなくてもいいんだよ!? 
それは逆に私がやらなくちゃいけないことだよね!?
人を呼んでるんだから、私の義務よね!?


(でもなぁ、真中さんが雰囲気作る感じな気がするんだよなぁ。俺がなんか言うとややこしくなるかも。とりあえず見守る形にするか。ダメそうなら俺から雰囲気作りを頑張ってみるか。)


私にパスが回ってきそう。
さて、どうやって雰囲気を変えていくか……,


(でも、少し助け舟を出すことは許されるよな。ちょっとなんか言ってみるか。)

「手紙見て来たんだけど、何か話がある感じかな?」


先に出ちゃったかぁ~。ありがとうございます。
なんか、呼び出しておいて、そういうことされると、申し訳ない気分になってくるよ。


(ここから告白って出来るのかな? ちょっと難しそうだし、なんかもう少し雰囲気を変えれる何かがほしい気も……。)


なんだろう、先田君って気を遣うところがあるんだよね。
他の男子にもタオルがなかったら予備を渡すとかしてたし。
それは良いことだと思う。
私はそういうところに惚れました、はい。


「あの、今日呼び出したのはね、えっと…。」
私はモジモジしながら答える。やっぱり何回練習しても慣れないものだ。このままだと心配されてしまうのではないかと少しドキドキしている。


(多分、無難に「ずっと前から好きでした。 付き合ってください」って感じの告白になるんだろうな。しっかりと受け止めなきゃ。)


言っちゃったよぉぉ!
私の告白台詞を言ってしまったよぉ!
なんか言いづらくなってくるよぉ!
どうしよう、そうだ、あれはどうだろうか。


(「一目あったときから好きでした。付き合ってください。」が来るかもしれないな。それも受け止めなきゃ。)


まさかの別で言おうとした台詞を取られた!?
こんなことってある!?
どうしよう、それも言いづらくなっちゃった。どうしよ~。


(さっきから動きがないな。もしかして、雰囲気が悪いか? もう少し盛り上げるべきか?)


なんだろう、段々と私の目的が変わってきた感じがする。
告白をして、吉と出るか凶が出るかって感じを想定してたのに、これだとまるで心を除きながらじゃんけんをしているような……。
いやそれは良くない。
やっぱり正々堂々と勝負して散る!
それが一番良いし、自分に後悔しない!
よし、覚悟は決めた、いざ勝負!


(そういえば、好きです、付き合ってくださいって、他の子にも言われたな。何回か聞いてるから、もし言われたらどんなリアクションをしようか。新鮮味がないリアクションになりそうなんだよなぁ。ちょっと考えておくか。)


そういうのはもっと先に言ってよぉ!
そんな気はしてたけどさぁ!
色んな女子から告白されてるって聞いたけどさぁ!
そりゃないよぉ!
て、私も心を読むのがデフォルトになっちゃってる。
これに頼ったら抜け出せなくなりそう。


(そういえば、さっきから動かないな。もしかして、俺の心を読もうとかしてる感じ? 普通は出来ないと思うけど……)


ついには核心をついてきたぞ!?
そこまで飛躍した考えになるのフツー!?
やっぱり他の人と感性が違うんだね、先田君。


「あの、ごめんなさい、待たせちゃって。ちょっと緊張しちゃって……。」
手汗が酷いことになっている。なんだか、ヌレヌレになってる感じがして堪らなくなってくる。


(やっぱり告白なんだな。そりゃこういうことって緊張するよ。少し待ってあげようか、それとも告白させるきっかけを作って上げた方がいいか、どっちだ?)


イヤイヤ!そんな二択にはならないでしょうよ!?
気を遣う方向が間違ってるよ!
そろそろ恐怖すら感じてきたよ!
どうしよう、どうしよう、もう辞めちゃおうかな。
でも覚悟は決めてきたしなぁ。
もう、どうしようかなぁ~。


(なんか告白やめそうだな。せっかくだし告白しやすいようにしてみるか。)
「真中さん、大丈夫だよ。俺、急いでないから。ゆっくりと落ち着いてからで話してよ。俺は待ってるから。」

その優しさは染みちゃうなぁ。
そうだよね。私、告白するって決めたんだよね。
じゃあ、ここでどうなろうと知らない。
私は一発、勝負に出ます!

