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第二章 救いを追い求めて

接近

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 嫌でも人目を引く外装と同じく、店の何もかもがショッキングな色で落ち着きなど全くない。全面がピンクの壁紙で覆われて本が置かれた棚まで黄色に塗られている。

 植物から抽出した染料を使っているらしいこの一室は胸に溜まるようなムッとした匂いが充満している。ついにアマデウスも顔を顰めると奥から老婆が出てきた。

「お客じゃお客じゃ。今日は祝いじゃな」

 イッヒッヒと不気味な笑いを浮かべたかと思うと、その老婆はまた奥まで引っ込んでしまう。声をかけるべきか二人が悩んでいると、すぐにまた戻ってくる。なんと酒の入ったカップ付きで。

 しかも彼女は多めに注いだのであろうそれから酒が零れるのも無視して、横にあった椅子に豪快に座りつつ酒を飲もうとする。しかし丁度飲む直前で、彼女はぎこちなく二人に顔を向けて言った。

「本を買いに来たんじゃろう? 選ばんのか?」

「……」

あまりの対応に言葉が出なくなって沈黙すると、なんじゃ冷やかしかと彼女は酒を一気に飲み干す。ようやく我に返ったディルクは、なんとか彼女が奥の部屋に戻る前に話を切り出す。

「ここは古い本を扱っていると聞いたのだが、古代文字が書かれたものはあるか?」

「ああ。あるぞ。数冊だけだがな。そんなものが欲しいとは酔狂じゃのう。まあワシもじゃが」

 そう言いつつ、彼女はカウンターからよろよろと出てきて、ある本棚の前に行く。店の左手にある本棚にはほとんど人が来ないのか、本棚の上には埃が被っている。

 それは本棚の中の本も例外ではなく、表紙の色もわからないくらいに汚れきったものもあった。彼女はその中の数冊をヒョイヒョイと取って差し出してくる。

 いくつかは埃がついたままの状態だが、彼女にとっては何でもない事らしい。アマデウスがそれを受け取り、口元を抑えつつ埃を払って中を確認する。

 どれもこれも確かに古代の文字が書かれているが、目的のものではない。魔導書は一冊もないのだ。

 ところが中に混じっていた三冊の本は埃を被っていない。保存状態は悪くなく、むしろ良い方だ。彼女が意図したわけではないのは明らかであり、この部屋の状況を鑑みれば不自然だった。それに気付いたディルクが思わず問う。

「おい。この状態が良い本はどこで手に入れた!? 記録とかはないのか?」

「ああ、それらの本は最近手に入れたものじゃな。あー……そうそう、確か茶色の髪を結った細身の男が持ってきたんじゃわ。魔導書なんかも持ち込みおったから、それは突っぱねたんじゃがな。全く、ワシのところに不法な品を持ち込むとは不届き者もいいところじゃ! まあ面倒事は御免じゃから通報はせんかったが」

 聞いてもいないのに色々と話し出す彼女は憤慨しておいでだ。それはともかく聞き捨てならない言葉がある。

「その男は捕まえなくてはならないな。持ち込まれた魔導書はどんなものだった?」

「なんじゃ。あんたもしかして騎士様か? ワシは面倒事は御免じゃと言ったぞえ。帰った帰った!」

 騎士だと知ってもなお態度を変えない老婆は相当肝が据わっているようで、しっしと手を払って二人を追い出そうとしている。見かねたアマデウスは彼女を諭した。

「騎士様に情報を隠すともっと面倒なことになるのだぞ。そうだろう? ディルク殿」

「ああ。最悪捕まえて話を聞くことになるだろうな」

 そう言うと老婆は面倒くさそうに口を歪めて、騎士様はこんなババアにも容赦がないのうと不満を漏らしつつ観念したようだ。わざとらしく溜め息を吐いた後に話し始める。

「あれは何たらの魔導書と書かれておったわ。ワシはそんなに古代文字には詳しくないからそれ以上はわからん。表紙は紫色だった気がするのう」

「ほう……」

 アマデウスは何か思うところがあるようでディルクに意味ありげに目線を送った。それで何かを察したディルクはさらなる情報の入手に努める。

「その男の行方が知りたい。魔導書を取り扱っている店を知っているか? 闇商売になるだろうが」

「そんなもん知ってるわけがないじゃろうが。せいぜい自分で探すんじゃな」

 どうやら話は終わりのようで、老婆は奥の部屋に引っ込んでしまった。どうせまた酒を飲みにいったのだろう。

 かくして重要そうな情報は手に入ったものの、まだ核心にまでは迫れないといったところか。彼らはその男の足取りを追うべく、別の街の店を当たることにした。
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