「あの、先田君! 私、あなたのことが………」

(告白だな。嬉しいなぁ。会ったときから真中さんと仲良くなりたかったけど、女子と話すと何を話していいか分からないから、自分から言い出しづらかったんだよね。こんなカッコ悪い俺でゴメン。)

「へ?」

 私は変な声を出してしまい、頭の思考が一瞬停止した。告白に集中しても、聞こえてしまうものは聞こえてくる。私はその聞こえてしまうものをたまたま聞いてしまった。
 元から私が好きだったってこと?
これってもしかして、両想いだったってこと?
そういうことだったの?
思考がまた動き出す。そして、私は先田君の顔を見る。先田君は不思議そうな顔をしている。あの顔は一体何事かと疑問に思っている顔だ。それは当然だ。なんせ、告白する瞬間に変な声を出して固まったからだ。これに不思議な顔をするのは無理もない。私の顔は今とんでもなく赤くなっている気がする。なんせ顔が熱いからだ。これは熱と勘違いさせるほどだろう熱さだと自分では思っている。
もう、どうだっていい。告白だけでも繋げる!
私は直立して、息を吸って、ゆっくりと吐いた。その後に先田君にキリッとした如何にも覚悟を決めたであろう顔を見せる。

(急に止まったら、急にまた動き出して、俺の顔を見てくる。もしかして、心を読まれて邪魔しちゃったって感じなのかな? てもそんなことはあり得ないはず……。)

心が読めるとか、そんなことはどうだっていい。
今の勝負に集中する!

「先田君! あなたが好きです! 付き合ってください!!」

私は強く頭を下げた。髪が大きく揺らいだことが分かる。もしかしたら髪型が崩れたかもしれない。でも、それでいい。これをしないと私は先に進めない。心を読んで勝ちが確定したからではない。私の覚悟が今、こうさせている!


(やっぱり告白か。でも、俺の答えは決まっている。)

(ありがとう、こちらこそよろしく。)
「ありがとう、こちらこそよろしく。」


私は顔を上げられない。私は今、嬉しくて、そして恥ずかしくて泣いているからだ。
もっと早く気づいていれば良かったのに。
そこまで考えてくれてたことに気づかなかった。
今まで彼を見ていたはずなのに、心の声は漏れはしなかった。私は自然と心の声だけで答えを導こうとしていたのだ。これは自身の心の弱さが生んだ行動だ。私はそれがとても恥ずかしく感じた。人をまともに見ることが出来なくなっていたということに気づかされた。
 告白に成功したことはとても嬉しい。多分今まで生きていた中で一番に匹敵するほどだ。でも、私は彼の心に土足で上がりこんで、自分のことについて調べるを繰り返した。人を信じなかった。そんな自分に恥ずかしさが襲った。
だからこそ……。

「どうかした? 大丈夫?」
(告白が成功して泣いてるって感じか。落ち着くまで待っていよう。これからのことについて話したいしな。)

私は涙を手の甲で拭い、笑顔を作って顔を上げる。

「大丈夫、ありがとう。もう大丈夫だから……」


自分を改めよう。
私は心の声が聞こえてしまう。
でも、親愛なる人を心の声で値踏みするような、そんな人を信じる心を捨てた人間にはならないようにしよう。
心の声で気を遣うのはいい。ただ、一切私についての心の声が聞こえないからって、その人を疑うようなことはしない。私は親愛なる人を信じれるような人間になる。心の中でそう誓った。


(笑顔だけど、何かを覚悟したような顔になってるな。後で聞いてみようか。)


そうだね。いつか話さないと。
そして、謝らないと。
私は心だけで判断しない。
人として正面で向き合うんだから。
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